悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

48 / 51
47話:まさか、そこにいるのは……

 たどり着いた三機のマキナが、その発信源を凝視する。

 それは通常の輸送用コンテナというよりも、廃墟の隔壁を無理やり切り出し、即席の気密室として仕立て上げたシェルターの一部と呼ぶべき、ひどく古く無骨な箱だった。

 

『……全員、無事そうだな』

 

 ゼインの低く落ち着いた声が共有回線に流れる。

 

「ええ、かすり傷一つ負っていませんわ」

 

『こちらも問題ない』

 

 レタリアとツーインの返答を聞き届け、ゼインは再び正面の鉄箱に視線を戻した。

 

『妙だな。周囲を無人機に囲まれていたっていうのに、このシェルター自体が攻撃を受けたような形跡がねえ。まるで、壊さないように見張られていたみたいだぜ』

 

 不可解な違和感が宙域に漂う。しかし、信号が発せられている以上、中に誰かがいるのは間違いなかった。

 

『……一応、全員武器を構えて備えろ。罠の可能性もある』

 

 ゼインの指示で、アーデンとイェラが臨戦態勢を取る。周囲の警戒を二機に委ね、ゼインのリギュネがゆっくりと前進した。巨大な金属のマニピュレーターが慎重に、かつ力任せにシェルターの重いハッチを掴み、外側へと引き絞る。

 

 不気味な沈黙を破り、密閉されていた空気が宇宙の真空へと白く噴き出した。

 リギュネのライトが、暗い内部を容赦なく照らし出す。

 

『……敵の反応はなし、か』

 

 ツーインが周囲のセンサー状況を確認し、短く告げた。

 

「人、で間違いありませんわね?」

 

 レタリアが画面を凝視する。ライトの光の先、シェルターの最奥に、パイロットスーツを纏った五人ほどの人間が、互いに身を寄せ合うようにして縮こまっていた。

 

『大丈夫ですか!? 救難信号を受け取りました! もう心配いりませんよ!』

 

 複座コックピットから、ファルがスピーカーを通じて精一杯の声を投げかける。

 その言葉を聞いた瞬間、凍りついていた人影たちが、堰を切ったように動き出した。這いずるようにしてハッチの付近まで進み出て、口々に言葉を漏らす。

 

「た、助かった……助かったんだな……」

「もう駄目かと思った……飢え死にするか、あの化け物に切り刻まれるかと……」

 

 それは、本物の死の恐怖を味わった者たちだけが発する、生々しい安堵の涙と震えだった。

 しかし、その怯えた声の重なりの中に、レタリアの耳に酷く聞き覚えのある、不快極まりないはずの声があった。

 

「良かったぁ……本当に死ぬかと思ったぜぇ……」

 

 レタリアの背筋に、戦闘時とは違う意味の衝撃が走る。彼女はアーデンのカメラをその男の顔へとズームさせた。

 

「……まさか、そこにいるのは、わたくしを何度も執拗に襲ってきた不埒者(ふらちもの)ですの!?」

 

 レタリアの鋭い叫びに、ファルが即座に反応してモニターを叩いた。

 

『嘘でしょ!? 確かにその声、あたしの機体をボロボロにしたブラングじゃない! なんで、なんであんたみたいなのがこんなところにいるのよ!?』

 

 ファルの怒号のような通信がスピーカーから爆音で響き渡り、五人の遭難者たちはビクッと身体を強張らせた。他の四人に至っては、三機のマキナの巨体を見上げ、救世主を見る目から一転して、罪人のような、深い絶望と恐れの表情を浮かべて距離を取る。

 

 だが、当のブラングは違った。

 かつて見せていた狂気に満ちた哄笑や尊大な態度は、今の彼からは全く感じられなかった。弱々しく、消え入りそうな声で両手を合わせる。

 

「お、俺は……俺様は、こんな目に遭うなんて思ってなかったんだ……。なあ、前は悪かったよ。コスプ……いや、美しいドレスのお嬢様! それから、その……元気なお嬢ちゃんも! 本当に、この通りだ! 助けてくれて感謝してる、本当に、本当に……!」

 

 拝むように何度も両手を擦り合わせるブラングの姿に、ゼインはコックピットの中で目を細めた。

 

(……芝居や演技にゃあ、とても見えねえな。本当に心底ビビり散らかしてやがる)

 

 あまりの豹変ぶりに、レタリアの胸を占めていた怒りは急速に霧散し、代わりに言葉にできないほどの困惑が湧き上がってきた。自らが騎士として命を賭けて救った要救助者が、まさかセルディアを脅かしていたレイダーの頭目とその一味だったなど、誰が予想できただろうか。

 

「……一体、どういうことですの? どうして貴方たちのような悪党が、自分たちの身内にあたるはずの『むじんき』に包囲されて、このような惨めな姿で震えていますの?」

 

 レタリアの追及に、ブラングはただガタガタと震えるばかりで、要領を得ない。

 

『……おいおい、お嬢さん。問い詰めたい気持ちは分かるが、まだ何が潜んでるか分からん。こいつらがブラング達なら犯罪者だ、とっとと回収してずらかるぞ』

 

 ゼインが割り込み、リギュネの腕を器用に動かしてシェルターの周囲にあった破損の少ない別のコンテナを引きずり寄せた。

 

『まずはこの連中を、逃げられねえようにその辺の適当な入れ物に詰め込んでセルディアへ戻ろう。……事情聴取は、安全な檻の中にぶち込んでから、帰りの道すがらゆっくり聞けばいいさ』

 

 その現実的かつ冷静な提案に、レタリアも「……そうですわね」と同意するしかなかった。ツーインも無言で頷き、イェラを動かして周囲の警戒を継続する。

 

 かつて戦場を恐怖に陥れた狂人は、今やただの哀れな荷物として、フリーランサーたちの手によって鉄の箱へと押し込められていく。

 

 アーデン、リギュネ、イェラの三機がこの宙域を離れた後――

 

 この宙域のさらに深淵――

 

 (ルネクトプロトコル……コア・ユニット『レタリア』……登録完了……シーケンス移行)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。