悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

64 / 64
63話:わたくしが、英雄……?

 セルディアの一般居住区。

 本日の環境設定は「快晴」。ドーム状の天井に映し出された人工太陽の柔らかな光が、冷たい鉄の街を心地よく照らし合っていた。

 

 そんな居住区の通りを、レタリアは楽しげに歩いていた。

 今日の彼女は、いつもの窮屈なパイロットスーツではなく、お気に入りの白い日差し帽に、透け感のある軽やかなブラウス、そしてひざ丈のフレアスカートという、いかにも良家のお嬢様らしい軽快な私服に身を包んでいる。

 

「副隊長の話の時、私、ちょっと本気だったんですよ~」

 

 隣を歩くステシアが、唇を尖らせて不満そうな顔をする。

 

「ふふっ、流石にわたくしでも、あなたが副隊長になるというのは、少々お戯れが過ぎますわね」

 

 口元を手で隠し、くすくすと上品に笑うレタリア。

 聞きなれない言葉に一瞬キョトンとするステシアだったが、すぐに『意図』を理解した。

 

「ちょっとー! あの後、レッタさんたちから散々いじられたんですからね! レタリアさんまでそんなこと言うなんて酷いですー!」

 

 ぷいっとへそを曲げてみせるステシアだったが、すぐに耐えきれずに自分からけらけらと笑い出した。

 そんな他愛のない休日を楽しみながらも、レタリアの足は自然と、ドック近くにあるいつもの依頼掲示板へと向いていた。今ではこの世界の文字もある程度は読めるようになり、翻訳機(MTI)の音声ガイドをいちいち通さなくても、何が書かれているのかが理解できるようになっていた。

 

「お仕事も、随分と落ち着いてきましたわね」

 

「ようやくレストフルの回収作業が終わりましたからねー。自警団も徐々に元の巡回任務に戻ってきますよ! メリーさんとイーサンさんは、書類仕事が山積みで大変そうでした!」

 

 副隊長に立候補しておきながら、臨時副隊長となった二人の苦労には全く無頓着なステシア。その見事な他人事の発言に、レタリアは苦笑するしかなかった。

 

 近くのベンチに腰掛け、二人で冷たいジュースを飲んでいると、不意に聞き馴染みのある男の声が届いた。

 

「よう、お嬢様方」

 

 振り返ると、そこには休日用のラフなジャケットを着たゼインと、その隣に立つファルの姿があった。

 今日のファルはいつものおさげ髪ではなく、茶髪を後ろで一本にすっきりとまとめ、動きやすいショートパンツ姿だった。

 

「ごきげんよう、ゼイン、ファル。良い休日ですわね」

 

「こんにちはー!」

 

 レタリアとステシアの挨拶に、ファルもぺこりと頭を下げて近くに寄ってきた。

 

「いやー、デブリ帯の奥の戦い、大変だったみたいだな。街まで噂が流れてきてるぜ」

 

 ゼインが尋ねてくると、本当に死線を彷徨ったステシアが、しみじみとした説得力を込めて応じた。

 

「はい、もう本当に死ぬかと思いましたよ! 私のフロードがドロドロに溶かされちゃって!」

 

「私たちはセルディアの防衛に出てたんだけど、こっちにも何人か火事場泥棒のレイダーが来たわよ。まあ、軽くひねってやったわ!」

 

 小さな拳をぐっと握って胸を張るファル。

 

「主に、俺がな」

 

 すかさずゼインが笑いながら突っ込みを入れる。あの複座式マキナでの息の合った掛け合いは、相変わらずのようだった。

 

「で、でもっ!」

 

 ファルが顔を赤くしながら、思い出したように嬉しそうに声を張り上げた。

 

「もうすぐ、あたしの『新しい機体』が届くのよ!」

 

「まあ! それは素晴らしいことですわ!」

 

「え、どんな機体なんですか!?」

 

 マキナ好きのステシアが、身を乗り出すようにして尋ねる。ファルは少しだけもじもじしながら、頭をかいた。

 

「本当は、その……自警団の人たちみたいな『ルード』にしたかったんだけど……ちょっと、あたしの予算が足りなくて……」

 

「俺が足りない分は出してやろうかって言ったんだがな。頑なに拒否されちまった」

 

「それは……その、あたしの力で稼いだお金で買った機体にしたかったから! 自分の足で立ちたかったの!」

 

 そう言ってから、ファルは誇らしげに向き直り、その機体名を告げた。

 

「『マーファント』にしたの!」

 

「マーファント!? レデテル社の現行モデルじゃないですか!」

 

 ステシアが瞬時に反応する。

 

「そう! ステーション・クラネアで展示用に使われていた新古品が、すっごく安く売りに出されてたのよ! 性能ならルードにも負けないわ。今の親方の機体も、あたしが前に乗ってた機体もレデテル社製だから、操作にも慣れてるしね」

 

 本当に嬉しいのだろう、ファルは目を輝かせて語る。するとステシアが、ちょっと意地悪そうにニヤニヤしながら口挟んだ。

 

「シンセ社のライバル企業かぁー。これはシンセ社のあるセルディアじゃ整備の依頼を受けられないですねぇ?」

 

「そんなことないわよ! 現に親方のマキナだって、シンセのドックで面倒見てもらってるじゃない!」

 

 必死に反論するファルの様子に、ゼインとレタリアが同時に吹き出し、つられてステシアとファルも大笑いした。

 

「機体が届いたら、バリバリ稼いでやるんだから!」

 

 そう息巻くファルの姿は、どこまでも前向きで、眩しかった。

 

 ◆◆◆

 

 ――その夜、自警団本部の自室。

 休日を満喫したレタリアは、温かいシャワーを浴び終え、ゆったりとした部屋着姿でベッドへと寝転んだ。

 流れ着いた当初は窮屈に感じていたこの手狭な個室も、今ではすっかり、彼女にとって落ち着ける「我が家」のようになっていた。

 

 天井を見つめていると、昼間の賑やかな記憶の底から、先ほどラボでミレアと交わした「あの会話」の続きが、静かに脳裏へと蘇ってきた。

 

 自身が異世界人であることを打ち明けた、あの沈黙のあと。

 ミレアはホログラムの明かりに照らされながら、静かにこう言ったのだ。

 

「――もし、あなたという存在がここにいなかったら、今頃セルディアがどうなっていたか分からないわね。……安易に使っていい言葉じゃないけれど、レタリア。あなたは紛れもなく、この街の「英雄」よ」

 

「わたくしが、英雄……?」

 

 聞き返した自分の声は、どこか頼りなく響いていた。

 感じるだけしかできなかった無能な魔法が、アーデンという鉄の巨人を介したことで、恐るべき戦果を叩き出した。そこまでは自覚している。けれど、英雄。以前にもグレインが軽口のようにそう呼んでいたが、ミレアの口から真剣に告げられると、その重みは全く違っていた。

 

 幼い頃、本の中で読んだ伝承の英雄たち。遠い星々の世界に迷い込んだ自分が、まさかそんな大層な存在に?

 

「あなたの持ち物――あの保存食、花の種、これで納得がいったわ。あなたは戦いだけじゃない。その存在のあらゆる面で、私たちを助けてくれたのよ」

 

 真っ直ぐに自分を見つめて話すミレアの双眸。

 

「わ、わたくしは、そのような、滅相もありませんわ……」

 

「それに、『レストフル』はわたくしがいたから……」

 

 レタリアの言葉をミレアは途中で遮った。

 

「いえ、ブラングの様に誰かが接触した時点で、『アレ』が目覚めていた可能性は高いわ。どちらにしてもすぐ動き出す脅威がそばに来ていたことは事実だったの。ありがとう、レタリア」

 

 流石のレタリアも、正面からの賛辞に言葉を詰まらせてしまった。

 そのまま、二人の間に長い沈黙が流れた後、ミレアは本当に聞きたかったであろう、核心の問いを口にしたのだ。

 

「レタリア。……あなたは「この世界」で、これからどうやって生きていきたい?」

 

 ――回想が、そこで途切れる。

 

 ベッドの上でゴロリと寝返りを打ち、レタリアはミレアのその言葉を何度も頭の中で反芻した。

 この世界で、どう生きるか。

 そして、その問いによって、彼女の胸の奥底に眠っていた「元の世界」の記憶が、再び鮮烈な痛みと愛おしさを伴って呼び覚まされる。

 

 まだ追放される前、優しかった頃の両親の厳格な、けれど温かかった顔。

 幼き日に、自分の後ろをトコトコとついてきては、無邪気に笑いかけてくれた妹の顔。

 そして――。

 

 レタリアは枕元に置いていた私物袋の中から、一枚の折り畳まれた紙をそっと取り出した。

 それは、元の世界で最後まで自分を信じ、自らの身を案じ続けてくれていた唯一の侍女――キアラが、別れの間際に手渡してくれた手紙だった。

 

 星の海の静寂の中、レタリアはその手紙を開いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜(作者:織雪ジッタ)(オリジナルSF/冒険・バトル)

そこは未来都市。▼何年も放置していたVRMMORPGに久しぶりにログインしてみた青年、ショウ。▼すっかり人のいなくなったそのゲームの世界に、懐かしさと哀愁を覚えながら、特にすることもなくログアウトする――はずだった。▼しかしショウは、ゲーム内のアバターであるおぞましくも禍々しい「魔族」の姿のまま、現実世界に出てきてしまう。▼魔族の見た目のせいで自分の意志とは…


総合評価:106/評価:6/連載:146話/更新日時:2026年06月19日(金) 09:17 小説情報

魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】(作者:Koh_novel)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【毎日更新】【魔法の才能ゼロの令嬢に、最強転生魔法ジジイが科学知識を教えたら? → A.めっちゃ無双する】▼魔法の才能で全てが決まる世界で、最底辺の才能の少女が前世持ち最強魔法使いのジジイと出会い、科学知識で「魔術の始祖」「魔道具の母」と呼ばれるまで成り上がっていく物語です。▼-----▼「火魔法なんて"真空"で防げば良いじゃろ」「シンク…


総合評価:492/評価:8.5/連載:33話/更新日時:2026年06月19日(金) 17:10 小説情報

ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう(作者:マテリ-AL)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

全51話・約32万字/完結済み▼毎日20:18更新▼『ソル&ヴァルキリー 』。神の代弁者・魂導者(ソル)となり、戦乙女(ヴァルキリー)を空へ育て導くヒロイン育成系学園RPG。▼これは、そんなゲームの世界で、▼「戦乙女という空を飛べて広範囲殲滅魔法を使える存在がいるのに、騎士になる意味はあるのか……?」▼と考えてしまい、魂導者となったやられ役のかませ騎士、ルシ…


総合評価:5618/評価:8.4/完結:52話/更新日時:2026年05月09日(土) 10:18 小説情報

TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ(作者:イア! イア!!)(オリジナル現代/ホラー)

SAN値直葬系マスコットとそれを心から愛する転生者(正気)の日常。▼※序盤とタイトルを書き直しました。▼気分転換に書いた作品を投稿欲を満たすために投稿してみます。▼続き書いたら増えます。


総合評価:1366/評価:8.44/連載:13話/更新日時:2026年06月19日(金) 18:06 小説情報

破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件(作者:らくべえ09)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【ざまぁ】され身分も財産も失った公爵令嬢カーシャ・チーフウォール。▼辺境の街に送られる途中、気づけば夢とも現実ともつかない赤い場所にいた。▼何度死んでも生き返り、殺し殺される地獄の中で、ついには環境に適応してしまうカーシャ。▼しかし適応したと思った頃に、またも護送中の馬車に逆戻り。▼そのまま辺境の街に放り出されるが、とりあえず生きるためには冒険者になるしかな…


総合評価:6248/評価:8.36/連載:367話/更新日時:2026年06月18日(木) 19:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>