悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「行きましょう!」
ステシアの決然とした言葉に、レタリアも力強く頷く。
「わかりましたわ! この新生アーデンの敵ではありませんことよ。有象無象、まとめて相手にならな……」
『待ちなさい!』
意気揚々と出撃しようとした瞬間、通信回線からミレアの鋭い制止の声が割り込んできた。
『あなた達二人の機体はまだ公にできない極秘中の極秘。今、グレインが裏から自警団にスクランブルの要請をかけているから、そっちに任せなさい』
「ミレア! そうしている間に、罪無き民に被害が出るのはわたくし、絶対に看過できませんわ!」
レタリアは毅然と言い放つと、機体のスラスターを迷わず全開にした。
「行きましょう、ステシアさん!」
「わぁ、なんだか今のレタリアさん、ファンタジーの騎士様みたいでかっこいい言い回しですね……! では、私も行きます!」
紫紺のアーデンに続くように、ステシアの白いラスタもまた漆黒の宇宙へと飛び出していく。
『あぁ、もう……! あの二人は本当に……! 一般の市民に見つかりでもしたら、後処置がどれだけ大変だと思っているのよ……!』
コントロールルームで、ミレアがこめかみを押さえて盛大に頭を抱えた。そこへ、自警団への連絡を急ぎ終えたグレインが戻ってくる。
『まぁ仕方ないさ、アイツらがじっとしてるわけがない。終わった後に記録をどうにか誤魔化す方法を考えようじゃないか』
達観したように笑うグレイン、そしてミレアは諦めたように項垂れた。
◆◆
レタリアとステシアが急行した自治区外縁の宙域。そこに広がっていたのは、異様な光景だった。
デブリの影から不気味に蠢きながら姿を現したのは、金属質の外殻と、まるで触手のような器官をいくつも生やした、これまで見たこともない不気味な宇宙の怪物だった。
「あれは……『エレクトラ・デュロ』!」
ステシアの緊迫した声がスピーカーから響く。この世界における、凶暴な宇宙原生生物の一種のようだ。
「あの生物、体内から強力な電磁波を出し続けていて、周囲一帯に酷いジャミングを……っ」
説明を続けるステシアの声に、ザザッ、と激しいノイズが混ざり始める。
『きこ……レタリ……ステ……っ、応答、しなさ……っ』
ミレアの指示ボイスも完全にノイズの彼方へと掻き消されてしまった。
「通信が、全く聞こえなくなりましたわ……!」
かつて戦った『レストフル』の時とは違う、電磁波による通信妨害。困惑するレタリアだったが、直後、コックピットの別系統のインジケーターが明滅した。
『――聞こえますか、レタリアさん!』
「ステシアさん!?」
『良かったー! 通常の無線がダメならと思って、機体間の指向性レーザー通信があるのを思い出しました。これならジャミングを貫通して繋がります!……と言いたいんですが……』
安堵したのも束の間、レタリアが正面のメインモニターに目をやると、レーダー画面一帯に砂嵐のようなノイズが激しくかかっており、どこにエレクトラ・デュロが潜んでいるのか、完全に目標を見失っていた。
「困りましたね、これじゃ相手の正確な位置が……」
「ステシアさん、後ろ!」
レタリアの叫びがレーザー通信を駆けた。
ステシアのラスタは咄嗟にスラスターを吹かして位置をずらす。
直後、彼女たちがいた空間を、エレクトラ・デュロが電磁触手で弾き飛ばした巨大なデブリの塊が、凄まじい速度で通り過ぎていった。
『危ないっ! この子(ラスタ)の反応が良くて助かりました……! でも、どうしてレタリアさんはレーダーが死んでるのに分かったんですか!?』
「――乙女のカンですわ」
わずかに肌を刺す、異質な気配。
レタリア自身が持つ元の世界の『魔力』が、アーデンのシステムと感応を起こしていた。網膜に映るノイズの裏側、この近辺のどこに「異質な生物」が存在するのかが、波紋のように五感へ直接伝わってくるのだ。
「ステシアさん、あそこの不自然に静止している岩の影ですわ! わたくしが突撃して参りますから、射撃で炙り出してくださいまし!」
『どうしてそこまで分かるのかは全然分かりませんが……レタリアさんが言うなら! 分かりました!』
ステシアのラスタが、指定されたデブリに向けてフォトンライフルを連射する。
同時に、紫紺のアーデンが爆発的な加速でデブリの死角へと肉薄した。
ステシアの牽制射撃に炙り出され、たまらず飛び出してくるエレクトラ・デュロ。その姿を完全に捉えたレタリアは、トレースモードのパターンを再現させる。
「この新生アーデンの力、思い知りなさい! ――ふぉとんせいばーっ!!」
……しかし、アーデンのマニピュレーターからは、光の刃は一本も立ち上らなかった。
「えっ、あれっ!? 出ませんわ!?」
武器が出ずに「ええっ!?」と大慌てになるレタリアのアーデン目がけ、エレクトラ・デュロが好機とばかりに鋭い電磁触手を激しく突き出してくる。
「っ、ですが、当たりませんわよ!」
原生生物の野生の突進は凄まじかったが、レタリアの超感覚と、過剰なほどにピーキーな新型アーデンの追従性があれば、回避など難なく可能だった。やや大回りな動きで触手をかわしたレタリアは、姿勢を向きなおす。
「こうなったら、殴ってもいいですわよね……! ミレアに新しい腕をベコベコにするなと怒られそうですが、考える暇などありませんわ!」
「受けなさい、この無礼者ーーーっ!」
レタリアはアーデンのスラスターを瞬間的に逆噴射させると、強烈な推進力を乗せた左拳、続けて右のストレート、さらにその勢いのまま右足での鋭い蹴りのコンビネーションを、原生生物の金属質の脳天へと完璧に叩き込んだ。
質量兵器と化した新型マキナの拳脚が炸裂し、エレクトラ・デュロの巨体が激しくのけ反る。
完全に動きが鈍り、無防備になった怪物に対して……
『頂きましたーーーっ!』
レーザー通信越しに響く快活な声と同時に、ラスタから放たれた渾身の高出力フォトンが、エレクトラ・デュロの核を一直線に貫いた。
ビキ、と全身の金属殻に亀裂が入った原生生物は、激しくスパークしたのち、宇宙の塵となってその動きを完全に止めた。
「ふぅ……。なんとか、なりましたわね……」
『す、すごいです、レタリアさん! びっくりしました。割と厄介な原生生物なんですけど、まさか殴り蹴りで隙を作るなんて……! でも、上手くいって本当に良かったです!』
ステシアの心底楽しげな安堵の声が響く。
怪物の消滅に伴い、周囲を覆っていた強力な電磁ジャミングが霧散していく。途切れていたメイン回線が、瞬時に復旧を遂げた。
『――聞こえる……!? 二人とも……っ!? ジャミングが消えたわ、一体どうなったの!?』
焦燥に駆られたミレアの怒声に近い声がスピーカーから飛び込んでくる。
レタリアはいつものように、気高く、そして少し誇らしげにダークパープルの髪をかき上げた。
「ふふ、すべて終わりましたわ、ミレア。少々手こずりましたけれど、怪物の退治は完了いたしました。……それでは、お腹も空きましたし、ハンガーへと戻りますわよ」
『……まったく、本当にあなたって子は……』
通信の向こうでミレアが盛大に呆れる気配を感じながらも、レタリアとステシアは並び立ち、輝くセルディアのハンガーへと向かって、悠々と宇宙を帰還していくのだった。