悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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7話:なぜ笑ってますの!?

 食堂は、いつも通りのざわめきに包まれていた。

 

 セルディア居住区の一角にあるその場所は、自警団員や整備員、各種職員が入り混じる、数少ない“日常”の空間だ。

 

 トレイのぶつかる音。

 低い話し声。

 どこか気の抜けた笑い。

 

 そのすべてが、戦闘とは無縁のものだった。

 

 グレインは、その中で一人、黙って食事を取っていた。

 

 壁面に投影されたホログラム映像を、ぼんやりと眺めながら。

 

(……またか)

 

 映像の内容は、ここ数日ずっと変わっていない。

 

 先日のブラング団による大規模襲撃。

 それを食い止めた自警団の対応。

 

 そして――

 

「こちらが問題の映像です」

 

 画面が切り替わる。

 

 くすんだ鉄色の機体。

 旧式のフォルム。

 

 それが、複数のマキナを相手に、暴れていた。

 

 殴る。

 蹴る。

 掴んで叩きつける。

 

 洗練とは程遠い、粗暴な戦い方。

 

 だが――異様なほどに速い。

 

「ご覧の通り、通常の機動では考えられない動きを見せています」

 

 スタジオに座る専門家の一人が、冷静に口を開いた。

 

「これは約20年前に倒産したエスカド社のモデル、“クラフィド”です」

 

 別の映像が並べられる。

 旧資料に残る機体図。

 

「ただし、通常のクラフィドにこのような機動性はありません。性能的にも、現行機に劣るはずです」

 

「では、どういうことなんでしょうか?」

 

 キャスターの問いに、専門家は肩をすくめた。

 

「見た目だけを偽装した、別の機体でしょう」

 

 別の専門家が口を挟む。

 

「そもそもフェイク映像の可能性もありますね」

 

「フェイク、ですか?」

 

「あんな動きをするマキナが存在したとして――」

 

 一拍。

 

「中のパイロットが耐えられません」

 

 食堂のざわめきが、わずかに強くなった。

 

 笑い声が、いくつか混じる。

 

 グレインは、無言でその映像を見ていた。

 

(……耐えられない、か)

 

 その言葉に、特に感情は動かなかった。

 

 ただ、事実と違うというだけだ。

 

 画面が切り替わる。

 

 今度は、見覚えのある顔が映った。

 

「我々にとっても、この機体が不可解な訪問者であった事実は否定しようもありません」

 

 グレインは、スプーンを止めた。

 

 インタビュー映像の自分が、淡々と話している。

 

「忽然と姿を消した今となっては、その素性を知る術はありません。

 しかし、あの機体の介入によって、被害が最小限に食い止められた……。それは揺るぎない事実です」

 

 どこか他人事のような声だった。

 

「現在、当局を挙げて該当機の行方を追っております。

 進展があり次第、改めて報告させていただきます」

 

 映像が終わる。

 

 食堂のグレインは、小さく息を吐いた。

 

(……捜索中、か)

 

 視線を、少しだけ横に向ける。

 

(すぐそこにいるがな)

 

 ◆◆◆

 

「……食堂の利用が解禁されたと聞きましたわ」

 

 背後からの声に、グレインは振り返った。

 

 入口に、レタリアが立っていた。

 

「……ああ」

 

 短く答える。

 

「ミレアから話が通ったんだな。好きな席に座っていい」

 

 レタリアは周囲を一度見回し、少しだけ考えるような素振りを見せた後――

 

 そのまま、グレインの向かいに腰を下ろした。

 

「ここ、広いですわね……」

 

 一瞬の沈黙。

 

 ホログラムの映像は、まだ流れている。

 

 レタリアの視線が、そちらへ向いた。

 

「……これは」

 

「……ああ」

 

 それ以上の説明は不要だった。

 

 画面では、再びあの機体が暴れている。

 

 自分の動きだと、すぐに分かる。

 

「視聴者から投稿された音声をお届けします」

 

 キャスターの声が響く。

 

「戦闘中に回線から傍受されたものです」

 

 一瞬の間。

 

 そして――

 

 ノイズが走った。

 

「――コ××レ女××ァ!」

 

「――×にがコ×プ×よ×! ×××な×××を××ん××××よ!!」

 

 音声はひどく途切れている。

 

 だが、何を言っているかは、なんとなく分かる。

 

 スタジオが、わずかにざわついた。

 

「謎のパイロットの声と思われます。内容については……」

 

 言葉を濁すキャスター。

 

 その瞬間。

 

「……っ」

 

 グレインの肩が、わずかに震えた。

 

 次の瞬間――

 

 小さく、吹き出した。

 

「……なぜ笑ってますの!?」

 

 レタリアの声が、少し強くなる。

 

 グレインは口元を押さえながら、首を振った。

 

「……いや、すまない」

 

 だが、完全には抑えきれていない。

 

 視線を逸らしているのに、分かる。

 

 レタリアは、じっとその横顔を見た。

 

(……あのやりとりがそんなに滑稽だったのかしら)

 

 少しだけ、頬を膨らませる。

 

 ムスッとした表情を作りながら、再び映像へ視線を戻した。

 

(……でも、まあ)

 

 怒っているわけではなかった。

 

「……これは、わたくしのことですわよね」

 

「……ああ。連日だ」

 

「……なんですの、これは」

 

 困惑しているのか、呆れているのか。

 

 そのどちらともつかない顔だった。

 

 ◆◆◆

 

 ホログラムの中で、鉄色の機体が暴れている。

 

(……痛かったですわ)

 

 ふと、そんな感覚が蘇る。

 

 衝撃。

 振動。

 身体に叩きつけられる力。

 

(でも)

 

 一瞬の間。

 

(……楽しかった、かもしれませんわ)

 

 あの時の感覚が、まだ残っている。

 

 躊躇なく飛び出した瞬間。

 何も考えずに動いた感覚。

 

 そして――

 

 怒られたことも、思い出す。

 

 ミレアの、あの静かな圧。

 

「あなたは特別よ」

 

 その言葉も、同時に浮かんだ。

 

(……わたくしが特別かどうかは、よく分かりませんわ)

 

(ただ)

 

 映像の中で、再び拳が振るわれる。

 

(……アーデンで暴れるのは、悪くないかもしれませんわ)

 

 ミレアの提案が、頭をよぎる。

 

(……利用してやる、というのも)

 

 一拍。

 

(……なんだか、少し違う気がしてきましたわ)

 

 何が違うのかは、うまく言えない。

 

 ただ――

 

 ほんの少しだけ、感覚が変わっていた。

 

 しばらく、無言の時間が流れた。

 

 食堂のざわめきだけが、遠くにある。

 

 グレインが、ふと口を開いた。

 

「……うちに入るか?」

 

 短い言葉だった。

 

 レタリアは、すぐには答えなかった。

 

 視線を落とし、少しだけ考える。

 

(……)

 

 そして、顔を上げる。

 

「……前向きに考えますわ」

 

 グレインは、小さく頷いた。

 

 それ以上は、何も言わなかった。

 

 ホログラムの中では、まだ謎のマキナが暴れている。

 

 食堂のざわめきは、変わらず続いていた。

 

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