悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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54話:聞こえるか、レタリア。よく、ここまで来てくれた

 光を吸い込む漆黒の空間。まるで暗い海の中を進むかのように、複数のマキナがデブリの合間を縫って突き進んでいた。

 

「皆様、急ぎましょう! 一刻の猶予もありませんわ!」

 

 紫紺の閃光を放つレタリアのアーデンを先頭に、ステシア、レッタ、アランド、そしてメリー率いる複数人の自警団精鋭メンバーがその後を追う。スラスターの光だけが、静寂の虚空を微かに照らしていた。

 

『――後続も追ってこちらに向かっているけれど、戦力の大半はセルディアに残してきたわ』

 

 メリーが通信越しに、現状を告げる。

 もし敵の正体が判明したとして、そこにどれほどの戦力が潜んでいるかは未知数だ。仮にそこへ自警団の戦力の大半を割いてしまえば、肝心のセルディアの防衛がおろそかになる。そのためメリーは、自警団の戦力の大半と、街に滞在していたゼインをはじめとするフリーランサーたちにセルディアの防衛を一任していた。この混乱に乗じて、他のレイダーたちが街を襲撃してくる可能性も否定できないからだ。

 

『それにしても、隊長はなんで一人で向かっちまったんですかね。あの無人機、ぶっちゃけ結構ヤバい性能だったじゃないですか』

 

 レッタが不満と心配の入り混じった声を漏らす。

 

『そうですよぉ。普段から、一人で良い所を持っていこうなんて考えるような人じゃないですよねえ、あの隊長は』

 

 ステシアもまた、いつもの軽い口調の裏に焦燥をにじませて同調した。

 

『私にも分からないわ。けれど……あの人は責任感が強すぎるから、全部一人で抱え込んでいたのかもしれない。……隊長と仲の良いイチノセ博士も、『私が頼りないから、あの人に気を遣わせて無理をさせてしまったのかも……』って、ひどく落ち込んでいたわよ』

 

 メリーのその言葉は、出撃前に通信した際のミレアの様子を物語っていた。

 レタリアもまた、出撃直前に見たミレアの痛々しい姿を思い出していた。

 

『グレインが何も言わずに一人で行ったのは、きっと……半分は私のせいよ』

 

 アーデンのディスプレイに映し出されていたミレアは、前髪の影に顔を伏せ、その表情を読み取ることはできなかった。けれど、その声は微かに震えていた。

 

『彼は、出来る事なら自分一人の手で、この不気味な無人機の騒動をすべて終結させようとしていたのよ。きっと、ずっと前から……。彼がやたらと機体のリミッター解除を焦って、出力強化を求めていたのも、きっとこのためだったんだわ』

 

 ミレアは一度言葉を切り、画面越しにレタリアの瞳をまっすぐに見つめていた。

 

『レタリア、きっとこの先で戦闘が起こる。……本当はね、アーデンのシステム的な危険性があるあなたを、これ以上無茶させたくはなかった。けれど……頼りにしているわ』

 

(ミレア……。わたくしは、大丈夫。やれますわ)

 

 物思いにふけっていた、そんな時に不意に男の声が通信に割り込んできた。

 

『どうしたお嬢? こんな緊迫した状況でぼーっとして。いつもの元気がないじゃん』

 

 アランドのどこか呆れたような、しかし気遣わしげな言葉に、レタリアはハッと我に返った。

 

「い、いえ、何でもありませんわ……! わたくしは至って平常運転ですことよ!」

 

『――全機、静粛に。微弱なビーコンの反応を捉えたわ。……暗号化周波数、自警団の規格よ。間違いない、隊長だわ!』

 

 メリーの声に、全機のセンサーが一点へと集中する。

 

『この奥に、隊長が……。お願いですから、無事でいてくださいよ……!』

 

 ステシアの祈るような言葉が響いた、その瞬間だった。

 レタリアの視界が、一瞬だけ白く明滅したような錯覚に襲われる。

 

『――聞こえるか、レタリア。よく、ここまで来てくれた』

 

 突如として、レタリアの頭に直接、その『声』が響き渡った。

 肉声ではない。通信機を通した音声でもない。脳の神経回路を直接侵食してくるような、中性的で、透き通るほどの響き。

 

「な、何ですの……!? この声は、貴方は……あの時の……!」

 

 レタリアが思わず叫ぶ。

 

『レタリア!? どうしたの、何か通信が聞こえるの!? こちらのセンサーには何も――』

 

 メリーの焦った声が耳に届くが、今のレタリアにはそれに反応するだけの精神的な余裕は一切なかった。

 頭の中に響く声は、さらに明瞭に、厳かにその言葉を刻み込んでいく。

 

『――ルネクトプロトコル、最終シーケンスに移行。感応ユニット『アーデン』、および適合体『レタリア』。これより、最終評価テストを開始する――』

 

 それは、あの日、暗黒の宙域でレタリアに可能性を問いかけてきた声と、完全に同一のものだった。

 深淵の奥から吹き荒れる嵐は、レタリア達を巻き込もうとしていた。

 

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