悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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56話:禍々しき魔神

 レタリアたちの視界の先、漆黒の宇宙が突如として昼間のように爆発的な白に染まった。

 それは、遠く離れた戦域から放たれた極大の閃光。真空を切り裂き、デブリを蒸発させながら、遥か彼方の闇の果てへと一直線に飛んでいく光の奔流だった。

 

「な、なんですの、今の光は……!」

 

 一瞬、その圧倒的な質量の破壊光に呆気にとられる一同だったが、共有回線に響いたメリーの悲痛な叫びが全員を現実に引き戻した。

 

『――隊長よ! 全機、最大戦速! 急ぎましょう!』

 

 メリーの声に弾かれるようにして、アーデンを先頭とするマキナの群れは、さらにスラスターの出力を跳ね上げて宇宙を駆けた。

 

 数拍の後。

 崩壊した建造物の残骸が漂う戦域へと滑り込んだレタリアたちの目の前に、あまりにも凄惨で、圧倒的な光景が広がった。

 

 そこにいたのは、左腕を根元から失い、メインカメラが存在する頭部ユニットすら完全に吹き飛ばされた『シュエル』。

 そして、その満身創痍の機体の前に悠然と滞留する、禍々しい赤黒い巨神の姿だった。

 

『隊長――っ!』

 

 ステシアが悲鳴のような叫び声を上げる。

 

『……くそ、しくじったか』

 

 頭部を失ったシュエルのコックピットから、グレインの苦々しい、しかし未だ折れていない強靭な声が途切れ途切れに返ってきた。

 

「グレイン! なぜこのような無茶をなさいましたの!?」

 

 レタリアがアーデンを肉薄させようとするが、グレインの鋭い制止の声がそれを阻んだ。

 

『おしゃべりをしてる暇はない、各員、コイツから離れろ! ……生半可な連携じゃ話にならん、コイツを何とかするには、セルディアの全勢力が必要かもしれん……!』

 

 グレインの警告が響き渡った直後、言葉通り、宇宙のすべてを埋め尽くさんばかりの『光の嵐』が吹き荒れた。

 それは、手負いのシュエルに止めを刺すためだけのものではない。この場に現れたレタリアたち新手を、まとめて消し飛ばすための無慈悲な広域掃射だった。

 

 その光の雨を前にして、シュエルが、これまで団員の誰もが見たこともないような「あり得ないほどの高機動」を見せた。

 頭部を失い、視界の大半をセンサーの数値だけで補っているはずの機体が、まるで物理法則を無視したかのような滑らかな制動で、光の軌跡を紙一重ですり抜けていく。それは、あの驚異的なアーデンの動きにも、決して劣らないレベルの神速の領域だった。

 

『ぐぅ、うっ……!!』

 

 回線越しに、グレインの血を吐くような凄絶な声が漏れ聞こえる。

 これほどの超急制動によるGに耐えられる人間など、このセルディアにはレタリア以外に存在するはずがなかった。グレインはシュエルの安全リミッターを完全に強制解除し、文字通り自らの命と気力を燃料にして、肉体の限界を超えて機体を操作していたのだ。

 

 幸いにも、他の自警団員たちは巨神『レストフル』からある程度の距離を保っていたため、回避と防御の行動に僅かながらの猶予があった。

 レッタは愛機の強固な盾で高熱の光を受け流し、アランドは経験に裏打ちされた鋭いステップで空間を跳ねて回避。ステシアや他の隊員たちも、装甲をかすらせはしたものの、致命的なダメージを負うまでには至らなかった。

 

「ば、化け物……なんなんですか、アレは……!」

 

 レッタの声が、明らかな恐慌を帯びて震えている。マキナの常識を遥かに超越した質量と速度、そして火力。

 レタリアは、アーデンの操縦桿を握り締めながら、正面の赤黒い巨体へと視線を向けた。

 

「……この禍々しい魔神が。頭の中に直接語りかけてくる『あなた』ですのね……!」

 

 彼女の糾弾に応じるように、脳裏に再び、あの透き通った中性的な音声が響き渡る。

 

『――本テストの最終段階へと移行する。この「レストフル」との実戦戦闘試験によって、貴機らの最終評価を行う。……感応ユニット「アーデン」の真なる性能を発揮せよ。「レタリア」――』

 

 直後、レストフルの機体各部が不気味に発光し、第二波となるフォトンの嵐が解き放たれた。それは周囲に存在するすべての「ノイズ」――すなわち、自警団の面々を塵一つ残さず消し飛ばさんとするための、絶対的な拒絶の光だった。

 

 グレインは再び人外じみた挙動でその射線を回避し、距離を取っていたレッタ、アランド、メリー、そして他の自警団員たちも、息を呑みながら辛くもその死線を躱し続けた。

 

 しかし――光の嵐が止んだ、その一瞬の静寂の中。

 

「あっ……」

 

 誰かの、呆然とした声が漏れた。

 ステシアの駆る機体『フロード』が、不自然にその動きを止めていた。彼女の機体の右肩、そして胴体にかけて、広範囲に及ぶ巨大な溶解の穴がぽっかりと空いていた。

 

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