悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
シンセ・フィブラが誇る最高機密エリア――ミレア・イチノセのラボは、数多のモニターが放つ青白い光と、大型サーバーの唸るような排熱音に包まれていた。
部屋の中央には、回収されたブラングの愛機『ディエン』の無残な残骸が、巨大なクレーンに吊り下げられている。装甲を剥がされ、内部構造を曝け出したその姿は、まるで解剖台に乗せられた怪物のようだった。
「――それで、何か分かったか? ミレア」
背後からかけられた低い声に、ミレアは視線をモニターに向けたまま、乱れた髪を無造作にかき上げた。声の主はグレインだ。彼は非番であるにもかかわらず、その表情には休息の気配など微塵もなかった。
「……そうね。期待通りの答えをあげたいけれど、まずは空振りから報告するわ。通信ログを解析したけれど、記録されていたのは……ノイズよ。ただの不規則な電子の荒嵐。内容はおろか、発信源の特定すら不可能。意図的なデータ消去、というよりは、そもそも記録できない形式でやり取りされていた可能性が高いわね」
ミレアは溜息を吐き、キーボードを叩いて一つの詳細図をメインモニターに拡大表示させた。
「ただ、収穫がゼロだったわけじゃない。このディエンの胸部、本来なら予備の冷却ユニットがあるはずの場所に、設計図には存在しない『装置』が組み込まれていたわ」
グレインはその図面を食い入るように見つめ、僅かに眉をひそめた。
「それは……レタリアのアーデンに搭載されているものと、同じか?」
「……断言はできない。けれど、基本構造の設計思想は極めて似ているわ。ブラックボックス化されていて、現状では外部から干渉することすらできないけれど……。おそらく、これね。あのブラング程度のレイダーが、あなたのシュエルを相手に立ち回れた理由。機体の反応速度と出力を、神経系に直接干渉するレベルで底上げしていたのは、間違いなくこの装置よ」
「……今はここまで、か」
グレインの言葉には、焦燥よりも冷静な分析が含まれていた。敵は未知の技術を、しかもアーデンと近しい技術を用いている。その事実が、事態の深刻さを物語っていた。
「……他の二機はどうだった? レタリアは無人機と断言していたが、損傷が激しくて分からん機体だった」
グレインの問いに、ミレアは別のモニターを起動させた。そこには、レタリアと自警団、ゼインたちが撃破した二機の中型機の解析データが並んでいた。
「そうね、こっちの方がもっと不気味よ。彼女が言っていた通り、あの二機は完全な無人機だったわ。パイロットが搭乗した痕跡がない……というより、そもそもコックピットブロックそのものが存在しないのよ。代わりに詰まっていたのは、高精度の自律演算ユニットと……例のブラックボックスの小型版ね」
ミレアは、レタリアが単独で撃破した高機動型の残骸を指し示した。
「驚いたことに、この高機動型のベースはエスカド社の旧型機……それも、アーデンの素体と同じ『クラフィド』だったわ。あり得ないほどの過剰な改造が施されている。骨格以外は別物」
「アーデンにも劣らない速度だったと聞いた。……姉妹機、だったのかもしれんな」
グレインの呟きに、ミレアは重く頷いた。
「もう一機の重武装型については、正直、原型がなさすぎて元のモデルすら特定できていないわ。これも旧型機をベースにしているのは間違いないけれど、機体の射撃精度は極めて高かったわ。レッタさんの機体があれだけのダメージを受けたのも無理はない。……もしステシアさんが集中攻撃されていたら、危なかったわね」
グレインは腕を組み、沈黙した。
自警団の新鋭機である『ルード』が、旧型の改造機に圧倒されかけた。その事実が重くのしかかる。
「……そこまでか。それならば、攻撃を殆ど無傷で乗り切ったゼイン氏の腕前は相当だな。機体性能は自警団のルードの方が上だというのに」
「そうね。ログを見たけど相当なベテランね。戦闘にも慣れてるけど、どちらかという立ち回りが優秀。……グレイン、できればあの人たちとの連絡先は抑えておいた方が良いわよ。今後なにがあるか分からないもの」
「……分かっている。善処しよう」
グレインは踵を返し、ラボの出口へと向かいかけたが、ふと立ち止まってミレアを振り返った。
「ミレア。……無理はするなよ。君がこのセルディアの、そして我々の要だ」
不意に投げかけられた直球の言葉に、ミレアは一瞬だけタイピングする手を止めた。彼女は振り返ることなく、少しだけ口角を上げた。
「……あなたもよ、グレイン隊長。あなたが倒れたら、誰がこの街と、あの跳ねっ返りのお嬢様を守るっていうの?」
「……ああ」
短い返事を残し、グレインはラボを去った。
残されたミレアは、視線をディエンへと向ける
(なぜ、レタリアはあの二機が『無人だと分かっていた』の?)
◆◆◆
一方、自警団の休憩所にて
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、良いですわね~……」
「ふふ、レタリアさんもそんな声出せるんですねぇ……」
「たまにはこうするのも悪くありませんわ~……」
マッサージチェアを堪能する淑女二人の姿があった。