悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~!   作:エスカド

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85話:あの、皆様、先ほどから何を難しい顔をして、どういうことですの?

 モニターを埋め尽くしていた眩い光の奔流が、粒子となって空間に溶け込み、次第に収まっていく。

 

 ……あとに残されたのは、奇妙なほどの静寂だった。

 格子状の仮想空間のただ中で、紫紺のアーデンと青いルザムは、互いの武器を激突させたままの姿勢でピタリと静止している。火花を散らすことも、駆動音を響かせることもなく、まるで時間が凍りついたかのように微動だにしない。

 

「あら?」

 

 静寂を破ったのは、コックピットカプセルから漏れ聞こえてきたレタリアの気の抜けた声だった。

 

「ミレア、画面が真っ暗になって、何も反応しなくなりましたわよ? 故障かしら?」

 

 時を同じくして、リッテのルザムのシステム表示も完全にダウンしていた。

 

「……両機ともに、メインジェネレーターの機能停止を確認。負荷に耐え切れず、内部回路が焼き切れたようです……」

 

 オペレーター席のミレアが、警告音を吐き出し続けるコンソールを眺めながら告げた。

 互いの機体が放ったグラーヴ・アークスによって極限まで引き上げられたジェネレーターは、その凄まじいエネルギーの奔流に耐え切れず、同時に停止、および暴発判定を叩き出されたのだ。

 これにより、緊迫した模擬戦は強制的に「中断」という形で幕を閉じることとなった。

 

 ◆

 

 ハッチが開き、シミュレーターのカプセルから二人の少女が降りてくる。リッテはどこか悔しそうに視線を落とし、レタリアは不思議そうに自分の手のひらを眺めていた。

 

「お疲れ様、二人とも。激しい戦闘の直後だし、とりあえずそこに腰かけて。今、温かい飲み物を用意するわね」

 

 ミレアが手際よくハーブティーを淹れ、隣でスティーブが自警団のストックから持ってきた軽いお菓子の詰まった缶を手渡す。ピリピリと張り詰めていた室内の空気が、お茶の香りと共に少しだけ和らいでいった。

 

「それにしても、おかしいですわね……。以前、レストフルと戦った時は、あのようなことにはなりませんでしたわ」

 

 差し出された焼き立てのクッキーをサクリとつまみ、不満げに頬を膨らませながらレタリアが疑問の声を漏らす。あの時はもっと激しく、もっと長くグラーヴ・アークスの刃を振るっていたはずだ。なのに、なぜ今回は一撃交わしただけで機械が壊れてしまったのか。

 

 そんなレタリアの様子を、お茶のカップを両手で持ったリッテが静かに見つめ、小さく口を開いた。

 

「いいえ。……あれが本来の、兵器としての『グラーヴ・アークス』の挙動です」

 

 リッテの声は淡々としていたが、確信的な意味合いを含んでいた。

 

「それにしてもリッテ君。テストパイロットとしての冷静なデータ収集が目的だったはずだが、少々熱が入っていたようだね?」

 

 ソファに深く腰掛けたショーンが、眼鏡の奥の目を細めて悪戯っぽく微笑みかける。すると、リッテの白い頬が、自覚があったのか一瞬でふわりと朱色に染まった。彼女は気まずそうに視線を泳がせ、カップに目を落とす。

 

「……がらにもなく、少しムキになってしまいました。正直に申し上げますと、レタリアさんの動きに圧倒されました」

 

 リッテの本心を隠さない言動、ミレアにとっては良くも悪くも誠実であると感じた。

 

「あら! わたくしの華麗な技の前に、思わず焦ってしまわれたのね? ふふん、無理もありませんわ。何せわたくしは、このセルディアで最強のパイロットですもの!」

 

 リッテの殊勝な態度にすっかり気を良くしたレタリアが、ふんぞり返って高笑いを決め込もうとした、その瞬間。

 

「調子に乗らないのっ」

 

 背後に回ったミレアの手が、レタリアの口を素早く、的確にスポンジのように塞いだ。

 

「むぐっ!? な、なんですの、もう! 事実を言ったまでですわ!」

 

 ミレアに口を塞がれ、ジタバタと不満そうに抗議するレタリア。

 そんな賑やかな少女たちのやり取りを微笑ましそうに横目にしながら、スティーブがふっと表情を引き締め、ショーンへと視線を巡らせた。

 

「ショーンさん。つまり、あなたたちペルダ支部でのこの兵器のテスト段階でも、一定以上の出力を出そうとすると、マキナのジェネレーターが負荷に耐え切れなくなる……。だから基本的には、安全のために出力を制限するセーフティをかけている、ということだね?」

 

 スティーブの的確な整理に、ショーンは笑みを消し、神妙な面持ちで深く頷いた。

 

「その通りです、スティーブさん。現状の制限下でも、都市防衛用としては十分すぎる威力を発揮します。とはいえ、技術的には少々……いえ、かなりピーキーな代物であることは否めません」

 

「シミュレーターでの理論値だけでなく、現実の実験でも同様です。軍用機である我が支部のルザムでさえ、セーフティを解除してあの最大出力を引き出せば、ジェネレーターが耐えられなくなります」

 

 リッテが冷めたお茶を一口すすり、補足するように答えた。その言葉を引き継ぐように、ミレアが深刻な声を出す。

 

「だからこそ……。先日のレストフル戦で、あの旧型機のアーデンが最大出力を出し続け、なおかつジェネレーターが破綻しなかったあの現象が、ペルダ支部にとっても『完全に想定外の異常データ』だったというわけですね……」

 

 ミレアの言葉に、ショーンとリッテの二人が無言で首を縦に振った。ペルダ支部の二人がこのステーションへやってきた最大の謎。それは、壊れるはずの機械が壊れなかったという謎の解明なのだ。

 

 しかし、深刻な大人たちの視線が交錯する中、一人だけ話の核心から完全に置いてけぼりにされている人物がいた。

 

「……? あの、皆様、先ほどから何を難しい顔をして、どういうことですの?」

 

 クッキーの切り屑を指先で払いながら、レタリアが完全に意味が分からないといった様子で、不思議そうに首を傾げていた。

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