悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
静寂が支配するはずの宇宙に、弱々しく、しかし切実な電子音が響き続けていた。
救難信号。それは過酷な宙域で生きる者たちにとって、無視することのできない「呪い」のようなものである。
「皆様、救難信号の発信源へ向かいますわよ! 全速力ですわ!」
レタリアがアーデンのスラスターを吹かそうとしたその時、共有回線に年配のフリーランサーの制止する声が割り込んだ。
『待て待て、お嬢様。あんた、さっきの原生生物(リソス・コア)との戦闘直後で消耗してるんだぞ。ここは一度セルディアに戻って、正式に自警団へ任せるべきだ。深追いは命取りになるぜ』
至極真っ当な正論であった。だが、レタリアはアーデンの首を横に振るように機体を動かし、毅然と言い放った。
「断りますわ。こうしている間にも、冷たい暗闇の中で危険に晒されている民草がいるならば、それを救い、守り抜くのが貴族の務めですわ!」
その古風で、しかし一点の曇りもない言葉に、周囲のフリーランサーたちがざわめいた。
『民草……? 貴族の務め、か。変わった言い回しだな、あのお嬢様は』
『本気で言ってんのか? だが、あの気迫……ただの酔狂じゃなさそうだ』
冷やかしの混じった困惑が広がる中、ゼインがリギュネのコックピットの中で小さく笑った。
『……ファル、いいな?』
『ええ、もちろんだよ、親方!』
相棒の快諾を受け、ゼインは全機に向けて野太い声を飛ばした。
『いいか野郎ども! とりあえずレタリア嬢と俺は行く。後の連中……弾薬とエネルギーに余裕がある奴、そして何より「今日は金にならなくてもいい」って奇特な奴は、俺たちの後に続いてくれ!』
◆
小惑星帯を抜け、さらなる深淵へと進む三機のマキナ。
レタリアのアーデン、ゼインとファルのリギュネ、そしてもう一機、重厚な装甲を纏った旧型機がそこにはあった。
『まあ、こうなるのはしょうがないな。お嬢さんに付き合うのは、俺たちの性分だ』
ゼインが呆れたように呟き、ふと思い出したように隣の随伴機へ問いかける。
『ところで……あんた。名前は何ていうんだ?物好きだな』
『あ、親方。この人の名前、参加者リストから照らし合わせたよ。「ツーイン」さん、だね』
ファルが素早く答えると、ツーインと呼ばれた男が、通信機越しに低く、重みのある声を響かせた。
『……私は、最近噂の「暴走令嬢」と呼ばれる特機乗りが、どんな戦いを見せるのか興味があってな。それを見るためにセルディアに来たのだ。……この窮地での振る舞い、またとない機会だ、有り難い』
ツーインの機体のカメラ映像に映ったその男は、筋骨隆々の体躯に、黒髪のソフトモヒカンという極めて威圧的な外見をしていた。だが、その瞳には冷静な武人の色が宿っている。
「あら、そうですの。わたくしの華麗な舞を拝見したいとは、お目が高いですわね。もしこの後も戦闘があれば、じっくりとお見せしますわよ!」
レタリアの不敵な物言いに、ツーインは表情を一切変えず、ただ一言「期待している」とだけ言って頷いた。
『……そろそろだ。救難信号の座標は、あの廃墟……廃棄された採掘中継基地から出ているな』
ゼインの言葉通り、デブリの合間に、かつて人間が利用していた巨大な構造物が姿を現した。
◆
遠目に見える廃墟は、まるで宇宙を漂う巨大な墓標のようだった。
レタリアは、アーデンのモニターに映し出された光景を見て、眉をひそめた。
「……様子がおかしいですわね。静まり返っているというより、何か……悍ましい雰囲気ですわ」
廃墟の入り口付近、救難信号を発していると思われるコンテナの周囲に、漂う影が四つ。
『ファル、センサーの感度を最大にしろ。死角を潰せ』
『了解、親方! ……出たわ。マキナが四機。救難信号の出ているコンテナを包囲しているみたい。……でも、これ……』
ファルの声が微かに震える。ゼインがその映像を解析にかけた。
『間違いねえ、マキナだ。だが、なんだ……殆ど動いてないな』
レタリアは、アーデンを通じてその四機に意識を向けた。
感覚が研ぎ澄まされる。以前聞いたあの「声」は聞こえないが、対象から放たれる「生命の波動」が、一切感じられなかった。
「……『むじんき』、ですわ」
レタリアの確信に満ちた言葉に、ゼインは聞き返すこともしなかった。
「そうか。お嬢さんがそう言うなら、間違いねえな。……少しだけ待て。奴らはこちらに気づいていない。まずは一機、確実に仕留める。先制攻撃だ」
ゼインのリギュネが、背中にマウントしていた巨大な長距離用フォトンスナイパーライフルを滑らかに構えた。
廃墟の影に機体を固定し、照準を定める。
『ファル、ジェネレーターを直結しろ! 最大チャージだ!』
『了解! エネルギー充填、90……100! いつでもいけるわ、親方!』
静寂の中、カウントが刻まれる。
『……5、4、3、2、1……射て!』
放たれた超高出力の閃光が、漆黒の宇宙を貫いた。
超遠距離から放たれた一撃は、油断して静止していた無人機の一機の胴体中央を、寸分の狂いもなく貫通した。
大爆発と共に、無機質なマキナが粉々に散る。
『やったわ!』
ファルが歓声を上げた。だが、その直後だった。
残された三機の無人機が、まるで一つの生き物のように同時に反転し、不自然なほどの反応速度でゼインたちの方向へと向きを変えた。
「――来ますわ!皆様よろしくて!?」
レタリアの叫びと共に、三機の影が宇宙の闇を切り裂き、驚異的な加速でこちらへと肉薄してきた。
深淵の静寂は破られ、ここに新たな戦いの火蓋が切って落とされたのである。