悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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84話:ですが、まだまだですわよ! 戦いはここからですわ!

「くっ……!」

 

 シミュレータールームのスピーカーに、リッテの短い呻き声が響いた。

 衝撃波のエフェクトが爆ぜ、青い軍用機『ルザム』の巨躯が大きく後方へと吹き飛ぶ。格子状の仮想空間を何百メートルも滑るようにして後退していくが、その機体姿勢は辛うじて維持されていた。

 

 ルザムが致命傷を免れた理由は二つ。一つは、この機体が極めて頑強な軍用マキナであるということ。そしてもう一つは、レタリアの放った痛烈な右拳が直撃する寸前、リッテが咄嗟にルザムの両腕を盾として滑り込まされていたからだ。

 

 コントロールデスクのモニターには、激しく火花を散らすルザムの装甲値が映し出されている。両腕の耐久値は一撃で三割近く削られていたが、本体は健在だった。

 

「……ふむ。アーデンのあの異常な突進速度は、あくまで直線的な瞬発力に限定されているようですな。これは事前に我々の手元に届いていたデータ通りだ。かつて旧エスカド社が施した過度な改造の影響そのものでしょう」

 

 ショーンが顎を撫でながら、冷静沈着なトーンで分析を口にする。

 隣に立つスティーブは、その言葉に「ふむ」と静かに頷いた。

 

「ですが、先ほどの反転からの一撃……あの異常な反応速度は、説明がつきませんな。ふむ……リッテ君が、初手でここまで完璧に遅れを取るとはね」

 

 ショーンの言葉の裏には、自慢の部下に対する信頼と、それを揺るがされたことへの驚愕が混じっていた。

 

 ミレアの目から見ても、リッテ・フォンという少女の操縦技術は決して侮れるものではなかった。むしろ、実戦経験豊富であるセルディア自警団の猛者たちと比較しても、十分に遜色ないレベルにある。

 さすがに、自警団のトップを張るグレインやイーサンをはじめとする突出した実力者たちを純粋な「経験値」で上回っているようには見えない。だが、彼女が駆る『ルザム』という高性能機のアドバンテージが合わされば、総合的な戦闘能力は間違いなくこのステーションの「上澄み」に位置するはずだった。

 

 ショーンはリッテのその実力を完璧に把握しているからこそ、それを正面から、しかも格下の旧型機で圧倒してみせたレタリアの存在に驚愕していた。

 

(これでも、ロールバックして出力が落ちている状態なのに……。レタリア、本当に恐ろしい子ね)

 

 ミレアは固唾を呑んでモニターを見つめた。

 

 ◆

 

 一方、仮想空間のコックピットカプセルの中。

 レタリアは、体勢を立て直して再びこちらを鋭く睨み据える青い軍用機を見つめ、感心したように小さな唇を震わせた。

 

「あれが『ぐんようき』というものですのね。なかなかに見事な打たれ強さですわ」

 

 普通のマキナであれば、先ほどのタイミングでの不意の一撃を喰らえば、それだけで駆動系が破綻して機能停止に追い込まれていてもおかしくはない。しかし、相手は健在。

 速い、堅い、そして隙がない。レタリアはこの短い一瞬の交錯だけで、軍用機が持つ「本物の戦力」の凄みを肌で感じ取っていた。

 

「ですが、まだまだですわよ! 戦いはここからですわ!」

 

 レタリアがぐっと身を乗り出すと、トレースモードを通じてアーデンが極端な前傾姿勢を取った。

 次の瞬間、アーデンは爆発的なスラスター噴射とともに、再び猛然とルザムへと向かって突き進んだ。

 

「一瞬で間合いを詰めてくる……っ!」

 

 リッテの視界の中で、旧型機の質量が驚異的な速度で迫ってくる。

 リッテは冷静に状況を判断し、機体のスラスターを逆噴射させて後方へと下がりながら、右腕のフォトライフルを構え引き金が引かれた。

 

 高エネルギーの光弾が、寸分の狂いもなくアーデンの胸部目掛けて放たれた。正面から突進している以上、回避する暇のない、正確無比な置き気味の射撃。

 

 しかし、アーデンはそれを予測していたかのように、大きく弧を描くように横へと滑り、光弾の軌道から軽々と身をかわした。

 リッテは即座にアーデンの移動先を予測し、偏差射撃でその進路を潰そうとセカンドショットを放つ。だが、その光弾が届く直前、アーデンは驚くほど不自然に機体の姿勢を極限まで低くし、重心を滑らかにずらしてみせた。まるで、弾丸がどこに飛んでくるのかを最初からすべて予見しているかのような挙動だった。

 

「っ……!?」

 

 リッテの額に、一筋の汗が伝った。

 マキナのマルチセンサーは、アーデンが熱源探知やレーダー予測を行っている形跡を捉えていない。つまり、機械的な予測ではなく、操縦者であるレタリア本人の「直感」だけで、この超高速戦闘の中の射線を完全に見切っているのだ。

 

 シンセ社での従順なテストデータを相手にしている時とは、根本的に異なる感覚。

 あるいは、自分より劣るパイロットたちと模擬戦をしている時とも、完全に異なる異質な恐怖。

 リッテが味わったことのないプレッシャーの中、アーデンはついに光弾の網をすべて潜り抜け、ルザムの鼻先へと肉薄していた。

 

「いきますわよ! ふぉとんせいばー!」

 

 レタリアが叫ぶと同時に、アーデンの右腕から眩い光の刃――フォトンセイバーが伸長し、上段から真っ直ぐに振り下ろされる。

 

「くっ!」

 

 リッテも咄嗟にルザムのフォトンセイバーを起動し、下からの切り上げでそれを迎え撃った。

 仮想空間の虚空で、二条の光の刃が激しく激突する。キィィィンと空間が震えるような高周波の衝突音が響き、周囲に強烈な光の粒子が飛び散った。

 刃を交えたまま、ルザムのパワー出力がぐんぐんと上昇していく。しかし、カタログスペックで劣るはずのアーデンは、微塵も押し負ける様子がない。それどころか、レタリアのトレースモードによる変幻自在な荷重移動によって、ルザムの機体バランスが徐々に崩されかけていた。

 

(このまま、ただ防戦に回っていては……負ける……!)

 

 リッテの胸中に、初めて明確な敗北の予感が過った。技術者として、ペルダ支部の代表として、辺境の旧型機を相手に無様な醜態を晒すわけにはいかない。

 覚悟を決めたリッテは、ルザムのコア出力を一気に限界域へと引き上げ、機体に搭載された「最大の武器」のチャージを開始した。フォトンセイバーの出力をあえて切り離し、激しいエネルギーの反動を利用してアーデンを一度突き放すと、今度は自分からアーデンへと一歩距離を詰める。

 

「これなら……どう!?」

 

 リッテはルザムの右腕を大きく振りかぶった。その拳、そして前腕部のジェネレーターへ向けて、機体の全エネルギーが収束していく。青白い光の粒子が嵐のように渦巻き、それはやがて、ルザムの右腕そのものを包み込むような、光の斧とも言える巨大な質量兵器へと変貌を遂げた。

 

 ペルダ支部が誇る、次世代兵器のプロトタイプ。本家本元のグラーヴ・アークスだ。

 空間を焼き切るような圧倒的な熱量を孕んだ光の巨刃が、アーデンを叩き潰すべく、容赦なく振り下ろされる。

 

 しかし――。

 

「――受けて立ちます! ぐらーぶ・あーくすですわ!!」

 

 レタリアの声が、仮想空間を、そして現実のシミュレータールームをも震わせるほどに響き渡った。

 アーデンの右腕が、ルザムのそれと同調するかのように激しい輝きを放ち始める。

 

 瞬時に形成される、光の巨刃。

 レタリアは、ルザムが上段から振り下ろす光の斧に対し、一切の躊躇なく、下からの切り上げの軌道でそれを放った。

 

 二つの巨大な、光の質量兵器が、正面から激突した。

 シミュレーターのメインモニターが、一瞬、あまりのエネルギー飽和によって真っ白にホワイトアウトする。

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  • キャラクターの日常
  • 戦闘
  • 政治的な駆け引き
  • 技術系
  • 主人公の活躍
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  • いや、ミレアがかわいい!
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