悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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77話:わたくしはお怪我よりも検査が億劫ですわ……

 静かなハッチが開き、二機のマキナがシンセ社の秘密ハンガーへと滑り込んできた。

 

 コックピットから降りてきたレタリアとステシアを待っていたのは、「お疲れ」と短く声をかけてくるグレインと、怒るのを通り越して諦めたような、けれどどこかホッとしたような複雑な微笑を浮かべるミレアの姿だった。

 

「勝手に飛び出したことは、後できっちりお説教したいところだけど……。まぁ、市民に被害が出なかったことだけは、素直に良かったわ」

 

 ため息混じりにそう告げたミレアは、すぐにその鋭い視線を紫紺のアーデンへと移す。

 その瞬間、レタリアはビクリと肩を揺らし、おずおずと口を開いた。

 

「あ、あのー……ミレア?」

 

「どうしたの? レタリア」

 

「その、ふぉとんせいばーが、出ませんでしたので……そのぉ……」

 

 レタリアにしては珍しく、言葉がしどろもどろになる。

 光の刃を出せなかったがゆえに、彼女は機体の重い金属の拳と脚を使った、あまりにも無骨な格闘戦を演じてしまったのだ。異世界育ちの彼女とて、いま目の前にある試作パーツがどれほど貴重なものかくらいは、これまでの付き合いで十分に理解している。

 貴重な新型の腕をベコベコにしてしまったのではないか――恐る恐るミレアの顔色をうかがうレタリアに対し、ミレアは視線をレタリアの方へと戻した。

 

「そんな初期動作テストの段階で、突発的な戦闘が起こるなんて思っていなかったし、フォトンセイバーなんて最初から積んでいなかったわよ。もちろん、『グラーヴ・アークス』もね。……でも」

 

 ミレアはそう言って、もう一度アーデンの四肢を見上げる。

 

「どう? ほとんど傷が入っていないでしょう?」

 

「へ?」

 

 レタリアは目を丸くして、我が身を省みるように愛機の腕部を見つめた。

 確かに激しい殴り合いの痕跡(細かな摩擦痕)はあるものの、装甲がへこんだり、形が歪んだりしている箇所は、驚くほどに見当たらない。

 

「あらあら……どうしてですの? あれほど力任せに金属の殻を殴りつけましたのに……」

 

 不思議そうに呟きながら、レタリアはアーデンに歩み寄る。ステシアもまた、自身の白いラスタから降りてくると、レタリアの隣に並んで興味深そうにアーデンの腕部や脚部を覗き込んだ。

 

「そのパーツは、最初から『あなたが使うこと』を想定して、本社から取り寄せた特殊合金――ハルディライト製なのよ」

 

「はるでぃらいと……ですの? それは、『ミスリル』のような、魔法の金属か何かかしら?」

 

 レタリアが大真面目に尋ねると、隣のステシアがすかさず笑いながら突っ込みを入れた。

「レタリアさん、ミスリルなんてないですよ~! ゲームじゃないんですから。……って、ええっ!? ハルディライトですか!?」

 

 後半、事の重大さに気づいたステシアが声を裏返して驚く。ミレアは淡々と頷いてみせた。

 

「ええ。実弾、エネルギー、そのどちらに対しても極めて高い防御性能と硬度を持つ特殊結晶合金。プリプロトタイプとはいえ、そこらの量産型マキナより遥かに頑丈よ。……おかげで、あなたが激しい格闘戦を行った時の、貴重な剛性テストのデータまで取れてしまったわね」

 

 怪我の功名ね、とミレアが呟くと同時に、アーデンの背後をぷかぷかと浮遊していたカメラドローンが、システム音を鳴らしながら近くのドックへと着陸した。

 

「この子も上手く動いていたわね。エレクトラ・デュロの強力なジャミング下でも、動き続けてたみたいね。カメラのデータもきっと残ってる、有り難いわ」

 

 ミレアは満足そうにデータパッドをタップする。レタリアはその様子を見ながら、「そういえば、この子もいましたわね……。戦闘中、ずっとわたくしの近くにいたのかしら」と不思議そうに首を傾げた。

 

「ラスタの動きも悪くなかったみたいだな」

 

 今度はグレインが、ステシアの肩を軽く叩いて声をかける。するとステシアは待ってましたとばかりに、ふっふーん、とこれ以上ないほど得意げに、控えめな胸を張って応じた。

 

「グレイン隊長! この自警団期待の新生、超スーパーエースのステシア・リニンにかかれば、どんな新機体であってもこんなものですよ!」

 

 調子の良いその態度に、グレインは親しみを込めて苦笑いする。

「まぁ、あの厄介な原生生物を仕留めたのはお手柄だ。スーパーエースなのかはまあ、その……。これからも頼むぞ」

 

「ええっ!? なんか私の扱い、微妙に雑じゃないですかぁ!?」

 

 もっと大絶賛されると思っていたステシアが不満げに抗議の声を上げると、グレインはははは、と声を上げて笑った。

「いやいや、期待しているのは本当だって。悪かったよ、後で美味い飯でも奢ってやるから、そうへそを曲げるな」

 

「……本当ですか? じゃあ、一番高いお肉の店でお願いしますね!」

 

 そんな二人の賑やかなやり取りを横目に、ミレアはふと表情を引き締め、レタリアをじっと見つめた。

 

「レタリア、あなた、今日はまだ専用のパイロットスーツ(ノーブル・ロータス)が用意できてないから通常の自警団パイロットスーツだったけれど……体は大丈夫だったの?」

 

「え……?」

 

 言われて初めて、レタリアは自分の身体の異変に気づいた。アドレナリンが引いていくと共に、全身の筋肉、特に肩や脇腹のあたりがじわじわと痛み始めている。

 

「ああ……そういえば、なんだか体がじんじんと痛みますわ。先ほど、トレースモードの急加速の反動で、体をコックピットのシート内で激しくぶつけてしまったみたいですわ……」

 

 久々に味わう、強烈な「G(重力加速度)」の負荷だった。

 普段着用している専用のスーツであれば、トレースモードに伴う衝撃や肉体への負荷は大幅に軽減され、コックピット内で体が激しく揺さぶられても、その衝撃のほとんどはスーツが吸収してくれていたのだ。

 しかし、今回は通常のスーツ。しかも新生アーデンの動きは以前より遥かにピーキーで鋭い。生身の肉体に、多少の無理が堪えたのは間違いなかった。

 

「……やっぱりね。一応、骨が折れたり、微細な内出血を起こしたりしていないか精密検査をするから、すぐに私のラボへ来なさい。――ステシアさんも、念のために一緒に検査をしましょう」

 

「分かりましたわ……。わたくしはお怪我よりも検査が億劫ですわ……」

「はーい、お肉のために検査受けてきます!」

 

 乗り気ではないレタリアと、元気よく返事をするステシアを見送りながら、ミレアは手元のデータパッドに表示された「最高ランクのテストデータ」を見て小さく笑みを浮かべた。

 けれど、次の瞬間には、これからの当局への「目撃記録の偽装手続き」と「隠蔽工作の言い訳」の山を思い出し、今度こそ本当に胃が痛くなるのを感じて、そっと深い溜息を漏らすのだった。

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