悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
イェラの全身から放たれたのは、無数の鋭利な質量弾――かつてセルディアを脅かした無人機に対し、ツーインがとどめを刺したあの凶悪な「ニードル弾」だった。
超至近距離からの全方位掃射。いかに新生アーデンのレスポンスが向上していようとも、物理的に逃げ場など存在しない。
「――っ!」
回避は行えない。ならば、このまま攻撃を押し通すしかない。
レタリアは刹那の内にそう判断し、怯むことなくイェラへ向けてフォトンセイバーを全力で振り抜いた。
アーデンのフォトンセイバーが、イェラの頭部と左腕を根本から切断した瞬間。それと完全に同時に、イェラから放たれた無数のニードルが、激しい衝撃音と共にアーデンの四肢の装甲へと深く突き刺さった。
火花と駆動油の霧が宇宙の闇に散る。
二機は互いの放った衝撃で、押し合うようにして距離を置いた。
『……メインカメラがやられたか。しかし、機体はなお健在のようだ。……見事だな』
ノイズ混じりの通信から、ツーインの静かな声が響く。
「……お互いに、ですわね」
レタリアはカプセルの中で呼吸を整えながら、機体ステータスを確認する。アーデンの手足の装甲値は大きく削られていた。しかし致命的なダメージではなかった。
『私の目的は果たした。やはり、私の想定を遥かに超えるパイロットだった。レタリア殿、感謝する』
ツーインはそう言い残すと、カメラを失い盲目となったはずのイェラを迷いのない手つきで操作し、アーデンへと背を向けた。そして、背部スラスターを全開にし、驚くべき高速で戦闘宙域から離脱していく。
「えっ、何を言っていますの!? ちょっと、お待ちなさい!」
突然の幕引きに混乱しながらも、レタリアはイェラを追おうとスラスターに手をかける。だが、その瞬間に激しいハウリングと共に、耳に馴染んだ親友の怒声が通信回線に飛び込んできた。
『――こえる!? レタリア!? 応答しなさい!!』
「ミレア!? どうして、通信が……」
『いきなりアーデンの信号がレーダーから完全に消失したから、ずっと呼びかけてたのよ! 一体何があったの!?』
ミレアの焦燥に満ちた声を聞きながら、レタリアは先ほど見つけた「金属の箱」へと目をやった。先ほどまで微弱なシグナルを出していたその浮遊物は、いつの間にか完全に機能を停止している。
レタリアの脳裏に、先日の戦いで遭遇した魔物『エレクトラ・デュロ』の強力なジャミングがよぎった。もしや、この箱は意図的に通信やレーダーを遮断するために配置されたものだったのだろうか。
「えーと……その……何から話せば良いかしら。詳しいことは後で戻った時に説明しますわ……。まず、ゼイン達と合流しなければなりませんもの」
ツーインの追跡を断念し、念のために機能停止した不審な金属箱をアーデンのマニピュレーターで回収すると、レタリアは損傷した機体を駆って本来の依頼宙域へと引き返した。
◆
『おいお嬢様! あんたともう一機、ツーインの機体の信号が同時にロストしたから、ファルと二人で血眼になって探し回ってたんだぞ! 一体どうしたんだ?』
宙域に戻るなり、待ちかねていたゼインからの通信が飛び込んできた。リギュネとマーファントが心配そうにこちらへ近付いてくる。
「……ツーイン様が、いきなりわたくしに襲い掛かってきましたわ」
『……なんだと?』
『え?』
ゼインとファルの声が綺麗に重なった。信頼していた仲間の突然の暴挙に、二人の通信にはただならぬ困惑と衝撃が広がっていた。
◆
その後、残された廃棄物ブロックの安全確認を最低限で切り上げ、三人はセルディア宇宙自治区へと帰還した。
セルディアのドックへ入港したアーデンは、その美しかった紫紺の手足の装甲に、痛々しい弾痕を刻ませていた。イェラの放った、至近距離からのニードル弾の爪痕そのものである。
「おお、派手にやられたな……」
コックピットから降りてきたレタリアの横で、ゼインがアーデンを見上げる。
「あのレタリアが被弾するなんて……。嘘みたい」
ファルも信じられないといった表情で、深く抉られた装甲の傷跡を見つめていた。彼女の天性的な回避能力を知っているからこそ、その衝撃は大きい。
「まあ、至近距離からの回避不能の隠し武器だろ。それを食らってこの程度の、最小限の被弾に抑えちまうんだから、やっぱり大したもんだよ。誇っていいぜ」
ゼインがいつものように快活に称賛の言葉をかけてくれるが、レタリアの表情は晴れず、素直にそれを喜ぶことはできなかった。
「何故、ツーイン様はいきなりわたくしにあのような真似をされたのかしら……。彼は、わたくしたちを裏切ってしまったのでしょうか……」
小さな拳をぎゅっと握りしめ、レタリアの表情が悲しげに曇る。
その様子を、ファルが心配そうに見つめていた。
ゼインは首の後ろをガリガリと掻きながら、落ち着いたトーンで言葉を紡ぐ。
「……恐らくだが、ヤツにはヤツなりの、目的があったんじゃないか? 去り際のお嬢様への言葉を聞く限りじゃあ、単なる裏切りや怨恨って風には思えねえな」
とにかく、とゼインが言葉を続けた。
「まずはシンセ社でアーデンを直してもらわなきゃならんだろ。早めに機体を持って行った方が良いぜ。――傭兵稼業をやってりゃ、こういう理不尽なゴタゴタは珍しいことじゃねえ。あんまり気にするなよ」
「……ええ、分かっていますわ」
「レタリアさん、また何か分かったことや、私にできることがあったら、すぐに連絡してね」
優しく声をかけてくれるファルに、レタリアは無理にでも作るように、小さくほほ笑んで頷いた。
「ありがとう、ファル。あなたたちも、お気をつけて」
そう言い残し、ゼインとファルはそれぞれの機体の整備のためにドックの奥へと去っていった。一人残されたレタリアは、痛々しい傷を負った愛機を見上げながら、ツーインのあの静かな声を、静かに思い返すのだった。
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