悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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74話:公爵令嬢たるもの、社交の場での立ち回りなどお手の物ですわ!

 まばゆいばかりの白色光が、容赦なく視界を埋め尽くしていた。

 レタリア・アーデニアムは今、とある場所に立っていた。いや、正確には用意された豪奢なデザインのソファに、これ以上ないほど背筋を強張らせて腰掛けていた。

 

 宇宙自治区「セルディア」の中心区画にそびえ立つ、中央総合放送局「ビジョン・ネジョン」のメインスタジオ。それが、この場所の名前だった。

 あの超大型機動兵器「レストフル」の襲撃という未曾有の大事件と、それを成し遂げた功労者の存在は、流石の自警団や管理当局、そしてシンセ・フィブラ社の情報統制をしても完全に抑えきることはできなかった。かつて、襲撃してきたレイダー達を謎の旧式マキナ「アーデン」で鮮やかに蹴散らし、シンセ社の広報CMにまで出演したレタリアの噂は瞬く間に再燃。今や彼女は、セルディアはおろか周辺の天体ステーションにまでその名を轟かせる、時の人として再び強烈な脚光を浴びることとなったのである。

 

 広大なスタジオの対面には、ビジョン・ネジョンの看板とも言える高名なニュースアナウンサーが座り、その周囲には他ステーションから招かれた売り出し中の若手タレントや、小難しい顔をした有識者の学者たちが居並んでいる。

 数台の大型ホログラムカメラが、じっと自分を凝視しているのが分かった。

 レタリアは、人生で初めて経験するこの異様な空間に、大いに、それはもう大いに緊張しきっていた。

 

(……わたくし、どうしてこのような場所にいるのかしら……っ)

 

 先日、ミレアから告げられた時のやり取りが脳裏をよぎる。

 

 

「てれび出演……?」

「うーん……本当は受けてほしくないんだけどね。あなたの活躍はもうセルディアの誰もが知るところになっちゃったし、管理局からも要請が来て、流石にこれ以上は抑えきれなくて」

 

 あの時、普段なら絶対にメディアを嫌うはずのミレアが、いかにも不本意そうに頭を抱えていた。情報操作にかなり苦心したらしい彼女は、データパッドを睨みながらこう付け足したのだ。

 

「一応、今回の出演報酬としては二万クレジットが支払われるわ」

「あら。ただ座ってお話をするだけで、そのお給料がいただけますの? 大変素晴らしい条件にございますわね!」

 

 すっかりこちらの世界の金銭感覚――というか、庶民的な感覚が身に付きつつあったレタリアの返答に、ミレアは呆れたように苦笑いしていた。

 

「まあ、出演は仕方ないけれど、絶対に言葉には気を付けなさいね。特に、あなたがこの世界の人間じゃないこと(異世界人であること)は極秘中も極秘。知っている人間は、このセルディアでも両手で数えられるほどしかいないんだから。……大人しくしてられる?」

 

 そうやって、まるで幼子に言い聞かせるように釘を刺されたものだから、レタリアは当然のように憤慨した。

 

「また私を子供扱いしていますわね! わたくしを見くびらないでくださいまし! 公爵令嬢たるもの、社交の場での立ち回りなどお手の物ですわ!」

 

 その言葉に、ミレアは「本当に大丈夫かしら……」と、極めて心配そうな表情を浮かべていた。

 

「まあ、こちらから事前にテレビ局側へNGの質問は通してあるわ。あと、あなたがどう返答していいか分からなくて、ただ返事をせずに頷いたときは、大人の事情でそれ以上深く追求しないようにっていう約束も取り付けてあるから……」

 

 

 

 そんな、至れり尽くせりの根回しを行ってもらっていたのだが。

 本番が始まれば、立て板に水のごとく饒舌に捲し立てるであろうというミレアの予想は、完全に裏切られることとなった。レタリアは、このあまりにも未知すぎる「スタジオ」という空間の独特な空気感に、完全に気圧され、ただただ緊張で硬直していた。

 

 何より恐ろしかったのは、正面に座る司会のアナウンサーだった。自室のホログラムニュースで何度も見たことのある、セルディアの有名人なのだ。映像の向こう側にいたはずの人物が、いま、現実に目の前で自分を見つめている。その事実が、レタリアの心臓をドラムのように激しく打ち鳴らさせ、緊張感を限界まで高めていた。

 以前のCM撮影の時とは違う、台本通りではない生放送特有の張り詰めた空気。視界の端々で飛び交う、よく分からない専門用語や流行りの話題。

 

「いやぁ、それにしても、最近の開発区の治安維持コストの推移データを見る限り、シンセ社の新システム導入は急務だと思うんですよね」

「確かに。でも、それによって居住区のエネルギー配分が数パーセントでも削られるとなると、市民の感情的な反発は免れないかと……」

 

 学者やタレントたちが、レタリアには全く理解できない政治や経済の話題を笑顔で繰り広げている。頭がどうにかなりそうだった。

 そこへ、不意に司会者がレタリアへと話を振った。

 

「さあ、そして本日のスペシャルゲスト! 近年のレイダー襲撃において驚異的な防衛対応を行い、このセルディアでいくつもの困難な仕事をこなしてこられた、エースパイロット! そのお名前は、既に他のステーションにも轟いております。レタリア・アーデニアムさんです!」

 

 カメラが一斉にレタリアを捉える。隣に座っていた、近隣のスペースステーションで売り出し中だというイケメンの若手俳優が、白い歯を見せてレタリアに爽やかな笑みを向けた。

 

「お会いできて光栄です、レタリアさん。僕もあなたの戦いを映像で見ましたが、本当に痺れました。戦う女性って、とても素敵です」

 

 本来ならば、その完璧な芸能人スマイルを向けられるだけで、多くの女性が顔を赤らめて色めき立つであろう魅力的な人物。しかし、今のレタリアには、目の前の男が魅力的であるかどうかを感じる精神的な余裕など、一ミクロンも残されていなかった。男の顔が、まるでバグったホログラムのようにぼやけて見える。

 

「は、はい……っ。わ、わたくしも、たいへん、こ、光栄で……光栄でございますわ……」

 

 いつもなら「おーっほっほ!」と響き渡るはずの高笑いも出ず、舌がつれたようなたどたどしい口調で、どうにかそれだけを絞り出す。完全に借りてきた猫状態だった。

 

 そんなスタジオの薄暗い隅っこに、二人の人物が並んで立っていた。

 私服姿のミレアと、自警団の副隊長であるイーサンだ。本当ならば隊長であるグレインが保護者として付き添う予定だったのだが、あいにく彼はまだ入院中の身。そのため、代理としてイーサンが警護を兼ねて同行していた。

 

「お嬢様、完全に緊張しっぱなしだな。置物みたいに固まってるぞ」

 イーサンが苦笑しながら囁くと、ミレアはハァ、と深い溜息をついてデータパッドを胸に抱え込んだ。

「……変なことを口走ってしまうよりは、あの状態(フリーズしている状態)の方が、事後処理としては遥かに楽かもしれないわ……」

 

 そんな二人のハラハラとした視線を余頭に、スタジオの会話は進み、ついに本日の本題である「レストフル」の話題へと移行した。

 

「さて、レタリアさん。ここ最近、セルディアではひっきりなしに噂が飛び交っており、先日ついに自警団からも正式な発表がありました。あの未知の大型機動兵器「レストフル」を自警団と共に撃破したのも、レタリアさんだと伺いましたが……」

 

 司会者の鋭い目が、レタリアを真っ直ぐに捉える。

 

「ええ、はぃ……。そ、その……そうで、ございますわ……」

「世間では、あの脅威をどうやって退けたのか、様々な憶測が流れています。シンセ社の最新技術なのか、あるいは独自のカスタムによるものなのか。……宜しければ、当時の状況や、どうやって倒したのかをお聞かせ願えますか?」

 

 核心に迫る質問。どうやって倒したのか――その答えは、自らの魔力に同調したアーデンの織り成す出力と機動力、ミレアが用意した「切り札」による一撃だ。しかし、それをそのまま話せるわけがない。

 どう答えるべきか完全に困り果てたレタリアの視線が、すがるようにスタジオの隅のミレアへと向けられた。

 

 カメラの死角で、ミレアが両腕を大きな「×(バツ)」の形にしてレタリアにジェスチャーを送っている。絶対に喋るな、という無言の圧力だった。

 

「そ、それは……っ、その……お、乙女の秘密、でございますわ! おほほほほ……!」

 

 レタリアは引きつった笑みを浮かべ、そこからはミレアとの事前の約束通り、それ以上の追及を拒絶するように、ひたすらコトコトと激しく首を縦に振り続けた。

 ただ無言で首を振り続けるレタリアの様子に、司会者は一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、流石はプロのアナウンサー、すぐに笑顔を取り繕ってフォローを入れる。

 

「あはは、なるほど、企業秘密であり「乙女の秘密」というわけですね! レタリアさん、本日は少しご緊張なされているようですが、そのミステリアスなところもまた、彼女の魅力の一つなのでしょう!」

 

 司会の見事な軌道修正により、その後も撮影はつつがなく進行。

 番組の後半、完全に首を縦に振るだけの「美しい置物」と化したレタリアは、どうにか失言をすることもなく、無事にその大役を果たし終えたのだった。

 

◆◆◆

 

 

 撮影が終了し、自警団の屯所へと戻ってきた途端、レタリアはソファへと突っ伏してクッションに顔を埋めた。

 カジュアルな部屋着のまま、足をばたばたと悶えさせる。スタジオでの大人しさが嘘のような、いつもの騒がしいレタリアの大爆発だった。

 

「お疲れ様、レタリア。はい、冷たい飲み物」

 

 ミレアが呆れ顔ながらも、労うように果実水の入ったグラスをテーブルに置いてやる。その隣では、イーサンが堪えきれないといった様子で肩を震わせて笑っていた。

 

「いやあ、見事な置物っぷりだったよ、お嬢様。あの「暴走令嬢」が、まさかカメラの前であそこまで借りてきた猫のようになるとはな。……今頃、病室のモニターでこれを見ていたグレインの奴、ベッドの上でのたうち回って大爆笑していると思うぞ」

「――うぐぐぐぐ、悔しいですわ~~~~っ!! ああ、本当に恥ずかしいところを見せてしまいましたわ……! あのアナウンサーという方、映像で見るより迫力がありすぎるのですもの!」

 

 顔を真っ赤にするレタリア。ミレアはそんな彼女を優しく見つめる。

 

「いいじゃない、結果オーライよ。余計な情報は一切漏れなかったし、あなたの好感度も上がったみたい。今回は仕方ないけど、これからのオファーは気を付けましょう」

「もちろんですわ! 二万クレジットは魅力的ですが、あのような辱めはもう御免被りますわー!」

 

 頬を膨らませるレタリアの姿に、イーサンもミレアも、今度こそ温かな笑声を上げるのだった。

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