悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
シュエルの放つ試作型フォトンライフルが、限界充填の咆哮を上げた。銃身が超高熱の白熱光に染まり、放たれた一撃は絶対的な光の槍となって、赤黒い巨神の胸元へと突き進む。
だが、その着弾の刹那。
眠っていたはずの巨神の全身から、それを上回る悍ましい赤黒い閃光が爆発的に解き放たれた。
眩い二つの極大エネルギーが正面から衝突し、周囲の空間を強烈な電磁ノイズで塗りつぶす。激しい光の鬩ぎ合いの後、シュエルの放った渾身の閃光は、信じがたいことに完全に相殺され、霧消した。
「馬鹿な……!」
グレインの顔が驚愕に染まる。最新鋭の試作フォトンライフルによる最大出力の射撃だ。現行のマキナであれば、盾ごと消し飛んでいてもおかしくはない。それを正面から受け止め、相殺してみせたというのか。
やはり、これは旧時代の遺物などではない。純粋な戦闘用の『機動兵器』であり、なおかつあの無人機たちを操る未知のシステムによって、その限界を遥かに超える領域まで書き換えられている。
パチパチと、シュエルの右腕で激しい火花が散った。ライフルの過負荷にジェネレーターが悲鳴を上げている。銃身は自らの生み出したエネルギーに耐え切れず、融解を始めていた。これ以上の使用は自爆を招く。
「チッ……持っていけ!」
グレインは瞬時に判断し、使い物にならなくなったフォトンライフルを巨神に向けて力任せに投げつけた。直後、エネルギーの暴走を起こしたライフルが、まばゆい光に包まれて大爆発を起こす。
その爆炎を目眩ましに利用し、グレインはシュエルのスラスターを全開にして反転。巨大な建造物の外へと向かって猛烈な加速で退避を始めた。
しかし、背後から迫るプレッシャーは尋常ではなかった。完全に覚醒した赤黒い怪物は、空間そのものを焼き尽くすかのような光の嵐を撒き散らしながら、恐るべき速度でシュエルを追尾してくる。
『――コアユニットは既に見つかっている。ノイズは排除する――』
シュエルの密閉されたコックピットに、先ほどと同じ中性的な声が、直接通信回線をジャックして響き渡る。
直後、死角から迫る幾条もの光の束がシュエルを襲った。
「くおっ……!」
グレインは咄嗟に左腕のシールドを構え、直撃の軌道を受け流そうと試みる。だが、絶え間なく押し寄せるエネルギーの暴風は、シュエルの堅牢な盾を容赦なく削り取り、その表面を次第に赤く融解させていった。凄まじい熱量がコックピットを警告アラートで埋め尽くした。
グレインは迫る死線の中で、脳裏に焼き付いていたデータチップの不可解な単語を叫んだ。
「『ルネクトプロトコル』……! その正体が、お前なのか!? エスカド社の連中なんて、最初からここには居なかったんだな!?」
相手が人間ではないことは、この異常な状況からすでに確信していた。だが、尋ねずにはいられなかった。
光の嵐が吹き荒れるたび、周囲の巨大な建造物が、まるで紙細工のように容易く解体されていく。強固な壁も、太い柱も、天井も床もがバラバラに引き裂かれ、粉砕され、室内の景色は一瞬にして冷酷な宇宙の深淵へと様変わりしていった。
だが、怪物からの返事は無い。
完全に崩壊した建造物の残骸の中で、剥き出しになったシュエルと、その前に悠然と浮かび上がる赤黒い巨神の姿があらわになる。
その瞬間、データチップからシュエルにインストールされていたデータが、目の前の巨神の熱源パターンと完全に一致し、不気味なシステム音と共に一つの単語を導き出した。
――『レストフル(Restful)』。
「レストフル(平穏)だと……? 破壊の化け物のくせに、ふざけた名前を名乗りやがる……!」
フォトンライフルを失い、左腕のシールドも熱量で完全に融解して使い物にならない。今のシュエルに残された武装は、牽制用の小型マシンガンと近接用のフォトンセイバー、そして肩部のミサイルポッドのみ。圧倒的な戦力差。
だが、グレインの瞳から闘志は消えていなかった。まだ、やるしかない。
「外装がどれだけ硬かろうが、機械である以上はどこかに駆動系があるはずだ。……当たり所が良ければ、やれるかもしれんな!」
シュエルは急速接近しながら、両肩のミサイルを全弾一斉に放った。数十発の光の尾が交差しながら、巨神『レストフル』の巨体へと吸い込まれていく。
連続する激しい大爆発が赤黒い装甲を包み込んだ。だが、煙の向こうから現れたその姿には、装甲の表面が僅かに煤けた程度のダメージすら確認できなかった。
代わりに、レストフルから放たれる、先ほどとは比較にならない密度のフォトンの嵐が、逃げ場の無い宇宙空間を埋め尽くすようにしてシュエルへと襲い掛かってくる。
「くそっ! 化け物め!」
極限の回避行動を取ろうとした、まさにその刹那。
グレインの視界のすべてが、逃れることの敵わない、圧倒的な白い閃光によって塗りつぶされた。