悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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39話:速い……ですけれど、わたくしに付いてこられますか!?

 グレインとブラングがデブリの彼方へと消えていく中、残されたレタリアたちもまた、未知の脅威との死闘を繰り広げていた。

 

「皆様、素早い輩はわたくしが引き受けますわ!」

 

 レタリアの叫びと共に、戦場は二つの渦に分かれる。

 一方は、小型機をそのまま巨大化させたような、物理法則を無視した加速で迫る「高機動タイプ」。もう一方は、全身を強固な装甲で固め、巨大なフォトンキャノンを構えた「重武装タイプ」だ。

 

「速い……ですけれど、わたくしに付いてこられますか!?」

 

 レタリアの脳裏には、先ほど響いたあの「声」の残響がまだ疼いていた。

 『意識を向けてみろ』――。

 その言葉に従い、感覚を研ぎ澄ませた彼女の感覚はかつてない鋭敏さを見せる。宇宙空間を走る微弱な電波の波形や、敵機が加速する瞬間の予兆が、手に取るように理解できた。

 

 高機動型がデブリを蹴り、物理限界に近い速度でアーデンの背後を取る。

 だが、レタリアは振り返ることすらなく、スラスターを逆噴射させて機体を強引にスライドさせた。

 

 敵機はレタリアの動きに追従するだけの旋回性能を見せたが、その挙動には回避という概念が欠落していた。ただ最短距離で標的を屠ることのみを目的とした攻撃のみの行動。

 無造作に振るわれる光の刃、光の矢の応酬。

 対してレタリアは、相手の高速攻撃を紙一重でかわし続け、その擦れ違いざまにアーデンの拳や刃を的確に叩き込んでいった。

 

(何かしら、この感覚……。今までよりも、アーデンが思い通りに動きますわ!)

 

 高揚感と、正体不明の違和感。レタリアは一発の被弾も許さず、少しずつ、だが確実に敵の装甲を削り取っていく。最後は、敵が加速のためにエネルギーを集中させた刹那、その胸部へとアーデンの拳を深く突き立てた。

 

 敵機は一瞬だけアーデンに向けてフォトンライフルの銃口を向けようとした。

 だが、すぐに頭部のセンサーアイは光を失い、機体はうなだれる様に沈黙した。

 

◆◆◆

 

 一方で、ゼインたちは光の嵐に晒されていた。

 

『攻撃が激しいです……!』

 

絶え間ない攻撃をかわし続けながらステシアが口を開いた。

 

『こいつら、無人機なのか……?』

 

 重武装型から放たれる無機質な砲火を浴びながら、レッタが疑念を口にする。

 

『考えたって無駄だろうさ!そんな余裕はないからな!』

 

 ゼインの鋭い言葉と共に、重武装型がその火力を解き放った。巨大なフォトンキャノンに加え、手持ちのフォトンライフル、さらには全身のハッチから無数のミサイルが発射される。

 

 レッタの『バリス』はシールドを構えて直撃を阻むが、爆風と破片が装甲を激しく叩き、細かな損傷が蓄積していく。ステシアの機体も掠めるような熱線に晒されたが、致命的なダメージには至らない。

 対してゼインは、長年の経験に裏打ちされた操縦技術で射線を予測し、回避。迫りくるミサイル群に対しては、ファルの迅速な操作によるジャマーが展開され、誘導を失った弾頭が虚空で次々と自爆していった。

 

『ファル、狙撃準備! 自警団の連中が道を作った瞬間、そこをブチ抜くぞ!』

 

『了解、親方! 敵のセンサー、ロックするよ!』

 

 ステシアとレッタが息の合った連続射撃を浴びせ、重武装型の体勢を徐々に崩していく。敵が体勢を立て直そうと頭部を上げた瞬間、ゼイン機のロングレンジ・フォトンライフルが火を吹いた。

 

 放たれた高エネルギーの光条が、敵機の頭部を正確に貫通する。

 機能の一部を喪失し、よろめいた重武装型に対し、レッタが肉薄した。

 

「これで……仕留める!」

 

 バリスの右腕に装備されたフォトンセイバーが、光の軌跡を描きながら振り下ろされる。

 強固な装甲を断ち切られた重武装型は、内部ジェネレーターの誘爆により、激しい閃光を放ちながら宇宙の塵へと帰していった。

 

◆◆◆

 

 激闘の余韻が残るデブリ宙域に、ようやく静寂が戻りつつあった。爆散した敵機の残骸が、冷たい金属の光を反射しながら、ゆっくりと闇の中へ溶けていく。

 

「……終わりましたわね」

 

 レタリアはアーデンのコックピットで、深く、長い溜息を吐き出した。全身を支配していたあの異質な高揚感は引き、代わりにずっしりとした疲労が押し寄せてくる。

 視界の端で、グレインのシュエルがこちらへ合流するのが見えた。

 

『各機、状況を報告せよ』

 

 グレインの低く落ち着いた声が、共有回線に流れる。

 

『こちらゼイン、損傷軽微だ、やっこさんはバラバラだ』

 

『ステシアです! 機体外装に多少の焦げ付きはありますが、航行に支障はありません。レッタさんの機体が……少し心配です』

 

『レッタです。こっぴどくやられましたが、まあ何とかなってます。これはシンセ社の修理案件だよなぁ……』

 

 レッタの落ち込んだ声に、一行の間に安堵の空気が広がった。激しい戦いではあったが、幸いにも全員が生還を果たしたのだ。

 

 グレインは自機のセンサーで周囲を精査した後、重々しく告げた。

 

『……ブラングの機体については、こちらで固定した。しかし、肝心のパイロットには逃げられた。俺の失態だ』

 

「まあいいではありませんか、今までもあの男はしつこく逃げ回っていましたわ、悪運だけは良いのでしょう」

 

 レタリアが努めて明るい声でフォローを入れる。

 

『そう言ってくれると助かる。よし、作戦の最終段階に移行する。ブラングの機体、および君達が撃破した二機の残骸を可能な限り回収する。イチノセ女史に引き渡す』

 

 グレインの指示を受け、各機が残骸の回収作業に移った。

 ゼインの機体がマニピュレーターを器用に使い、重武装型の大きな破片をワイヤーで固定していく。ステシアとレッタも協力し、ブラングが乗り捨てたディエンを牽引する準備を整えた。

 

 レタリアはアーデンを操作し、自分が撃破した高機動型の残骸の前に静止した。

 ある程度形を保ったまま動かなくなった機体。

 その中からは最初から生命は無かった、レタリアの魔力はそれを機微に感じ取っていた。

 この無機質な鉄の塊に魔が宿っていると言うのか、レタリアは悪寒めいたものを感じていた。

 

「あの声はなぜわたくしを……?」

 

 ふと、戦闘中に聞いたあの声を思い出す。

 『意識を向けてみろ』と言ったあの声は、これらの機体から聞こえたものではない。別のどこかから……。

 

『お嬢、何してる? そいつ、あんたがブチ抜いたせいでボロボロだぜ』

 

 ゼインの通信で、レタリアは我に返った。

 

「分かっておりますわ! わたくしが直々に回収して差し上げようと、吟味していただけですわよ!」

 

 慌てて強がりを言い、レタリアは高機動型の残骸を掴んだ。

 有用な部品が残っているかは不明だが、ミレアならこの残骸からでも情報を汲み上げてくれるかもしれない。

 

 傷ついたマキナたちが、それぞれの戦利品を引きずりながら、ゆっくりと反転する。

 彼方に見えるのは、帰るべき場所――セルディア居住区の灯火だ。

 

「さあ、帰りましょう。わたくし、お腹が空きましてよ」

 

 レタリアは最後に一度だけ、戦場となった暗いデブリ帯を振り返った。

 何者かが潜む深淵。

 勝利の喜びの裏側で、これから何かが起こる事を、彼女は予感せずにはいられなかった。

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