悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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33話:捉えられるものなら、捉えてご覧なさいな!

 シミュレーターが展開した仮想空間は、静寂と暴力が同居する小惑星帯だった。

 無数に浮遊する岩礁。入り組んだ地形。巨大なガス惑星の重力に縛られたデブリたちが、レタリア・アーデニアムの視界を複雑に遮る。

 

『行くぞ、レタリア。手加減は無しだ』

 

 通信越しに響くグレインの声。それと同時に、彼が駆る『シュエル』が動いた。

 その挙動は、まさに洗練の一言に尽きる。最短の軌道で間合いを詰め、正確無比な射撃がレタリアの機体『アーデン』を捉える。

 

「捉えられるものなら、捉えてご覧なさいな!」

 

 アーデンがスラスターを吹かした。

 シミュレーター上で再現された彼女のアーデン、スペックだけならば実戦のものと変わらない様に設定されている。

 それは凄まじい加速で宇宙空間を駆けていた。

 

『……本当に当たらないな。実際に対峙すると実感する』

 

 グレインの声に、感心の色が混じる。だが、彼はそこで攻めを緩める男ではなかった。

 シュエルがライフルの銃口を固定する。次の瞬間、これまでの単発射撃とは明らかに異なる、激しい連射音が響いた。

 

 ――バースト射撃。

 

 それはレタリアを直接狙うのではなく、彼女が「回避するであろう場所」をあらかじめ網羅するように、意図的に集弾率を下げて放たれた弾丸の網だった。

 

「なっ……!?」

 

 レタリアはとっさに機体の進行方向を曲げて躱した。

 その光景を見ていた室内の観戦席から、驚きと抗議の声が上がった。

 

「おい、今のライフル……もしかして試作品か!? あんなバーストモード、俺たちの機体には積んでねえぞ!」

 アランドが身を乗り出して叫ぶ。

 

「あ、そういえば隊長……。試作型のフォトンライフルがどうとか言ってた気がします!」

 ステシアが思い出したように話すと、周囲の自警団員たちが一斉にざわついた。

 

「ずるいぞ隊長! ミレアさんに自分だけ良いのを回してもらったな!」

「公私混同ですー!」

 

 そんな賑やかな野次をよそに、戦場ではレタリアは翻弄され続けていた。

 グレインの「先読み」は正確だった。どれほど華麗に回避しても、次の瞬間にはまた新たな弾丸の雨が彼女を待ち構えている。

 

「ええい、鬱陶しいですわね!こちらも『ふぉとんらいふる』ですわよ!」

 

 レタリアもフォトンライフルで応戦するが、グレインは最小限の動きで回避する。

 モニターを見ていたメリーが、やれやれと肩をすくめた。

 

「……あの子、回避は怪物級なのに、射撃の腕は一向に上がらないわね。本当にからっきしだわ」

 

『お嬢様、それじゃ俺には当たらない、そのままでいつまで持つかな?』

 

「ぐぬぬぬ……言ってくれましたわね! ならば、わたくしの騎士(アーデン)が得意とする間合いに、引きずり込んで差し上げますわ!」

 

 レタリアの負けず嫌いに火がついた。

 彼女はグレインとは異なる大雑把で乱暴な動き、しかしその強引さを維持したまま迫る光の矢の中を突き進んでいった。

 

 回避、回避、また回避。

 グレインも思わず余裕を失い、シュエルの出力を上げる。

 

「ふぉとんせいばー! これならどうですの!」

 

 レタリアは機体の右腕に装備されたフォトンセイバーを起動し、横一文字に振るった。

 グレインは間一髪でシュエルのフォトンセイバーを起動、その一撃を受け止める。火花が散り、二機が至近距離で睨み合った。

 

『これでどうだ!』

 

 グレインが咄嗟に、空いている左手のライフルでゼロ距離射撃を放つ。

 レタリアは、その射撃をあり得ないほどの反応速度で回避、機体が大きく横にスライドした。

 

 その動きに流石のグレインも驚嘆する。

 

『ブラングの攻撃もこうして避けていたのか。……やはり、規格外だ』

 

「まだまだ、これからですわよ!」

 

 レタリアは勝利を確信し、次の一撃を叩き込もうと、旋回しながらグレインの背後を取ろうと加速した。

 その瞬間――。

 

 視界の端に、あの不吉なアイコンが踊った。

 

『――WARNING!! WARNING!!――』

 

 直後、凄まじい衝撃音と共に視界が激しく回転し、画面には無情な『大破・機能停止』の文字が浮かび上がった。

 

「……えっ? えっ!? な、なんですの!? まだ攻撃は受けていませんわよ!?」

 

 レタリアはコックピット内で目を白黒させた。

 通信回線から、グレインの声が聞こえてきた。

 

『……レタリア。君の負けだ。障害物への激突判定が出た。俺の動きに集中しすぎて、真後ろにあった浮遊岩に気づかなかっただろう』

 

「…………は?」

 

 レタリアは、しばらく呆然としていた。

 相手の動きに全神経を尖らせていた。それ故に疎かになっていたのだ。

 

 シミュレーターを降りたレタリアは、少し乱れた髪を整えるのも忘れ、悔しそうに肩を震わせていた。

 

「……こんな負け方、納得いきませんわ! 卑怯ですわよ、あんなところに岩を置いておくなんて、淑女の戦い方ではありませんわ!」

 

 グレインもハッチを開けて降りてきた。

 

「いや、戦場ならどこにでもあるものだぞ。……だが、あの接近戦での動きは凄まじかった。正直、俺の方がヒヤヒヤしたよ」

 

 レタリアは自分の手を見つめながら、ぽつりと違和感を口にした。

 

「……ですが、『しみゅれーたー』だと何だか本物のアーデンに乗っているときと感覚も違いましたわね」

 

 その言葉に、グレインは一瞬だけ目を細めた。

 

(シミュレーターはあくまで数学的な計算の積み重ねだ。……だが、彼女がアーデンで感じているのは、ミレアも言っていた――ブラックボックスを介した何かだろう)

 

「……あくまでシミュレーターだからな。ただ、注意力が散漫だったのは事実だ。実際に乗るときは、敵の銃口と同じくらい、周りの景色にも気を配るんだぞ、お姫様」

 

「お、お姫様ではございませんわ! ……でも、分かりましたわ。今のはわたくしの不徳の致すところですわね。精進して差し上げますわ!」

 

 悔しさを滲ませつつも、素直に(上から目線で)頷くレタリア。

 室内からは、熱戦を終えた二人へ労いの言葉が投げかけられた。

 

「見応えあったぜ、お嬢!」

「隊長をあそこまで追い詰めるなんて、暴走令嬢の名は伊達じゃないな!」

 

 ステシアたちに囲まれ、再び「おーっほっほ!」と高笑いを取り戻すレタリア。

 

 セルディアの日常は、今日も賑やかな音を立てて過ぎていく。

 嵐の予感は、まだこの喧騒の影に隠れたままだった。

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