悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
残されたのは、レタリア、グレイン、ミレアの三人だけだった。
「……わたくしが知っている現場の状況は、先ほど彼らが話したことと何も変わりませんわよ。何か?」
レタリアは背筋を伸ばし、毅然と二人を見据えた。
ミレアは卓上のホログラムをすべて消去すると、真剣な面持ちで切り出した。
「――レタリア。あなたが戦闘中に聞いた、正体不明の『声』。それとブラングたちが聞いた『声』に……関連性があると思う?」
そういえば、そうだった。レタリアは胸元にそっと手を当て、あの冷たいコックピットの中で響いた声を思い返した。
「……ブラングは確かに『女性の声』とおっしゃっていましたわね。ですが、わたくしの耳に聞こえたあの声は……男とも女とも、大人とも子供とも言い難い、ひどく奇妙な響きでしたわ。内容もブラングのような甘い誘惑ではなく、わたくしへの警告と……アーデンとわたくし自身の『可能性』を問いかけてくるものでした」
「声の主が同一かどうかは、現状では不明だな」
グレインが腕を組んだまま低く言った。
「ただ、音声の偽装や変換など、いくらでも可能だ。聞き手によって最も響く声を意図的に選んで発信していたとすれば、特徴が異なるのも頷ける」
「ええっ!? そんなことが可能ですの!?」
レタリアは音声変換が普遍的な技術であることを知らない。自動翻訳システムであるMTIもその技術を使用しているのだ。
「まあ、それくらいは難しくないわ」
ミレアは少しだけ表情を和らげた。
「それからもう一つ。ブラングは機体に乗って声と同期している間、激しい頭痛と精神的な拒絶反応を繰り返していたそうよ。……レタリア、あなたがアーデンに乗って声を聞いた時、身体に何か異変はあった?」
レタリアは少し首を傾げ、自身の感覚を思い返した。
「いいえ。頭痛などは一切ありませんでしたわ。ただ……アーデンに乗っている時は、機体がわたくしの想いに応えて動いてくれるような、不思議で温かい感覚はありますわ」
「そう……か」
ミレアとグレインは顔を見合わせ、同時に黙り込んだ。
レタリアにとっては少なくとも害の無い声だが……。その深刻な様子に、レタリアは眉をひそめた。
「……どうしましたの、お二人とも」
ミレアは小さく溜息をつき、意を決したように口を開いた。
「あのね、レタリア。……私たちは、アーデンとブラングが乗っていた機体、そしてあの無人機たち……これらの根底にある設計思想が、極めて近いものだと考えているわ。だから、ブラングの身に起きたような精神の崩壊が、あなたにも起きている可能性があるんじゃないかって……ずっと心配していたの」
ミレアの言葉の裏にある、純粋な心配。
レタリアが言葉を失っていると、ミレアは不意にクスリと笑った。
「――でも、どうやら取り越し苦労だったみたいね。今のあなたの、まるで子犬みたいな表情を見ていたら……そんな悍ましい汚染とは無縁だって、よぉく分かるわ」
隣のグレインも、安心したように目元を緩めて笑っている。
「ちょっと……! 誰が子犬ですのよ! わたくしはアーデニアム公爵家の令嬢、レタリアですわよ!」
顔を真っ赤にして声を上げたが、二人の笑顔を前に、自分の中の緊張がほどけていくのを感じ、最後には彼女自身も、小さく笑ってしまった。
「安心して。今のところ、アーデンにあなたへ害を及ぼすようなプログラムは見つかっていないわ。点検はもう少し続けるから、待っていてね」
「……分かりましたわ。お任せいたします」
レタリアは素直に頷いた。
和やかな空気が来賓室を包む。しかし、ミレアとグレインの胸の奥に宿る懸念が、消え去ったわけではなかった。
嵐は、もうじき訪れようとしていた。