悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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27話:お願い、アーデン……わたくしの望みを聞き届けて……!

 輸送船サーペント号から射出された三機のマキナが、漆黒の宇宙にそれぞれの航跡を描く。

 前方に展開するのは三機のレイダー。

 後方に陣取るのは、威圧的な巨体を誇る重装甲機。その手前には、連携を組むようにして中量級と軽量級の随伴機が、獲物を待ち構えるように浮遊していた。

 

『……お嬢さん、ファル。敵の布陣を見たか』

 

 ゼインの冷静な声が、通信回線を通じてレタリアの耳に届く。

 

『奥に控えてる重装甲がリーダーだ。だが、今は様子見をしてやがるな。……まずは手前の二機を片付けるぞ。お嬢さん、あの素早そうな軽量級を任せてもいいか?』

 

「承りましたわ! あのようなちょこまかと動くだけの蠅、わたくしが叩き落として差し上げます!」

 

 レタリアは迷いなくアーデンのスラスターを焚いた。ダークパープルの残光が、星の海を切り裂いていく。

 

『よし。ファル、俺が援護に回る。確実にもう一機の中量級を仕留めろ。その後、三人で奥の親玉を叩くぞ!』

 

『分かったわ、親方! 見てなさいよ!』

 

 ◆◆◆

 

 一方、襲撃者側のコックピットでは、一つの驚愕が走っていた。

 軽量級レイダーのパイロットが、接近してくるダークパープルの機体をモニターに捉え、震える声で叫ぶ。

 

『ブ、ブラング! おい、あのマキナ、もしかして……!』

 

 奥に控える重装甲機のリーダー、ブラングが低い声で応じた。

 

『……ああ、間違いない。色は変えてやがるが、あの妙な信号といい、動きといい……俺たち「ブラング団」を二度も壊滅に追い込みやがった、あの「コスプレ女」だ!』

 

 ブラングの指が、操縦桿を力強く握りしめる。

 

『へっ、運が向いてきたぜ。コイツの試運転に、あの女の首は最高の手土産だ! 野郎ども、今の俺様は以前の俺じゃねえ。自警団の精鋭だろうがなんだろうが、今のこの力なら負けはしねえんだよ!』

 

 ◆◆◆

 

 戦場が爆発的に動き出す。

 レタリアは一直線に軽量級機へと肉薄した。敵機は翻弄するように回避運動をとるが、レタリアの瞳にはその「未来」が焼き付いていた。

 

「無駄ですわ! わたくしからは逃げられませんことよ!」

 

 アーデンの速度は軽量級機のそれを遥かに凌駕し、さらにレタリアの魔力的知覚が、敵の逃げ道を完全に塞ぐ。

 軽量級機が右へ旋回しようとした瞬間、そこには既にアーデンの巨大な拳が待っていた。

 

「これは鉄槌ですわよ! ひれ伏しなさいな!」

 

 凄まじい衝撃波。物理的な打撃が装甲を粉砕し、軽量級機は内部機構を激しく火花散らせて沈黙した。

 

『クソッ! 話が違うぞ! 脱出だ、脱出するぞ!』

 

 機体から脱出ポッドが射出され、数拍の後に無惨な鉄屑となったレイダー機が爆散した。

 

 一方、ファルが対峙していた中量級機は手練れだった。

 軽量級機が瞬殺されたことに動揺しつつも、巧みにデブリを盾に使い、ファルの機体と激しい射撃戦を繰り広げている。実力だけで言えばファルを上回るその動きに、ゼインが即座に介入した。

 

『意外にやるな……。ファル、俺のミサイルで奴を誘導する! 奴の逃げる予測先にぶち込め!』

 

『了解!』

 

 ゼインの放った精密誘導ミサイルが、中量級機の退路を断つように炸裂する。逃げ場所を限定された敵機が、反射的に回避行動をとったその先。

 ファルのショルダーキャノンが火を吹いた。

 

『――そこよ!』

 

 直撃。中量級機は火だるまとなり、宇宙の塵へと変わった。

 

 ◆◆◆

 

「あとはあの不細工なリーダーだけですわね!」

 

 レタリアが機体を移動させようとした、その瞬間だった。

 漆黒の宇宙を、無数の閃光が埋め尽くした。

 

『やってくれるじゃねえか、小娘ども! だが、てめえらは俺様の真の力の「前菜」にしてやるぜ!』

 

 ブラングの重装甲機が装備した、巨大な六銃身ガトリングが火を吹いたのだ。

 凄まじい弾丸の嵐。集弾性の低さが逆に仇となり、回避運動をとっていたファルの機体の周囲を網目のように塞ぐ。

 

『きゃっ!? 機体が、姿勢制御が……っ!』

 

 ファル機に次々と衝撃が走る。装甲が削れ、アラートが赤く点滅し始めた。

 

『ファル!』

 

 ゼインが叫び、ロングレンジフォトンライフルをブラングに放つ。

 光速の弾丸が正確にブラング機の胸部へ直撃した。……しかし。

 

『……へっ! そんな豆鉄砲が効くかよ!』

 

 ブラング機はのけぞりながらも、その装甲を貫かせてはいなかった。特殊なコーティングが施された「対フォトン装甲」が、光のエネルギーを拡散させていたのだ。

 

『対フォトン装甲だと!? ……チッ、ならこれならどうだ!』

 

 ゼインがミサイルで追撃するが、ブラングはシールドで致命傷を避けつつ、執拗にファルへのガトリングを止めない。

 ファル機のダメージ係数が危険域に達していく。

 

「ファル……っ!」

 

 レタリアは叫んだ。

 アーデンの出力を全開にし、ファルを救うべく全速力で突進する。

 だが、今の速度でそのまま接触すれば、アーデンの質量と速度がファル機を「押し潰して」しまう。敵機の攻撃から守るどころか、自分の激突が彼女にトドメを刺しかねない。

 

(どうすれば……急に止まれば、間に合わない……! けれど、このままでは……!)

 

 レタリアの脳裏に、最悪の結末が過ぎる。

 その瞬間、彼女の集中力は極限を超えた。彼女の意識と魔力が、トレースモードを通じてアーデンのOSへと伝わる。

 

(お願い、アーデン……! わたくしの望みを聞き届けて……!)

 

 レタリアの意志に応えるかのように、アーデンの駆動音が変わった。

 激突する寸前。

 アーデンは驚くほど繊細、そして精密な動きを見せた。

 凄まじい慣性を殺し、それでいて勢いを失わず、ファル機を優しく抱きかかえるようにして受け止めたのだ。

 

 そのまま、ブラングの放つ弾丸の嵐を紙一重で回避し、デブリの影へと滑り込む。

 

『え……? あ、あんた……』

 

 ファルが驚きに目を見開く。

 機体は損傷しているが、致命的な箇所は守られていた。すぐさまゼインが急行し、ファル機の回収と援護に入る。

 

「……やってくれましたわね」

 

 レタリアの、冷たく鋭い声が通信機から漏れた。

 大切な仲間を(本人はまだ認めないだろうが)傷つけられた怒り。

 そして何より、この美しいアーデンに、これほどまでの「必死」を強いたことへの憤怒。

 

「わたくしの視察の余韻を汚し、友人の命を弄ぼうとしたその罪……万死に値しますわよ、不埒者……!」

 

 アーデンの機体から、魔力が陽炎のように揺らめき立つ。

 レタリア・アーデニアムの瞳は、これまでにない怒りの黄金色に輝いていた。

 

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