悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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50話:物々しい会議ですわよ

 二日後。戦いの余韻が冷め始めた頃、一行はセルディア管理局の外来用来賓室に集まっていた。

 大きな窓の外に管理区画の整然とした街並みを望む一室に、自警団隊長のグレイン、主任研究員のミレア、レタリア、そして今回の件に関わったゼインとファルの五人が、中央の重厚な円卓を囲んでいた。

 

 制服姿の事務員が、静かな足取りで各々にハーブティーを配っていく。

 

「……なんだか、すごく場違いなところにいる気がしちゃうね……」

 

 ファルが小さく呟いた。普段の作業着やパイロットスーツとは打って変わり、今日の彼女はクリーム色のブラウスとチェック柄のフレアスカートという可憐な私服姿だ。少し大きめの眼鏡の奥でヘーゼルナッツ色の瞳が落ち着かなげに揺れ、いつも実戦用にまとめているブラウンの髪も、今日はサイドで緩く編み込まれている。

 

 その隣のゼインはといえば、相変わらずのラフな格好だった。黒いタンクトップにレザージャケットという飾らない出で立ちが、後ろで一本にくくられた青い長髪をかえって引き立てていた。

 

「今まで、こういう公的な場所にまともに招かれたことなんてなかったからさ……」

 

「ま、これまでは行きがかりの仕事ばっかりだったからな。管理局の偉いさんの息がかかった部屋なんて、裏路地の何でも屋には敷居が高い。だが、出された茶は美味い。それで十分だろ?」

 

「ちょっと、親方……」

 

 そんな二人のやり取りを、正面のグレインが静かに見守っていた。彼はハーブティーに軽く口を付けてから、ゆっくりとコップを置き、本題を切り出した。

 

「――本日こうして集まってもらったのは、先日の出来事について……特に、捕縛したブラングたちの尋問の経過を伝えるためだ。同時に、現場にいた君たちの見解を、改めてこの場で擦り合わせておきたい」

 

 部屋の空気が一気に引き締まる。ミレアも情報端末のホログラムを起動し、データをいつでも開示できる態勢を整えた。

 

 まずグレインが語り始めたのは、ブラングたちの尋問結果だった。

 

「ブラングは、レタリア嬢たちに敗れた後、残った数人の仲間とともにデブリ帯の深部へと逃げ込んだ。そこに点在していた廃棄された建造物を潜伏先に選んだそうだ」

 

「かなり古い年代の、かつての採掘用中継基地の残骸ですね」と、ミレアが補足する。

 

「ああ。どれも完全に機能を停止しており、稼働している様子は外見からはなかった。……だが、その廃墟に身を隠した直後、ブラングの耳にある『通信』が入ってきたという。本人の弁によれば、それは『女の声』だったそうだ」

 

 女の声。その言葉に、レタリアは小さく息を呑んだ。

 

「……そういえば。コンテナから救出した際も、ブラングはそのように言っておりましたわね。女性の声にそそのかされた、と」

 

「そうだ」と、グレインは続ける。

 

「ブラングはその声に導かれるまま廃墟の最奥へと踏み込み、そこで濃緑の古いマキナを見つけた。エスカド社製の軍用機だ」

 

「エスカドの……ほぉ」

 

 ミレアが機体の図面をホログラムに映し出すと、ゼインは細い目をさらに細めた。

 

「相対した時に旧型なのは分かっちゃいたが……まさか本物の軍用機、それも相当な年代物だったとはな」

 

「奇妙なのはそこからだ」

 

 グレインは一段トーンを落とした。

 

「ブラングの話では、そのコックピットに乗り込んだ途端、頭の中の声がより鮮明に、より鋭くなったという。そして……あの鈍重な外見からは想像もつかないほどの、異常な反応速度と出力を叩き出すようになった。さらに不可解なのは、その現象がブラングにしか起こらなかったことだ。他の仲間がどれだけ機体に触れようと、声も聞こえなければ、高出力も再現されなかった」

 

 特定の人間にしか牙を与えない機械。その事実が、一同の間に冷たい沈黙をもたらした。

 

「それと共に廃墟の一部が自動再起動し、機体のメンテナンスが行えるようになったそうだ。以降、施設の館内スピーカーや外部通信からも、ブラングが頭の中で聞いたものと同じ『女の声』が流れるようになった。仲間たちには声の主の正体こそ分からなかったが、ブラングの異常な変貌に恐怖し、その声の指示に従うほか選択肢がなかったと言っている」

 

「周囲には他にも似たような廃棄施設がいくつもあったけど、どれもプロテクトが厳重で中には入れなかった。結局、あの機体が眠っていた建物だけを拠点とするしかなかった……というのが、事の顛末よ」

 

 ミレアが話を一区切りさせ、紫色の瞳で一同を見渡した。

 

「――さて。ここまで聞いて、何か思い当たる節はあるかしら?」

 

 レタリアは指先を顎にあてた。

 

「……ブラングがわたくしを襲ってきた際の、あの常軌を逸した振る舞い。その違和感の正体が、その『声』によるものだったとするなら……腑に落ちますわ」

 

「だがな」

 

 ゼインがハーブティーのカップを弄びながら、ミレアに視線を投げかけた。

 

「いくら謎の声がサポートしてたからって、あの旧型機があそこまでの性能を発揮したからくりは何なんだ? 精神論だけでマキナの出力がカタログスペックを超えるわけがねえ」

 

「近代化改修……とは、とても呼べない代物ね」

 

 ミレアは淡々と返した。

 

「機体の内部は、無理やり強化を繰り返したツギハギの怪物だったわ。古い規格のパーツをそのまま使いながら、内部の経路が異常な方法で組み替えられていた。今となってはただの時代遅れのパーツでも、当時の基準から言えば最高クラスの性能よ。それが限界を超えて駆動させられていた」

 

「つまり……その場その場で、無理やり動くようにシステム側が機体を『書き換えていた』ってことですか?」

 

 ファルが眼鏡の位置を直しながら尋ねる。

 

「おそらくね。それも、乗っているパイロットの脳波……あるいはそれ以上の何かを燃料にして」

 

 ミレアの一言に、ファルは小さく身震いした。

 ゼインは腕を組み、さらに続けた。

 

「じゃあ、あの無人機どもとブラングたちの関係は?」

 

「それについても、尋問で明らかになったわ。恐らく、ブラングの言う『声』の主が、あの無人機たちをも一括操作していたのでしょうね。落ち着きを取り戻したブラングたちの供述によると、グレインに敗れて廃墟へ戻った途端……それまでの『声』が完全に途絶えた。それと同時に、周囲の建物から無人機が一斉に姿を現して、彼らに襲いかかってきたと」

 

 グレインがミレアの言葉を引き継いだ。

 

「君たちが救助したのは、文字通りの『生き残り』だ。かなりの時間、なぶり殺しにされかけていたようだ」

 

 グレインはそれ以上の具体的な惨状を口にしなかったが、レイダーたちの怯えようから、その光景がいかに凄惨であったかは想像に難くなかった。

 

「……そこで一つ、疑問が残るな」

 

 ゼインが目を細めた。

 

「あいつらは何故、最後の最後、あのコンテナの前で張ってたんだ? とどめを刺せるだけの火力も時間もあったはずだ。救難信号を垂れ流しにした状態で放置するのは、何故だ?」

 

「……それは、今の段階では分からないわ」

 

 ミレアは少し遠慮がちに話した。

 

「回収した宇宙服や機体の残骸、身体検査まで徹底的に行ったけれど、外部へ発信するようなビーコンの類は一切見つからなかった」

 

「ふむ……」

 

 ゼインは小さく唸り、それ以上は追わなかった。

 しかし彼の脳裏には、傭兵としての長年の直感が弾き出した「答え」がすでにあった。

 

(……十中八九、あいつらを『助けさせること』——いや、救助にやってきた別のマキナと無人機を『戦わせること』自体が目的だったんだろうな。まあ、ここで口に出せる話じゃねえが)

 

 ゼインは視線だけでミレアとグレインに「これ以上は触れない」という合図を送り、カップを完全に干した。

 その隣で、ファルが言葉もなくレタリアの顔を見つめている。

 

 ゼインは軽く息を吐き、首の後ろで手を組んだ。

 

「ま、いち何でも屋がこれ以上気に病んでも仕様がねえな。謎解きは管理局の偉いさん方にお任せするとして……俺たちにできる話は、このあたりまでかね」

 

「そうだな。民間の君たちに伝えられる情報はここまでだ」

 

 グレインは立ち上がり、二人に向かって丁寧に一礼した。

 

「貴重な情報提供、改めて感謝する。今回の件についても、正当な謝礼を支払わせてもらう」

 

「おっ、そいつはありがたいね! 美味いお茶の上に小遣いまで貰えるとなりゃあ、お嬢さんの無茶に付き合った甲斐もあるってもんだ!」

 

「ちょっと、親方! ……すみません、グレインさん、ミレアさん。それじゃあ、失礼します。レタリア、またね!」

 

「ええ、またお会いしましょう、ファル」

 

 ファルに手を引かれるようにして、ゼインは軽薄な笑い声を残しながら部屋を出て行った。二人の足音が廊下の向こうへ消え、来賓室に静寂が戻る。

 

 

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