悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

3 / 3
2話:ここはなんですのー?しみゅれーたーってなんですのー!?

 ◆◆◆

 

(……ここは……?)

 

 重たいまぶたをゆっくりと持ち上げる。

 体がまだ、自分のものではないように重く、わずかに浮いているような違和感が残っていた。

 

 

 見慣れない天井が視界に広がった。

 

 石造りでも木造でもない。

 つるりとした金属のような、しかし冷たすぎない不思議な素材。

 寝具もふかふかしているのに、どこか均質で、まるで魔法で複製された布のようだった。

 

「……ここは……どこだったかしら……」

 

 ぼんやりとした意識が目覚め始め、昨日の出来事が脳裏に蘇る。

 追放、夜空の中、戦闘、機械人形、そして――

 

(……わたくし、本当に生きているのかしら)

 

 ぼんやりと身を起こすと、部屋の隅に置かれた小さな台の上に、食事らしきものが置かれていた。

 

「……なんですの、これは」

 

 見たことのない形の器。

 見たことのない色のスープ。

 見たことのない……四角いパンのようなもの。

 

(なんだか、囚人みたいですわね……)

 

 食卓も使用人もない、ただ目の前に置かれた食事。

 

 しかし、ふわりと漂ってくる香りは、驚くほど食欲をそそった。

 

「……良い匂いがしますわね……」

 

 恐る恐るスプーンを口に運ぶ。

 

 ――普通においしい。

 

「……悪くは、ありませんわ」

 

 強がりながらも、思わず二口、三口と進んでしまう。

 貴族として高級料理に慣れていたレタリアでも、これは素直に認めざるを得なかった。

 

(……でも、どこか……均質ですわね。いえ、何か違いますわ)

 

 味は悪くない。むしろ良い。

 だが、どこか“整いすぎている”のだ。

 

「……まあ、毒ではなさそうですわね」

 

 食事を終え、部屋を出ようと扉に手を伸ばした――その瞬間。

 

 シュッ。

 

 音もなく、扉が横にスライドした。

 

「……っ!? な、何ですの!? 扉が勝手に……!?」

 

 魔法でも、ゴーレムでもない。

 ただの扉が、自分の意思で動いたようにしか見えなかった。

 

(……ここは、やっぱりおかしいですわ……!)

 

 ◆◆◆

 

 廊下に出ると、そこはさらに異質だった。

 

 金属の壁。

 均質な光を放つ照明。

 どこまでも続く無機質な通路。

 

(……牢獄ではありませんわよね?)

 

 不安が胸をよぎる。

 昨日は「保護する」と言われたが、この荘厳ながらも無機質な空間に圧力を感じた。

 

 そんな中、ふと視界の端に柔らかな色が映った。

 

「……植物……?」

 

 廊下の端に、小さな鉢植えが置かれていた。

 金属と機械だけの空間に、それだけが場違いなほど柔らかく見える。

 

 レタリアは、気づけば足を止めていた。

 

(……わたくしの世界にも、こういう緑がありましたわね……)

 

 胸の奥が、少しだけ痛んだ。

 

 その時――

 

「おはよう」

 

 背後から声がした。

 

 振り返ると、昨日の青年――セルディア自警団隊長、グレインが立っていた。

 

「翻訳機は付けている…ようだね。

 昨日は大変だったな。体調はどうだ?」

 

「……まあ、なんとか。あの……ここはどこなのですの?」

 

「セルディアの隔離スペースだ。身元が分からない者を一時的に保護する場所だよ」

 

(……逃げ場のない場所に、閉じ込められている……そういうことですのね)

 

 グレインは続けた。

 

「昨日の戦闘について、確認したいことがある。

 あの機体に、もう一度乗ってみてもらえないか」

 

「……あの機械人形に、ですの?」

 

「本物じゃない。シミュレーターだ」

 

「……しみゅれーたー?」

 

 聞き慣れない単語に、レタリアは首を傾げた。

 

「模擬戦闘の訓練装置だよ。実際の機体と同じ感覚で操縦できる」

 

「……つまり、あの機械人形ごっこをすればよいのですわね?」

 

「……まあ、そういうことだ」

 

「ちなみに……今日のこの、しみゅれーたー?は痛くないのですわよね?

 昨日はあちこち体をぶつけて、とても痛かったのですけれど」

 

「……ああ、痛くない。安全だ」

 

(……戦闘用マキナのトレースモードで痛いで済むハズがないんだがな……)

 

 グレインの内心の疑問は、レタリアには届かない。

 

 ◆◆◆

 

 シミュレーター室は、さらに異質だった。

 

 ずらりと並ぶコックピットのような装置。

 壁には光るパネル。

 床には見たことのないラインが走っている。

 

「……ここは……本当に訓練場なのですの?」

 

「そうだ。あの装置に乗ってくれ」

 

 レタリアは恐る恐る乗り込む。

 

(……昨日のように暴れたりしませんわよね……?)

 

 装置が静かに起動し、視界が仮想空間に切り替わる。

 

「では、始めるぞ」

 

 ◆◆◆

 

 視界が切り替わる瞬間、足元が消えたような感覚に襲われる。

「なっ……!? 落ちますわよこれ!?」

 

 最初は、何が何だか分からなかった。

 

「ちょ、ちょっと!? また動きますの!? わたくし何もしていませんわよ!!」

 

 しかし――

 

(……来る……!)

 

 直感が脳を貫いた瞬間、レタリアの身体は自然と動いていた。

 

 敵の攻撃を、紙一重で回避する。

 標準機のトレースモードが、レタリアの動きに合わせて補助をかける。

 

「え、ええと……こう、ですの?」

 

 ぎこちないはずなのに、動きは鋭い。

 本人は半分も理解していないのに、スコアはどんどん上がっていく。

 

 目の前の空間から飛来する光の矢、それを感覚だけで躱していく。

 

 そして――

 

「終了だ」

 

 視界が元に戻る。

 

 レタリアは肩で息をしながら振り返った。

 

「……どうでしたの?」

 

 グレインは、表示されたスコアを見て固まっていた。

 

「……これは」

 

「な、何かしましたの?」

 

「……エースクラスだ。正規軍でもそう見ることが無いものだ」

 

「……えーす? 要するに、凄いということかしら?」

 

「……そう、だな。すごい、ということだ」

 

 レタリアは首を傾げた。

 

「そんな大したことはしていませんわ。

 何か感じたら体をこう、バッと動かすだけですもの」

 

 身振り手振りでグレインに動きを見せるレタリア。

 

 どこか得意げに見えなくもないその動きをグレインは眺める。

 

「……」

 

(……被弾判定無し、超人か、エスパーか。いずれにしても、規格外だ)

 

(攻撃は一切しなかった。乗り方自体を知らないのか……?)

 

 グレインは、思わずスコアを記録してしまった。

 

 その瞬間――

 

 シュッ。

 

 扉が開いた。

 

「良いわね、凄く良い」

 

 シミュレータールームに違う香りの空気が運びこまれた。

 グレインが顔を上げる。

 

「イチノセ女史……なぜここに」

 

 入ってきたのは、白衣のような服を着た女性だった。

 鋭い目つきだが、どこか楽しげでもある。

 

「昨日の戦闘データ、ずっと見てたから。

 このスコアが出た瞬間に分かったわ」

 

 彼女の視線が、レタリアへと向く。

 

「あなたが、あの旧型機を動かした子ね」

 

 レタリアは思わず背筋を伸ばした。

 

「……何ですの、あなたは」

 

 女性は微笑んだ。

 

「ミレア・イチノセ。『シンセ・フィブラ社』兵器開発主任よ。

 あなたのこと、少し調べさせてもらうわね」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

小城探偵事務所(作者:無月)(原作:金田一少年の事件簿)

コンビニも、ゲームも、風呂もトイレもある。食事だって慣れた物だし、人種だって変わらない。▼けれど、けして安全とは言い難い世界。しかも、転生先は犯人です。▼でも、まずはお礼が言いたい。▼「コナンワールドじゃなくてありがとう! 神様!!」▼同じ推理物なら無差別に殺される可能性があり、銃刀法が欠片も仕事してないあの世界よりは大分マシ。▼なんか物理法則とか、一部化学…


総合評価:6104/評価:8.84/連載:46話/更新日時:2026年05月25日(月) 06:00 小説情報

異世界でチート美少女になればやり直せると思ってたけど燃え尽きた(作者:暁刀魚)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

どんな人生を送っていても、異世界でチート美少女になればやり直せると思っていた。▼でも実際にそうなった時、ミツキは自分の生き方を変えようとして挫折した。▼そして逃げるように冒険者となった時、気づいてしまったのである。▼力も容姿も手に入ってしまったから、これ以上を望む必要がない、と。▼今の彼女に残っているのは、いかにノンストレスに生きるかということだけ。▼これは…


総合評価:17529/評価:8.83/連載:32話/更新日時:2026年05月14日(木) 18:00 小説情報

某魔法界でFateを布教する奴(作者:爆裂ハンター)(原作:ハリー・ポッター)

【簡易的なあらすじ】▼ビンボー気味な主人公(♂)が金稼ぎのためにFateシリーズを小説という形で執筆する話。▼なお、その小説は後々魔法界に多大なる影響を与えるとか。


総合評価:20940/評価:8.45/連載:10話/更新日時:2026年05月24日(日) 18:45 小説情報

禪院全「全ては僕の為に」(作者:羂索ハードモード)(原作:呪術廻戦)

一九七七年、冬。▼呪術御三家が一つ、禪院家に、一人の『化け物』が産声を上げた。▼その名は禪院全。生まれながらにして規格外の呪力を宿し、父の歪んだ野心という名の呪いを背負わされた少年。▼彼が与えられた生得術式は、他者の術式を根こそぎ奪い取り、己の糧とする禁忌の力――【簒奪呪法】。▼奪うも与えるも思いのまま。才能に恵まれず虐げられる者たちに術式を『禅譲』しては狂…


総合評価:24449/評価:9.04/連載:28話/更新日時:2026年05月25日(月) 12:00 小説情報

FPSのUIが現実に見える俺が、いつの間にか殺し屋になるまで(作者:鳥獣跋扈)(オリジナル現代/冒険・バトル)

大学を出てから定職にも就けず、倉庫仕事とFPSゲームばかりの生活を続けていた青年・二階堂 恒一(にかいどう こういち)。▼彼の人生は、ある日を境におかしくなった。▼ゲームを終え、ふと顔を上げた瞬間――現実の世界に、FPSのHUDのような感覚情報が重なって見えるようになったのだ。▼他人の視線や足音の方向。▼危険が向かってくるアラート。▼――そして、銃を持った時…


総合評価:38912/評価:9.13/連載:41話/更新日時:2026年05月24日(日) 20:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>