悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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46話:あなたごときでは、止められませんわよ!

 驚異的な加速で肉薄してくる三機の無人機。リギュネのセンサーが捉えたその波形を、ゼインは即座に分析した。

 

『全部高機動型だ。だが、前にお嬢が相手にしたほどの化け物じゃねえ。……散開するぞ!』

 

 ゼインの鋭い号令と共に、リギュネの両肩からミサイルが撃ち出された。追尾する光の軌跡を、三機の無人機はそれぞれ不自然な挙動で回避し、左右へとばらばらに散っていく。誘い込まれるように、レタリア、ツーイン、そしてゼインもまた各々の標的へと向かって機体を跳ね上がらせた。

 

 ゼインたちの正面に回り込んできたのは、一目で歪と分かるマキナだった。青と白の装甲が、まるで張りぼてのように不規則に重ね合わされた異様なフォルム。原型を失うほど改修を重ねられたその機体は、無機質な殺意を放ちながら急速に間合いを詰めてくる。

 

『速い……! 動きが不規則で、うまく狙いが付けられないよ!』

 

 ファルが悲鳴に近い声を上げるが、ゼインの操縦桿を握る手は安定していた。

 

『挙動は鋭いが動き自体は直線的だ! ファル、先を読んで弾をばら撒け! 回避は全部俺が引き受ける!』

 

 敵機が構えたのは、フォトンマシンガン一丁のみという極めてシンプルな武装だった。だが、放たれる光弾の密度は凄まじい。一発の威力は低くとも、受け続ければこちらの装甲など容易に消し飛ぶ。ゼインはスラスターを繊細に吹かし、弾幕の隙間を滑るように回避しながら、牽制のミサイルを放った。

 

 迫るミサイルを避けるため、青白の機体が大きく円を描いて旋回する。

 その瞬間を、ファルは見逃さなかった。スナイパーライフルから大型ガトリングへと武装を持ち替え、敵の移動先へ照準を固定する。

 

『当たって――!!』

 

 ファルの叫びと共に、ガトリングが激しい火線を撒き散らした。無数の弾丸が予測線上で青白の装甲に突き刺さり、その機動力を物理的に削り取っていく。

 

『動きが鈍った!』

 

『だが、まだだな……!』

 

 敵機はなおも執念深くマシンガンを連射し、リギュネの装甲火花を散らす。激しい削り合いの中、敵機は不意にリギュネの頭上を掠めるような大跳躍を見せた。死角からの奇襲。

 

 しかし、ゼインは最初からそれを待っていた。

 リギュネは振り向くことすらなく、背中にマウントされたままのフォトンスナイパーライフルの砲身を、真上へと駆動させる。

 

『よしきた!』

 

 至近距離、かつ完全な死角からの不意打ち。回避する暇すら与えられず、放たれた高エネルギーの閃光が、青白の機体をコックピットブロックごと真っ二つに撃ち抜いた。

 一瞬の閃光の後、異形のマキナは宇宙の塵へと変わる。

 

『……ふぅ。なんとかやれたな』

 

 ゼインが荒い息を吐きながら周囲の熱源を確認する。ひとまず、自分たちに牙を剥く影はない。

 

『親方、凄いわ……! でも、みんなは……!』

 

 ファルの鋭い声に導かれるように、ゼインはリギュネのカメラを、レタリアとツーインが駆ける別の戦域へと転じさせた。

 

 

 ゼインとファルが異形の青白機を撃破したその時、残る二つの戦域でも、それぞれに過激な死闘が最終局面を迎えていた。

 

 ◆

 

 筋骨隆々の巨漢、ツーインが対峙していたのは、一切の塗装が施されていない、剥き出しの鼠色をしたマキナだった。不格好に膨らんだそのフォルムはスマートさとは無縁だったが、決して性能の低い旧型機には収まらなかった。

 敵機は重厚な実弾ライフルを構え、さらに腰部にはフォトンセイバーのエネルギー基部がマウントされている。中・近距離の双方で隙のない装甲機だ。

 

「ふむ……。ならば、これでどうだ」

 

 ツーインは冷静に呟き、愛機『イェラ』の操縦桿を押し込んだ。

 イェラが独自の挙動を見せる。その両脚部にマウントされていた大型の実体兵器をマニピュレーターで掴み取るなり、宇宙の闇へと勢いよく投擲したのだ。

 

 放たれたのは、巨大な弧を描くブーメラン。マキナの標準的な兵装としてはおよそメジャーではない、異端の武器。しかし、イェラから発信される遠隔操作信号によって、それは真空の虚空でありながらある程度の誘導性を持ち、最後には機体へと戻ってくる特性を備えていた。

 

 不規則かつ優雅な弧を描いて迫る質量兵器に、無人機のセンサーは正確な予測弾道を弾き出せなかった。

 鋭く、かつ鈍い金属衝突音が響き、ブーメランが鼠色の装甲を何度も激しく叩きつける。火花が宇宙に散るが、敵の重装甲を強引に叩き割るような致命打には至らない。敵機は被弾の衝撃に耐えながら、実弾ライフルを連射しつつイェラへと突進してきた。

 

 ツーインは戻ってきたブーメランをキャッチすると同時に、もう片方の脚部から二つ目のブーメランを引き抜き、再び投擲した。

 二条の軌跡が交差する。そのうちの一振りが、突進する敵機の頭部へと吸い込まれ、メインカメラと複合センサーが集約された頭部ユニットへ深く突き刺さった。

 

 本来ならば、これで敵機は完全に視界を失い、機能停止に追い込まれるはずだった。しかし、相手は人間の痛覚も恐怖も持たない無人機である。精度こそ著しく落ちたものの、敵機はイェラのいる大まかな座標へ向けてライフルを狂ったように乱射しながら、腰部からフォトンセイバーを不気味に引き抜いた。

 

 イェラの巨体に数発の実弾が直撃する。激しい衝撃がコックピットを揺らしたが、ツーインは眉一つ動かさなかった。

 

「問題は無い」

 

 イェラの装甲もまた、敵に劣らず極厚に作られている。数発の直撃程度では、表面の装甲板に深い傷が入る程度に過ぎない。

 ツーインはイェラに強固な防御体勢を取らせ、フォトンセイバーの光刃を掲げて突進してくる敵機の接近をじっと待った。間合いが完全に潰れる。光の刃がイェラの頭上から振り下ろされる、その絶対的な刹那。

 

 ツーインは、機体に仕込まれた「第二の武装」の引き鉄を引いた。

 

 イェラの全身の装甲隙間から、無数のニードル弾が一斉に射出された。

 極めて高い貫通性を誇るが、有効射程が絶望的に短い。まさに、この瞬間のような超近距離におけるカウンターのためだけに用意された隠し兵装である。

 先ほどのリソス・コアの駆除任務において、イェラは通常兵器の大半を使い切っていた。だからこそ、ツーインはこの残された特殊兵装のすべてを、この一瞬の交差に賭けたのだ。

 

 至近距離から放たれた鋼鉄の豪雨が、鼠色の無人機を容赦なくハチの巣に変えていく。そのうちの数発が、分厚い装甲の隙間を縫って、内部のメインジェネレーターへと突き刺さった。

 直後、敵機の内部から激しい光が漏れ出し、強烈な爆風がイェラの盾を叩いた。光が収まったとき、そこにはただの鉄屑となった鼠色の残骸が静かに漂うだけだった。

 

 ◆

 

 一方、レタリアの戦場は、打って変わって圧倒的な光と物量の嵐に包まれていた。

 彼女の前に立ち塞がる敵機は、赤黒い宇宙の深淵に溶け込むような塗装が施されたマキナだった。その全身は無数のミサイルポッドで埋め尽くされており、一機でありながら一個小隊に匹敵する弾幕を吐き出し続けている。

 

 だが、今のレタリアにとって、その絶望的な物量は恐怖の対象ですらなかった。

 研ぎ澄まされた彼女の視界には、迫りくるミサイル群の一つ一つの軌跡、その「未来の先」が、光の線となって明確に視えていた。

 

「わたくしには、そんなもの、一切効きませんわよ!」

 

 アーデンは紫紺のスラスターを咆哮させ、弾幕のわずかな隙間を、目にも留まらぬ速度ですり抜けていく。一発の掠り傷すら負うことなく距離を詰めたアーデンは、その勢いのまま、敵機の胸部へと鋭い蹴りを叩き込んだ。

 

 重苦しい衝撃波が走り、赤黒い機体は大きく後ろへののけぞる。しかし、無人機は体勢を崩しながらも、ミサイルを至近距離から全弾発射してきた。

 

 レタリアは迫る火線をすんでのところで躱し、空いたアーデンの左拳を敵の顔面に叩きつけた。

 

「この、レタリア・アーデニアム――!」

 

 殴る。衝撃で敵のセンサーが火花を散らす。

 直後、至近距離から放たれた別のミサイルを、首を傾げるような最小限の挙動で回避する。

 

「あなたごときでは、止められませんわよ!」

 

 さらに追撃の拳。無人機の装甲がひしゃげ、内部のフレームが歪む。

 完全に敵の機動力を奪い去ったレタリアは、流れるような動作で腰部からフォトンセイバーを抜剣した。光の刃が漆黒の宇宙に鮮やかな軌跡を描く。

 

「受けなさい! ふぉとんせいばー!」

 

 一閃。

 アーデンの光刃は、赤黒い機体を斜めに深く、両断した。

 その刃はジェネレーターに触れることは無かった。そのため、敵機は激しい爆散を起こすことなく、ただ全ての機能を喪失し、完全に沈黙して虚空へ漂っていった。

 

「ふぅ……。格好ばかりで、中身が伴っていなくてよ!」

 

 レタリアの勝利の宣言、そして彼女の魔力がアーデンを通じて三つの反応、そして救難信号の出る地点から、人であろう複数の気配を捉えた。

 

(……ゼイン、ファル、そしてツーイン様も。皆様、無事ですわね)

 

 言葉を超えた確信が、彼女の心を安堵で満たす。

 

 その時。安堵の余韻の中に、ふと何かが滑り込んだ。

 声、とも言えないような、かすかな揺らぎ。

 

(……タリア……)

 

「……?」

 レタリアはアーデンのセンサーを巡らせた。しかし、その方向には、何もない。星の光だけが静かに広がっていた。

 

 レタリアはアーデンを反転させ、戦友たちと合流するため、そして救難信号が響き続ける発信地点へと向けて、力強く機体を進めた。

 

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