悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
自警団の広々とした食堂で、レタリアは優雅にスプーンを動かして昼食をとっていた。
「この『スペーススイカのジュレ』、すこぶる美味ですわ。甘みと清涼感のバランスが絶妙で、シェフは実によいお仕事をしておりますわね」
満足げに頷くレタリア。もちろん、それが厳重に衛生管理された食品加工工場で全自動生産され、パック詰めされて届いたプラスチック容器入りの大衆向けデザートであるという事実を、彼女が知る由はなかった。
「レタリアさーん!」
そこへ、賑やかな足音と共に二人の少女が近づいてきた。
「あら、ステシアさんにヘルタさん」
快活に手を振る金髪ショートカットのステシアと、その後ろで薄茶のロングヘアを揺らすヘルタの姿があった。
「レタリアさん、お疲れさまー」
ヘルタが気さくに声をかけてくる。
もし、この世界に流れ着いたばかりの「アーデニアム公爵令嬢」であったなら、平民からこれほどフランクに話しかけられた時点で、怪訝な態度を隠せなかっただろう。けれど、数々の戦いを経てこの場所に居場所を見出した今のレタリアにとって、彼女たちの親しげな言動は心地よくこそあれ、気になるものではなくなっていた。
二人はトレイを置くと、レタリアと同じテーブルの向かい合わせの席に着く。
「いやー、この間のテストの時は本当に大変でしたよね!」
着席するなり、ステシアが声を弾ませてあの突発戦闘の話を切り出した。
その瞬間、レタリアの脳裏に、検査室で目を光らせていたミレアの姿がよぎる。
『今回の件は一応、極秘中の極秘だからね。自警団内であっても、無闇に口外しちゃダメよ。いい?』
そう口酸っぱく、念を押すように言われていたのだ。レタリアは手元のスプーンをピタリと止め、少しだけ声を潜めてステシアを促す。
「……ステシアさん。ミレアから、極秘、というお話をされたのを覚えていらっしゃいますの……?」
「あっ、そうでした! 忘れてください! ヘルタも今すぐ忘れろー!」
ハッと口を押さえたステシアは、次の瞬間、両手の指先をヘルタに向けて「びびびびびっ!」と記憶消去ビームでも撃つようなポーズを取った。
「ちょっと、アンタそうやってぽろっと余計なこと漏らすんだから! アタシまでイチノセ博士の呼び出しを喰らう巻き添えは御免よ?」
ヘルタは呆れたように眉をひそめながらも、ステシアのビームを浴びたかのように「うわー、記憶がー」と大げさなリアクションをとって合わせてやっている。
そんなあまりにも自由で息の合ったやり取りを見ていると、レタリアは心の中で(少し羨ましいですわね……)などと思ってしまった。だが、もし自分があそこまで自由奔放に振る舞えば、それこそミレアが鬼のような形相をしてお説教をしてくるに違いないと考え直し、すぐにその羨望を頭の隅へ追いやった。
その時、食堂の壁面に設置された大型ホログラムモニターから、緊急ニュースを告げるきらびやかな電子音が響いた。
『――続いてのニュースです。先日、セルディア宇宙自治区外縁部において、宇宙原生生物「エレクトラ・デュロ」の出現が確認されました。強力な電磁波による一時的な通信障害が発生したものの、自治区への接近直後、哨戒中であった自警団の機体によって早々に撃破された模様です』
お馴染みのアナウンサーが読み上げる原稿。しかし、画面が切り替わると、一般市民が端末で撮影した粗い映像が映し出された。
『しかし、ネット上では民間から様々な憶測が飛び交っています。こちらの目撃映像をご覧ください。帰投する二機のシルエットは、通常の自警団機「ルード」とは明らかに異なっており、そのうちの一機は、かつてレイダーや大型機動兵器を退けたあの「暴走令嬢」の愛機、アーデンではないかと大きな話題を呼んでいます』
「あら……。しっかり見られてしまっていますわね」
レタリアがジュレを口に運びながら画面を見つめる。
画面はさらに切り替わり、今度は管理局の公式会見場の映像になった。そこには、つい先日精密検査を終えて無事に退院したばかりの自警団隊長、グレインがフォーマルな制服姿で座っていた。無数のフラッシュを浴びながら、彼はマイクに向かって実に堂々とした、落ち着いた声で答えている。
『……ええ、ネットで噂されている件についてですが、半分は正解で、半分は誤解です。確かに、撃破に貢献した機体の一つはレタリア・アーデニアムの「アーデン」です。先の戦闘における損傷からの修繕の際、これまでの既存パーツに不足が生じておりまして。急遽、シンセ・フィブラ社側に修繕フレームの稼働テストを兼ねた代替パーツの提供を依頼し、その調整フライトを行っていた最中でした。そして、もう一機の正体ですが……こちらは通常の自警団機「ルード」に、カスタムパーツを装着した状態の機体です。ネットでシルエットが異なると話題になっていたのは、おそらくそのためでしょう。そもそも、我が自警団のルードは大半がこうしたカスタム機なんです。 市民の皆様の安全を第一に守るため、現場のパイロットたちが最も運用しやすいよう、各々の機体に手が加えられております。どうかその辺りは、我々の創意工夫の証として温かく見守っていただけると幸いです』
ここで、記者席から「グレイン隊長、ご自身の体調についてですが、精密検査を終えて無事に退院されたとのことで――」と、次のインタビューが続こうとしていた。
フラッシュの光の中、大人の余裕を見せながら完璧なカモフラージュを行うグレイン。もちろん、レタリエム計画のプリプロトタイプであることも、次世代機ラスタの存在も、綺麗に隠蔽されていた。
その頼もしい(?)様子を見届けながら、レタリアは感心したように息を吐く。
「隊長ともなると、ああやって大勢の前で堂々と、もっともらしい事を言わなければならないのですわね。大したものですわ」
「ねー、大変そうですよね~」
完全に他人事のように、ステシアは食堂の定食をもぐもぐと食べながら呑気に頷いた。すると、その隣でヘルタがピシャリと言い放つ。
「ちょっとアンタ、何他人事みたいに言ってんのよ。ステシア、アンタ少し前に『アタシが次の副隊長になる!』って豪語して立候補してたじゃない。隊長がああやって忙しい時は、副隊長が代わりにあの場に立ってカメラの前に晒されるのよ。アンタ、あんな風に上手く言い訳できんの?」
「えっ……」
ヘルタの鋭い指摘に、ステシアはスプーンを止めて完全に固まった。想像しただけで恐ろしくなったのか、目を泳がせながらレタリアとヘルタの顔を交互に見つめる。
「う、うーん、その……もしそうなったら、その時はヘルタとレタリアさんに、後ろからカンペとか出してもらって助けてもらうし!」
「「謹んでお断りいたしますわ/お断りよ」」
レタリアとヘルタの声が見事にハモり、ステシアは「ええーっ!冷たい!」と声を上げて机に突っ伏した。そんな彼女の姿に、レタリアは呆れつつも、やっぱりどこか楽しげな笑みを浮かべて、最後のスイカジュレを優雅に口へと運ぶのだった。
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