悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
アーデンの前に立ちはだかる、漆黒の宇宙に沈む重装機『イェラ』。
先ほどの一撃が、誤射などではない明確な敵意によるものだということは、その対峙の仕方が物語っていた。
「……一度までなら、事故として見なかったことにして差し上げますわよ?」
レタリアはコックピットの中で冷ややかにイェラを睨みつける。だが、通信回線から返ってきたのは、感情の無い音声のみの通信だった。
『レタリア殿、申し訳ないが……ここで果ててもらおう』
その言葉の終わりを待たず、イェラの右腕に構えられた大型フォトンライフルが火を噴いた。容赦のない光の連弾が宇宙を裂く。
「ッ! 本気ですのね!」
レタリアは即座にアーデンのスラスターを横へと滑らせ、光弾の軌道から機体をスライドさせて回避する。それと同時に、アーデンも素早く背面のフォトライフルを右手に構え、カウンターの光弾を撃ち返した。
しかし、放たれた鋭い光弾を、イェラは回避することすら選ばず、巨大なショルダーアーマーを前面に突き出して強引に受け止めた。激しい火花が散るが、表面の装甲が焦げる程度に留まる。その巨体に違わぬ、圧倒的な防御力だった。
そこからは、二機による激しい射撃戦へと突入した。
だが、元よりレタリアの射撃技術は決して高くない。放つ弾道はイェラの重装甲に弾かれ、命中率自体低い。対して、ツーインの放つフォトンライフルも、レタリアの回避能力の前には掠りもしなかった。
このまま撃ち合っていても、ただエネルギーを浪費するだけの膠着状態に陥ることは火を見るより明らかだった。
「――なら、接近戦しかありませんわね……!」
レタリアは迷いを捨て、フォトンライフルを背面のウェポンラックへとマウント。同時に、右腕から眩い光の刃――フォトンセイバーを起動した。
イェラが放つライフルの射線を、ジグザグの変則的なステップで強引に避けながら、アーデンは一気に距離を詰めていく。
あと一歩でセイバーの間合いに捉える、そう確信した瞬間、レタリアの魔力が側面から急速に迫る異質な脅威を肌で感知した。
「――ッ!」
背筋を凍らせるような悪寒に突き動かされ、レタリアは前進の慣性を無視してバックブーストを全開にした。強引な制動によって機体が激しく軋み、コックピットに強烈なGが襲いかかる。新調された『ノーブル・ロータスⅡ』がなければ内臓を痛めていたかもしれない負荷だったが、スーツの機能と彼女自身の頑強さによって、レタリアへのダメージは皆無だった。
直後、つい一瞬前までアーデンの胸部があった空間を、鈍く銀色に発光する巨大な飛翔体が、猛烈な回転とともに通過していった。
「なんですの……ブーメラン……っ!?」
『やはり、これも当たらぬか。大したものだ、レタリア殿』
ツーインの呟きとともに、弧を描いて戻ってきた飛翔体がイェラの左腕にガチリと収まる。レタリアの直感通り、それは大型の金属製ブーメランだった。
かつて無人機と戦闘を行った際、ツーインが使用していた有軌道投擲兵器。当時、レタリアは別の宙域で別の敵と交戦していたため、彼のこの戦闘スタイルを把握していなかった。
しかし、初見の未知の兵装であろうと、レタリアの魔力は完璧にその軌道を捉え、対応してみせた。
ツーインはすぐさま次の行動に移る。手元に戻ったブーメランを再び放ち、同時に右手でフォトンライフルの弾幕を形成する。変幻自在な放物線を描く格闘兵器と、直線的に迫る光学兵器のコンビネーション。
並のパイロットなら、その複合的な射線に狂わされ、瞬く間に撃沈されていただろう。だが、レタリアはその持ち前の能力を発揮し、巧みに回避し続けた。
「……チョロチョロと、しつこいですわよ!」
反転し、再びアーデンの背後から襲いかかってきたブーメランに対し、レタリアは回避ではなく迎撃を選んだ。振り返りざま、フォトンセイバーを完璧なタイミングで一閃。光の刃が銀色の飛翔体を真っ二つに両断、爆散させた。
「あなたがそのつもりなら――わたくしも、もう一切の容赦はいたしませんわよ!」
爆煙を突き抜け、アーデンが猛然とイェラへと肉薄する。その切っ先は、確実に重装機の喉元を捉えていた。
『見せてもらおう、その実力を――!』
遮断された通信の向こうで、ツーインもまた、覚悟を決めたようにイェラの出力を限界まで引き上げるのだった。
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