悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

73 / 73
72話:せっかくわたくしが可愛らしく呼んで差し上げましたのに、その態度はなんですのー!?

「へ?」

 

 ミレアの薄い唇から、彼女の普段のクールなイメージからはおよそ似つかわしくない、ひどく間抜けな声が漏れ出た。

 数々の数式を解き明かし、最先端のマキナ技術を牽引してきた天才の脳が、レタリアの刹那の即答によって、完全にフリーズしてしまったかのようだった。

 

 完全に形勢が逆転したその様子を見て、レタリアはベッドの上で小さく胸を張り、実になだらかな動作で口を開く。

 

「あなたが、そうした方が良いと思って言ってくれたのでしょう? ――なら、わたくしがそれを疑う余地など、どこにもありませんわ」

 

 ふふん、と誇らしげに、しかし確信した声音でレタリアは言いきった。

 あまりにも真っ直ぐで、一片の濁りもない信頼の眼差し。それを正面から受け止めたミレアは、普段の冷静さをどこかへ置き忘れたように、珍しくおろおろと視線を泳がせ、逆にレタリアを制止させようとしてしまう。

 

「で、でも、そんなに早まったら……。もう少し、こう、よく考えた方がいいんじゃないかしら? 戸籍を移すということは、公的な記録に一生残るし、私の親族としての責任や義務も、あなたに発生することになるのよ……?」

 

 論理的であることを信条とするミレアが、あろうことか自ら持ちかけた提案に対して、支離滅裂な防衛線を張っている。完全に混乱の渦中にある彼女をレタリアは見つめ、言葉を重ねた。

 

「ミレア。あなたが今まで、わたくしの為にならない事をしたことが、ただの一度でもありましたかしら? この世界に放り出されたわたくしに居場所をくれて、剣も騎士も与え、言葉を尽くしてくれた。……もう、そんなことは分かっておりますのよ」

 

 自信満々に、そして誇らしげに微笑むレタリア。その表情には、かつて元の世界で歪んだプライドに縋り付き、誰も信じられずに周囲を睨みつけていたかつての面影はなかった。正しい場所で、正しい人と出会い、愛されていることを自覚した少女の、あまりにも気高く美しい強さがそこにはあった。

 

 そのレタリアの姿をじっと見つめていたミレアは、やがて、自分がどれほど杞憂を抱いていたかを悟ったのだろう。張り詰めていた肩の力が、すとんと抜けていく。

 

「……そう。ふふ、本当に敵わないわね、あなたは」

 

 ミレアの端正な顔立ちが、今度こそ、心の底から柔らかく綻んだ。

 いつもどこか一線を引いていた紫の瞳が、今はレタリアを本当の身内として――守るべき大切な家族として、温かく映し出している。

 

「ありがとう、レタリア」

 

「お礼を言うのはわたくしの方ですわよ、ミレア。……ふふっ、これからも宜しくお願いしますわ」

 

 レタリアは少しだけいたずらっぽく首を傾げ、最高の笑みを浮かべて、その名を呼んだ。

 

「――お姉さま?」

 

「……っ、その呼び方は、流石にまだ耳に慣れないわね」

 

 ミレアは一瞬だけ驚いたように目を見張ったあと、決まり悪そうに顔を背けた。白皙の頬が、ほんのりと朱に染まっている。普段、ラボで指示を飛ばしている彼女からは想像もつかない、あまりにも初々しい姉としての反応だった。

 

「なんでよ! せっかくわたくしが可愛らしく呼んで差し上げましたのに、その態度はなんですのー!?」

 

「可愛らしく、ねぇ……。いつもの高笑いが混ざりそうで、なんだか落ち着かないのよ」

 

「失礼なことですわ! わたくしはいつだって気高く、可憐ですわよ!」

 

 ぷう、と頬を膨らませるレタリアと、それを見てついに耐えかねたように声を上げて笑い出すミレア。

 部屋の外では、相変わらず人工の雨がしとしとと窓を叩いていたが、室内に満ちる空気は、先ほどまでの物憂げな静寂が嘘のように、明るく、そして温かいものへと変わっていた。

 

 ひとしきり笑い合ったあと、ミレアは再びレタリアに向かい合った。

 

「よし、それじゃあ手続きは私の方で行っておくわね。上の人間への根回しも含めて、明日にはすべて完了させておくわ。……ああ、そうそう。ひとつ伝えておかなきゃいけないのだけど、籍を入れるにあたって、あなたはこれまで通り『アーデニアム』を名乗っても良いし、私の姓である『イチノセ』を名乗っても良いわよ」

 

 優しい口調で語りかけてくるミレア。

 

「わかりましたわ」

 

 レタリアは素直に頷いた。この世界で過ごすうちにある程度の『お作法』を理解してきていた。そしてこのセルディアという社会において、『イチノセ』という名前を使った方が、今後様々な面で事が運びやすいケースがあるということくらい、想像がつく。

 

 なにより、自分を無条件で庇護してくれた「姉」の姓である。ならば、どちらか一方を選ぶなどという妥協は、このレタリア・アーデニアムの辞書には存在しない。

 

「決まりましたわ! これからは、両方の良いところを取って――『レタリア・アーデニアム・イチノセ』ですわね!」

 

 完璧な名案だと言わんばかりに、レタリアは腰に手を当てて胸を張った。公爵家の誇りである「アーデニアム」と、新たな家族の絆である「イチノセ」を合体させた、実に見事なフルネーム。

 

 ミレアはじとーっとした半眼でレタリアを見つめ、静かに、しかし明確に言い放った。

 

「……それは違うわ、レタリア」

 

「へ? 何が違いますの?」

 

「名前はそういうシステムでつくものじゃないから、使い分けていいってことよ」

 

「なんですってー!? わたくしの高貴なひらめきをシステム風情が拒絶するなんて、ふざけるなーですわー!」

 

 再び始まったレタリアの賑やかな抗議の声を聞きながら、ミレアは今度こそ、呆れ果てたような、しかしこの上なく幸せそうな苦笑いを、その表情に浮かべるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

廃核の海 〜魔族アバターのまま現実世界に放り出された俺と不思議な美少女の物語〜(作者:織雪ジッタ)(オリジナルSF/冒険・バトル)

そこは未来都市。▼何年も放置していたVRMMORPGに久しぶりにログインしてみた青年、ショウ。▼すっかり人のいなくなったそのゲームの世界に、懐かしさと哀愁を覚えながら、特にすることもなくログアウトする――はずだった。▼しかしショウは、ゲーム内のアバターであるおぞましくも禍々しい「魔族」の姿のまま、現実世界に出てきてしまう。▼魔族の見た目のせいで自分の意志とは…


総合評価:106/評価:6/連載:146話/更新日時:2026年06月19日(金) 09:17 小説情報

魔法の才能ゼロの令嬢に最強ジジイが科学を教えたら?→A.めっちゃ無双する:【才無し侯爵令嬢と魔法ジジイの科学革命】(作者:Koh_novel)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【毎日更新】【魔法の才能ゼロの令嬢に、最強転生魔法ジジイが科学知識を教えたら? → A.めっちゃ無双する】▼魔法の才能で全てが決まる世界で、最底辺の才能の少女が前世持ち最強魔法使いのジジイと出会い、科学知識で「魔術の始祖」「魔道具の母」と呼ばれるまで成り上がっていく物語です。▼-----▼「火魔法なんて"真空"で防げば良いじゃろ」「シンク…


総合評価:2015/評価:8.71/連載:45話/更新日時:2026年07月01日(水) 17:10 小説情報

賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

フリーランスのWebデザイナーとして、都心のマンションで静かな日々を送る橘栞(たちばな しおり)。彼女の趣味は、複雑なルールのゲームを解析し、最適解を導き出すこと。そんな彼女の日常は、ある日、目の前に現れた【スキル『賢者の石』を入手しました】というウィンドウによって、静かに終わりを告げる。▼万物を対価(コスト)に変え、新たな能力を獲得できるその力に、栞は恐怖…


総合評価:5414/評価:7.07/連載:280話/更新日時:2026年06月16日(火) 20:30 小説情報

壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい(作者:あまぐりムリーパー)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

聖女ちゃんが、心を閉ざして動かなくなっちゃった、どうしよう!?▼せや、適当にそこら辺の魂突っ込んどけばええやろ!▼それで、俺が選ばれたってわけ▼んで、死なない体で化け物退治とかさせられてたんだけど、なんか聖女も狂信者も神官くんも、様子がおかしくない?▼※不定期更新▼カクヨム、小説家になろうにもマルチで投稿始めました


総合評価:3300/評価:8.2/連載:63話/更新日時:2026年07月01日(水) 07:03 小説情報

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したはいいけど、部下もダンジョンも失ってやる気がない……?▼俺、…


総合評価:923/評価:8.33/連載:204話/更新日時:2026年07月01日(水) 17:50 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>