悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
輸送船サーペント号が、セルディア管理局の巨大なドッキング・ベイへと吸い込まれていく。
ハッチが開き、ハンガーの床にタラップが下ろされると、レタリア、ゼイン、ファルの三人は、それぞれの愛機を伴ってようやく「日常」へと帰還した。
船から降りた三人を待っていたのは、安堵の表情を浮かべたサーペント号の船長だった。
「皆さん、本当に……本当にありがとうございました! あのままでは、船も乗客もどうなっていたか。これは約束の報酬と、船団からの特別手当です」
手渡された電子チップと、謝礼の詰め合わせを受け取り、レタリアは優雅に会釈した。
「当然のことをしたまでですわ。わたくし、レタリア・アーデニアムの名に懸けて、わたくしの航路を汚す不届き者は許しませんもの」
船長が去った後、ドックの片隅で三人は顔を合わせた。
ファルの機体は、ゼインの応急処置によって動いてはいるものの、装甲は焼け焦げ、関節部からは時折火花が散っている。
「……お嬢さん。改めて、礼を言わせてくれ」
ゼインが、レタリアを見つめた。
「よくファルを助けてくれた、俺じゃ間に合わなかったかも知れん」
「親方の言う通りよ」
ファルが、少し俯きながら言葉を繋いだ。
「……あんたには助けられた、すごかったわ、正直ね」
ファルは顔を上げると、まだ赤みの残る頬を隠すように、レタリアを指差した。
「でも、これで終わりじゃないからね! この借りは、いつか必ず返すんだから!」
「おーっほっほっほ! 良い気概ですわ。宜しくてよ、わたくしの背中を追い続けなさいな!」
高笑いするレタリアの横で、ゼインがやれやれと肩をすくめた。
「なら、まずはその借りを返す前に、そのボロボロのマキナをなんとかしねえとな。そんなガタが来た機体じゃ、何もできねえ」
「あ……。わ、分かってるわよ親方ぁ!」
ファルは慌てて自分の機体へ駆け寄り、ゼインに急かされるようにして去っていった。
「じゃあね、レタリア! 次会う時は、もっと強くなってるんだから!」
「ごきげんよう、ファル! ゼインも、またお会いしましょう!」
手を振って去っていく二人の背中を、レタリアはしばらく見つめていた。
師弟であり、家族のようでもあり、そして互いの命を預け合う「相棒」。
かつてのアーデニアム公爵家では、わたくしの周囲にいたのは、傅く者か、媚びる者か、あるいは排斥しようとする者だけだった。
(……羨ましい、と思ってしまいましたかしら)
ふと胸を掠めた、小さな羨望。
だが、レタリアはすぐに自嘲気味に首を振った。自分には、今この世界で繋がっている人々がいる。
「……そうですわね。わたくしにも、口うるさいミレアや、騎士のグレイン、そしてお友達のステシアさんがおりますもの」
それはかつての自分が持っていた「上下関係」とは違う、歪で、けれど不思議と居心地の良い関係。
レタリアは満足げに頷くと、自分専用に用意された、シンセ・フィブラの秘匿ドックへとアーデンを移動させた。
◆◆◆
専用ハンガーにアーデンを格納し、コックピットから降りた瞬間。
それまでの緊張が解け、レタリアは足元がふらつくのを感じた。
「……あ、流石に疲れましたわね。やはり『とれーすもーど』の使いすぎは、たしなみとして……」
「お疲れ様。随分と派手な初遠征になったわね、レタリア」
聞き慣れた声に顔を上げると、そこには端末を片手に歩み寄ってくるミレア・イチノセの姿があった。
「ミレア! お出迎えですの? 感心ですわね」
「……データの受信状況から、あなたが無茶をしたのは分かってたわ。視察はどうだった? 少しは、外の事が分かったかしら?」
ミレアの問いに、レタリアは一度目を閉じ、クラネアでの出会いや、宇宙での激闘を思い返した。
「……おもしろ……いえ、興味深かったですわね! わたくしの深い教養をより高めるのに、大いに役立ちましたわ!」
「そう。……なら良かったわ。まずはゆっくり休みなさい。あなたのコンディション調整も、私の大事な仕事なんだから」
ミレアの言葉は、相変わらず事務的な響きを含んでいたが、その奥に潜む「気遣い」を、今のレタリアは感じ取ることができた。
「ええ、そうさせていただきますわ。……ミレア、あなたも約束通り、早くお眠りなさいな?」
「……善処するわよ。おやすみなさい、レタリア」
◆◆◆
レタリアが居住区へと去った後。
ミレアは一人、静まり返ったラボのメインモニターに向き合っていた。
「……さて。レタリアが休んでいる間に、データの精査を終わらせましょう」
モニターに映し出されたのは、戦闘中のアーデンが記録した、レイダー『ブラング』機の挙動データだ。
最初は通常のレイダー機としての動き。だが、戦闘の中盤から、その挙動に「異常」が混じり始めている。
「……おかしいわね。この追従性能の向上、FCSの補正だけじゃないわ。機体構造の限界を超えて、パイロットの『思考』がダイレクトに反映されているような……」
ミレアは眉をひそめ、データの波形を拡大する。
ブラング機の挙動は、まるでレタリアの反応を模倣しようとしているかのような、不自然な反射を見せていた。しかし、その背後にある「負荷」のデータは、レタリアのものとは明らかに異質だった。
「……脳波で操作している? レタリアのアーデンにもそんな兆候が……」
アーデンの戦闘データも確認する。
出ているログは別物だ、だが、似ている。
「エスカド……」
解析を続けるミレアの背後で、マシンの駆動音だけが静かに響き続けていた。
レタリアが勝ち取ったささやかな勝利の裏で、何かが蠢く気配がした。