悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
88話:ついにわたくしの、この華麗なる活躍を再び皆様にお見せできますのね!
アーデンの巨大な影が落ちる格納ドック。
新生アーデンのテストフライトは、これまでに計4回。機体の基本的な追従性のチェックから、各種基本武装の挙動確認にいたるまで、現段階で予定されていたメニューはすべて滞りなく消化されていた。
コンソールの最終チェックを終え、画面を閉じたミレアが、傍らで退屈そうにシートに腰掛けていたレタリアを振り返る。
「レタリア、一応完成したわよ」
「……? 何ができましたの?」
レタリアは小首を傾げ、不思議そうにミレアの手元を見つめた。
ミレアは応える代わりに、ドックに佇むアーデンの、特徴的な装甲で覆われた肩や脚のパーツを指差してみせる。
「アーデンはね、公式のデータバンク上、汎用機『ルード』のパーツをベースに修繕された機体として、正式に登録が完了したわ」
「んん~……? ということは、どういうことですの?」
専門的な手続きの話がピンとこないのか、レタリアは眉をひそめて小さく唸った。ミレアは彼女の正面に回り込み、少し声を落として、噛み砕くように説明を続ける。
「一応、シンセ・フィブラや管理局からの常時監視状態っていう条件付きではあるけれど……これでアーデンを公に動かせる名目ができたの。つまり、多少は外の仕事を受けてもいいってことよ。――ただし! 基本的には、管理局やセルディア自警団が直々に絡む、身元の確かな案件限定だけどね」
その言葉を聞いた瞬間、レタリアの表情が一限にパッと明るくなった。
「まぁ! ということは……ついにわたくしの、この華麗なる活躍を再び皆様にお見せできますのね!」
「そうだけど、何度も言うように、この機体の『中身』は今も極秘中の極秘なんだからね。外に出て、下手なことを口走ったりしたら絶対にダメよ!」
ミレアは、あえて「偽装」という直接的なワードを使わずに釘を刺した。
正直者であるレタリアに「データを偽装した」と伝えてしまうと、何かの拍子に「偽装ですけれど!」などと口を滑らせてしまうリスクがある。実態は完全にデータの改ざんと偽装なのだが……言葉選び一つとっても、今のミレアにとっては心臓の痛い綱渡りだった。あえてぼかしておけば、不意に彼女の口から危険な言葉が出ることはないはずだ。
「……本当の本当に、分かってるわね?」
ジト目でじっと見つめてくるミレアの視線に、レタリアは「もう!」と可笑しそうに肩をすくめてみせる。
「分かってますわよ! まーたそうやって、ミレアは心配性なんですわ! わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?」
そう言いながらも、再び大好きなアーデンに大手を振って乗れるという喜びが隠せないのか、レタリアは終始ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「それじゃあ、気が変わらないうちに、データバンクにアーデンと貴女のパイロットコードを再登録しておくわね」
「ええ、分かりましたわ! お願いしますわ!」
早速端末を操作し始めるミレア。アーデンを見上げるレタリアの瞳には、新たな戦場へと想いを馳せる、眩いばかりの闘志が宿るのだった。
――ガレージからラボへと戻ろうとした、ちょうどその時。自動扉が開くと同時に、二人の前に勢いよく人影が現れた。
「レタリアさーん!」
特徴的な水色の髪に、鮮やかなピンクのメッシュ。小柄な体躯を弾ませるようにしてやってきたその女性は、技術班のソラだった。
「ソラ様。そんなに慌てて、どうしましたの?」
レタリアが足を止めると、ソラは満面の笑みでダブルピースを作ってみせた。
「ジャジャーン! 『ノーブル・ロータス』の改良型が完成しました!」
◆
興奮収まらないソラに引っ張られるようにして、一行はひとまずミレアのプライベートラボへと移動していた。
「わざわざ私のラボにまで現物を持ってきたのね……」
ソラの個人ラボで見せれば済む話である。わざわざ台車を押して律儀に運んできた同僚のこだわりぶりに、ミレアは少し呆れつつも、その熱意に感心していた。
「だって、アーデンの調整が終わった直後に『はい、これ!』って渡すのが、一番タイミングとして最高でしょ!」
ソラはニコニコと胸を張りながら、台車に載せられた大きな銀色の気密袋のジッパーを開く。
「これが――『ノーブル・ロータスⅡ』です!」
中に収められていたのは、以前レタリアが着用していた専用パイロットスーツの発展型だった。
レタリアの元令嬢としてのアイデンティティである「ドレス」をモチーフにした優美な意匠はそのまま受け継がれている。高貴な紫をベースにした気品ある色合いは彼女のイメージにぴったりだが、全体的なシルエットは以前のものより少し変化していた。
「まぁ……! わたくしに相応しい、とても高貴な佇まいですわ! ですが、以前のものより、少しこちらの世界の規格(スマート)に近付いているのかしら?」
レタリアが目の輝きを映しながらスーツの表面に触れる。その言葉に、ソラは待ってましたとばかりに指を一本立てた。
「そうなんです! 前のスーツもクラシカルで素敵だったんですけど、今回は機動性を最優先して、より身体の動きを阻害しないカッティングにしています! そして何より――内部の衝撃吸収クッション機能と、耐Gシステムを大幅に強化してあります!」
ソラは自慢げにポンと自分の胸を叩く。
「これなら、レタリアさんがまたあの時みたいに気力を振り絞って体に強烈な負荷がかかっても、スーツがバッチリ身体を保護してくれますから!」
「レタリアさんから、それはそれは『たくさん』の貴重な生体データや破損ログを頂けましたからね! 研究がとっても捗っちゃいました!」
本当に嬉しそうに、目をキラキラさせて語るソラ。その言葉と表情でソラに体の隅々まで検査されたレタリアは嬉しさ半分、恐怖半分といった様子で、引き気味に小さく身を引いた。
「あ、ありがとうございますわ、ソラ様……」
少しぞっとしながらも、レタリアはすぐに気を取り直し、腰に手を当てて胸を張った。
「ですが、これでわたくしもアーデンも、名実ともに完璧というわけですわね!」
「うん! 最高の組み合わせです!」
はしゃぐレタリアと、それを満足そうに肯定するソラ。ミレアはその微笑ましい光景を、肩の力を抜いて見守っていた。
「ところで、ソラ」
ミレアがふと思い出したように、ソラへと声をかける。
「グレインの専用スーツの件だけど……。そっちの進捗はどう? レタリアの分だけで手一杯だったんじゃないかと思って」
自警団のリーダーであり、以前無茶をして入院することになったグレインの装備もまた、喫緊の課題だった。ミレアの懸念に対し、ソラは「大丈夫、大丈夫!」と手を振る。
「グレインさんの分も、これまでの戦闘データが山ほど蓄積されてるからね。レタリアさんレベルの強烈なG負荷を受けることを想定して、今は裏でガッツリ調整してるところだよ!」
「……それなら安心ね。あのバカ、レストフルの時みたいに、またいつ無茶するか分かったもんじゃないし」
ミレアが呆れたように溜息をつくと、ソラは深く共感するようにほほ笑んだ。
「あはは、確かにね! グレインさんもレタリアさんくらい容赦なく機体を酷使するから。私たちが技術面からしっかり支えてあげなきゃ!」
「本当よね。ただでさえ、この『じゃじゃ馬お嬢様』一人をあやすだけでも大変だって言うのに」
ミレアがレタリアをチラリと見ながら軽口を叩く。すると、それまで機嫌よくスーツを眺めていたお嬢様が、即座に振り返って噛みついた。
「ちょっと! ミレア! わたくしの目の前でそんなことを言うなんて、いい度胸をしていますわね! わたくしはじゃじゃ馬などではありませんわ、優雅なる大輪のロータスですのよ!」
「はいはい、分かったから。さあ、ご飯でも食べに行きましょう」
「あ、待ちなさいな! 話を逸らそうとしても騙されませんわよ!」
プンプンと怒るレタリアをミレアがいなし、その様子をソラが笑いながら見送る。
かくして、レタリアとアーデンは、再びその戦場へと舞い戻る準備を終えるのだった。
どういうお話が好きですか?
-
キャラクターの日常
-
戦闘
-
政治的な駆け引き
-
技術系
-
主人公の活躍
-
レタリアがかわいい!
-
いや、ミレアがかわいい!
-
他のキャラが良い!
-
その他(自由記入欄欲しい)