悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
三機のマキナは、五人のレイダーを文字通り「荷物」として詰め込んだ即席のコンテナを牽引し、セルディアへと続く帰路についていた。
行きとは違い、現在の周囲には不審な浮遊物は無い、敵機の奇襲に怯える心配はないだろう。
『――よし、クライアントと自警団への連絡が終わったぜ』
共有回線から、ゼインの上機嫌な声が響く。
『自警団の連中が、直々にハンガーで出迎えてくれるそうだ。未登録の無人機の破壊、それに指名手配中だったブラング一味の身柄確保だ。臨時ボーナスもガッツリ出るってよ!』
『あのブラングたちを助けたのは、なんだか釈然としないけど……。うん、でもボーナスが出るならね!』
さっきまで複雑な表情を浮かべていたファルだったが、懐が温まるという現実的な報酬の前には、流石に頬を緩ませていた。フリーランサーにとって、背に腹は変えられないのだ。
「おーっほっほ! 当然の報いですわ。淑女の慈悲を受け取ったのですから、それなりの報酬は支払っていただきませんとね!」
レタリアはいつものように高笑いを上げてみせたが、アーデンのシートに深く腰掛け直すと、すぐに真剣な面持ちでコンテナへの回線を開いた。
「――それで、ブラング。および、そこにいる不埒な徒党の皆様。なぜあなた方は、あのような廃墟で、身内の『むじんき』に囲まれて、怯えておりましたの?」
レタリアの問いかけに、随伴するイェラの中で、ツーインもまた無言で通信の行方を注視していた。
コンテナのスピーカーから、レイダーの一人が恐る恐る口を開く。
『あ、あー……えーと。身内なんかじゃねえよ! いきなり、あいつらに追われたんだ! ここ数日、ずっとデブリ帯の奥まで追い回されて……』
『そうだ、あいつら、俺たちをすぐに殺さねえんだ。わざと装甲を削ったり、逃げ道を塞いだりして……まるで、なぶり殺しにするみたいに、じわじわと追い詰めてきやがったんだよ……!』
男たちの声には、演技では到底出せない本物の恐怖と悲壮感が染みついていた。
『……全部、ブラングが、あんな妙なものを見つけるからだ!』
一人がなすりつけるように叫んだその名に、レタリアの目が細められる。
「やはり、あなたなのですわね、ブラング」
レタリアは冷静に、だが重みのある声で問いかけた。かつて自分を小娘と侮り、狂ったように襲いかかってきた男に対する、いつもの高慢な振る舞いはそこにはなかった。
通信の向こうで、長い沈黙が流れる。
やがて、ブラングが掠れた、ひどくたどたどしい口調で語り始めた。
『……あんたらに、ボコボコに叩きのめされてさ。俺たちは命からがら、あのデブリ帯のゴミ溜めに隠れてたんだ。そしたら、あったんだよ。見たこともねえ、マキナがよぉ……』
ブラングの声が、微かに震えを帯びる。
『気づいたら、ボロボロだった俺の機体に通信が入ってきたんだ。「もっと強くなりたいのか」って。「これさえあれば、世界は思うがままだ」って……。女の声だったよ……』
「……っ」
女の声……自身の聞こえた『声』とは異なるものなのか、しかし……
レタリアは思考する。
『「ヤツ」は、アレを使えって言うから……俺はただそれに従っただけで』
ブラングはそこまで一気にまくし立てると、絶望したように黙り込んでしまった。
しかし、ブラングはハッと我に返ったように、コンテナの壁にすがりつくような音を立てて叫んだ。
『でも、今は違うんだ! あの時は、その、負けたのがどうしようもなくムカついて、八つ当たりしちまったんだよ! 今は違う、心から反省してる! なあ、お嬢様……! 俺たちを助けてくれて、本当に、本当に感謝してるんだ!』
必死に許しを請うブラングの言葉。
レタリアは、彼が本気で自分たちに感謝し、恐怖から解放された安堵に浸っていることを察知した。それは、アーデンを介して広がる彼女の魔力知覚が、ブラングの精神の「嘘のなさ」を正確に感じ取ってしまったからだ。
だが、あれほどの不敬な言動をした輩に、こうも哀れに縋られるというのは――。
「き、気持ち悪いですわ! もう口を開かないでくださいまし!」
レタリアはゾワリとした鳥肌を覚え、言い放った。
『そ、そんなぁ……』
がっくりと肩を落とすブラングの、心底突き放されたような絶望の声がスピーカーから漏れる。だが、頭目が完全に牙を抜かれ、お嬢様に平伏しているその情けない様子を見て、逆に安心したのか、他のレイダーたちからは「あはは、助かったんだな」「命だけはあるぞ」と、どこか緊張感の抜けた安堵の声が漏れ始めていた。
ファルは呆れたように息を吐き、彼らへの通信を一時的に遮断した状態で、ゼインに話しかけた。
『全く、気楽なものね。これからセルディアの独房に入るっていうのに』
『まあ、そう思えるくらいに、とんでもない目に遭ったんだろうよ。あれだけ好き勝手暴れてた連中がここまでの状態になってるんだからな』
ゼインは冗談めかして応じたが、その視線は鋭く、前方の虚空を睨んでいた。
(……だが、腑に落ちねえな。無人機どもを裏で動かしていた黒幕が、こいつらを利用していたのは間違いない。じゃあ、なんでわざわざ切り捨てた? それも、ただ殺すんじゃなく、コンテナを残して『救難信号』までわざわざ出してる状態で放置したんだ……?)
『……まあ、俺たちが考えても仕方ねえな。これ以上の謎解きは、自警団の皆さんに任せるとしよう』
「どうしましたの、ゼイン?」
レタリアが怪訝そうに尋ねると、ゼインはすぐにいつもの不敵な笑みに声を戻した。
『いや、なんでもねえよ、お嬢さん。ほら、見えてきたぜ』
アーデンのメインモニターの先、漆黒の宇宙に、見慣れたセルディア居住区の堅牢な外壁が浮かび上がってきた。
巨大な進入ハッチがゆっくりと開き始め、その周囲には、こちらを出迎えるように数機の自警団仕様の『ルード』が待機している様子が見えた。
ようやく我が家へと帰ってきた安堵感。しかしレタリアは、ブラングの言葉に宿っていたあの「声」の存在に、拭いきれない冷たい予感を抱いたまま、誘導灯の光の中へと滑り込んでいった。