悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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40話:当然ですわ。淑女たるもの、常に優雅であらねばなりませんもの

 セルディア管理局の巨大なハッチが、重厚な音を立てて閉ざされた。

 デブリ帯での激闘を終えた一行が、オレンジ色の誘導灯に導かれ、静かにハンガーへと滑り込んでいく。

 

 真っ先に指定のドックへと降り立ったのは、紫紺の装甲を煤で汚したアーデンだった。

 コックピットのハッチが開き、レタリア・アーデニアムがタラップへと姿を現す。いつもの彼女なら、真っ先に「わたくしの華麗な戦いをご覧になりましたか!」と胸を張るところだが、今の彼女はどこか安堵を得られず、愛機の装甲にそっと手を触れていた。

 

(……聞こえるか、アーデンのパイロット)

 

 脳裏にこびりついて離れない、あの透明な声。

 あの声、あれは一体誰なのか。そして、なぜアーデンの名を知っていたのか。

 指先から伝わる機体の微かな熱が、まるで生き物の鼓動のように感じられる。

 

「お嬢、ぼーっとしてどうした? 心ここにあらず、って感じだな」

 

 背後からかけられた茶化すような声に、レタリアは弾かれたように振り返った。

 そこには、愛機から降りてきたゼインとファルが立っていた。ファルもレタリアの顔を覗き込む。

 

「大丈夫なの、レタリア?」

 

「な、なんでもありませんわよ!わたくしの華麗な活躍を思い返していたのですわよ」

 

「ふーん? でも、確かにあのとんでもない速度のやつを相手に無傷でやりきったのね、凄いわ」

 

 ファルの純粋な賞賛に、レタリアは「……当然ですわ。淑女たるもの、常に優雅であらねばなりませんもの」と、いつもの調子を無理やり取り戻して見せた。

 

 続いて、ステシアのフロードとレッタのバリスが隣のドックへと固定される。二人は機体から降りるなり、地面にへたり込んだ。

 

「ああ……死ぬかと思った……。レッタさん、最後カッコよかったですよ!」

 

「よせよぅ。ゼインさん達が隙を作ってくれなきゃ、下手すりゃやられてたぜ。あれ、妙に古臭い機体だったけど、狙いと武器の火力だけは馬鹿に出来なかったな」

 

 各々が感想を述べる中、最後に降りてきたグレインが、皆の前に立った。少し表情が硬かったが、一同の無事を確認し、すこし頬を緩めた。

 

「諸君、ご苦労だった。想定外の敵襲ではあったが、全員が無事に生還できたことが最大の成果だ。……回収した残骸とブラングの機体については、これより自警団の管理下に置く。後の処理は俺が引き受けよう。今日は各自、ゆっくり休んでくれ」

 

「了解だ、隊長さん。報酬弾んでくれよ。それじゃあファル、行くぜ」

 

「うん。自警団の皆さん、レタリア、またね」

 

 ゼインとファルは、軽口を叩きながらハンガーの奥へと去っていった。ステシアとレッタも、グレインに一礼してそれぞれの休息へと向かう。

 

 一人、また一人と人が去り、活気に満ちていたハンガーに再び静寂が戻ってくる。

 レタリアもまた、グレインに「それではわたくしも失礼いたしますわ。夕食を頂いてきます」と告げ、重い足取りで管理局の通路へと向かった。

 

 広大なハンガーに残されたのは、グレイン一人だけとなった。

 彼は、自機の足元に置かれた巨大なコンテナを見つめていた。その中には、ボロボロになり、もはや原型を留めていないブラングの『ディエン』が収められている。

 

(……反応速度の異常な向上。そして、あの謎の機体。全てはあの廃工場からだ、エスカドの何かが流れてきている)

 

 今回の戦闘は、あくまで前哨戦に過ぎないのではないか。

 

「そろそろ、本命が来るかもしれないな……」

 

 グレインが独り言のように呟いた、その時。

 

「その通りよ。のんびり感傷に浸っている暇なんてないわ」

 

 カツカツと、硬い靴音がハンガーに響いた。

 白衣を翻しながら歩み寄ってきたのは、ミレア・イチノセだった。

 

「ミレア……」

 

「お疲れ様、グレイン。回収したデータと、ブラングの機体から抜き出せる限りのログ、全部私のラボに持ってきて頂戴。……今夜は忙しくなるわよ」

 

 ミレアはグレインの返事も待たず、手元のタブレットに次々と予定を打ち込み始めた。

 

「ブラングの機体と、その謎のマキナ、無関係ではないと思う。きっと、『敵』が居るわ」

 

 グレインは、ミレアの背中を追いながら、最後に一度だけ天井を仰ぎ見た。

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