悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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53話:魔の潜む海域ですわ

 セルディアを遠く離れた、光すら届かぬデブリ帯の深淵。

 自警団隊長グレインは、自身の愛機『シュエル』のコックピットの中で、周囲の索敵モニターを凝視していた。

 

 ここは先日、レタリアたちがブラング一味を救出したまさにその宙域である。以前拾った古いデータチップの情報だけでは、広大なデブリ帯から目的の座標を特定するのは不可能に近かった。だが、レタリア達が記録し、持ち帰った戦闘映像と詳細な地形データを照合することで、グレインはついにこの不毛な建造物群へとたどり着いていた。

 このさらに奥、誰も立ち入らぬ闇の底に、元凶がいるはずだった。

 

「……それにしても、無人機が向かってくる様子がないな」

 

 グレインは注意深くセンサーの数値を更新するが、コンソールに動く影は一つとして映らない。

 先日、執拗にレイダーたちを追い回していたというマキナの姿も、廃工場で襲ってきた小型の機体の姿もどこにも無かった。ただ壊れた鉄屑と岩塊が漂う、完全な死と残骸の世界がそこには広がっている。

 

 不気味なほどの静寂の中、グレインは機体のコンソールに映し出したデータチップの構造図と、目の前の建造物群を一つずつ照合していった。

 そして、宙域の最も深い奥底――ついに目的の建物が、シュエルのメインカメラに捉えられた。

 

「ビンゴだ」

 

 グレインは小さく呟くと、万が一に備え、自警団の暗号周波数に合わせた微弱な位置ビーコンをデブリの陰に設置した。これが、後に続く者たちへの唯一の道標となる。

 覚悟を決め、シュエルはゆっくりと巨大な廃墟の内部へと侵入した。

 

 

 建造物の中は、外見以上に荒れ果てていた。

 かつてはマキナを用いて何らかの極秘作業を行っていたであろう、巨大な研究施設。崩落した天井や切断された太いケーブルが、重力のない空間に不気味に浮かんでいる。データチップの座標が指し示しているのは、この広大な施設の中央、最深部の一点だった。

 

 物陰からの不意な奇襲を警戒し、シュエルの盾を構えながら慎重に歩を進める。

 やがて、ねじ切れた巨大な防壁シャッターの奥へとたどり着き、グレインはその内部を覗き込んだ。

 

 直後、彼の息が止まった。

 

「……なんだ、これは……」

 

 流石のグレインも、その光景には戦慄を禁じ得なかった。

 広大な空洞の闇に鎮座していたのは、通常の汎用マキナを遥かに上回る、圧倒的な質量を持った赤黒い巨体だった。重装甲の塊のような凶悪なフォルム、機体各部から突き出た未知の兵装。それは、元来は作業用パワーローダーの延長線上に過ぎない現行のマキナとは、根幹から設計思想が異なる存在――純粋な戦闘のために産み落とされた、完全な『機動兵器』だった。

 

 本当ならば、一旦退いて入念な調査を行うべきだ。だが、もしこいつが、あの無人機たちと同じようにセルディアに向けて暴れだしたらどうなる?

 旧型であったとしても機動兵器となると話が違う。街がどれほどの被害を受け、どれほどの犠牲者が出るか、想像するだけで背筋が凍った。

 

(こいつが今、動かないという保証はどこにもない。……なら、やるしかない!)

 

 グレインはシュエルの操縦桿を握り直し、携行している試作型フォトンライフルの出力設定を、強制的に限界最大へと引き上げた。

 機体への負荷は凄まじいが、この一撃を最大チャージで叩き込めば、いかにこのデカブツと言えども致命的な損傷を与えることができる。上手く内部の炉心に直撃させられれば、一撃で完全破壊も狙えるはずだ。

 

 フォトンライフルのバレルがまばゆい光を放ち、エネルギーの充填が開始された。

 その、破壊へのカウントダウンが始まった刹那。

 

 死に絶えていたはずの空間に、突如として不気味な電子音声が響き渡った。

 

『――侵入体検知。ルネクトプロトコル干渉リスク:高。……排除シーケンスへ移行――』

 

 それは、中性的でありながら、どこか透き通るような――『声』だった。

 

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