悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
52話:アーデン、お帰りなさい!
翌日、セルディアの民間共同ハンガーには、いつにも増して華やかな声が響いていた。
「アーデン、お帰りなさい!」
数日間に及ぶシンセ・フィブラでの精密検査を終え、ようやく戻ってきた愛機を、レタリアは満面の笑みで迎えた。装甲にそっと抱きつくと、マキナ特有のひんやりとした金属の感触が心地よく伝わってくる。
「ふふ、以前よりも一段と綺麗に磨かれてピカピカですわよ! 流石はミレアたちですわね、上機嫌になってしまいますわ!」
「検査だけじゃなくて、各部のメンテナンスもしておいたからね」
ハンガーを見下ろす高架研究室の窓を開け、ミレアが呆れたように、けれどどこか優しく声をかけた。
レタリアは待ってましたとばかりにタラップを駆け上がり、アーデンのハッチを開けてコックピットへと滑り込む。シートに身を委ねた。
「ええ、この感覚ですわ。完全にわたくしの身体に馴染みますわね!」
愛機との再会を無邪気に喜ぶレタリアの姿を見届け、ミレアはふっと微笑んで窓を閉めた。そして、先ほど研究室に届いたばかりの未開封の私物コンテナに目をやる。
中身を確認すると、端末の横に見慣れない小さな物体が置かれていた。
「これは……データチップ? ずいぶんと古ぼけて、規格も古いものね……」
表面には、手書きの無骨な文字で『グレイン』とだけ記されていた。
胸の奥をざわつかせる嫌な予感が走り、ミレアは即座にチップをメインコンソールへ差し込んだ。読み込みのインジケーターが明滅し、データが展開される。同時に、時間差で設定されていた暗号化メッセージが画面にポップアップした。
「これって……!」
データチップから展開されたのは、広大なデブリ帯に埋もれた「ある建造物」の詳細な三次元構造データ。そして、その最深部の一点を指し示す、明確な座標だった。画面の隅に浮かび上がる、暗号と思われる文字列がミレアの目を射抜く。
――『ルネクトプロトコル』。
意味を深く考える間もなく、ミレアは自動再生されたグレインからの短いテキストメッセージを貪るように読んだ。
『俺は少し出てくる。もし5時間経っても俺が戻らなければ自警団と、何でも屋を動かして全力でセルディアを守るんだ。頼んだぞ』
「グレイン、前の時はこのデータは無かったわ、まだ隠していたのね……!?」
ミレアの腕がわなわなと震え、端末を握る指先が白く強張る。彼が向かったのは、ブラング一味が潜伏し、あの無人機たちが現れた宙域。
「一人で勝手に、よりにもよって、どうして私にこんなことを頼むのよ……! 私はシンセ・フィブラの研究者で、自警団の人間じゃないのよ……!? もしかして、わざと正規の手続きが遠回りになるように、私を中継点にしたの……!?」
シンセ・フィブラの一研究主任が管理局に掛け合ったところで即座に自警団やフリーランサー達を動かせるはずもない。
「どうしましたの、ミレア? そんなに血相を変えて」
研究室の通信モニターに、コックピットから異変を察知したレタリアの顔が映し出された。
「レタリア……! グレインが勝手に出て行ったわ。恐らく、先日あなたたちがブラングを救出した、あのデブリ帯の廃墟よ」
「何故ですの!? あそこにはまだ、あの不気味な『むじんき』どもがいるかもしれないのに……。たったおひとりで!? わ、わたくしもすぐに向かいますわ!」
「待ちなさい、早まるんじゃないの! まずは自警団に連絡を入れて、戦力を整えないと……。でも、私はグレイン以外に直接融通の利くパイプなんて……っ」
普段の冷静さを失い、焦りを募らせるミレア。しかしレタリアは他者の焦る様子を見ると逆に落ち着いてしまう要領で冷静になっていた。
「ミレア、落ち着きになって。えーと……団長であるグレインが不在の緊急事態。連絡するならステシアさん……は違いますわね。レッタさんでもない……となれば、メリーさんですわ! メリーさんに直接連絡を取るのが、一番早くて確実ですわよ!」
レタリアの真っ当な指摘に、ミレアはハッと目を見開いた。
「……そうね、その通りだわ。わかった、こちらからメリーさんに連絡を入れるわ! レタリア、悪いけど、あなたはそのままアーデンの出撃準備を急いで!」
「分かりましたわ! 今すぐ行けますわよ!いえ、今から『ノーブル・ロータス』に着替えますわ!」