悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
シンセ・フィブラの管理ドックへと移動したレタリアとアーデン。そこには、すでに通信を受けて待機していたミレアと、自警団のトップであるグレインの姿があった。
「話は大まかに聞いたけれど、大丈夫?」
コクピットから降りてきたレタリアの顔を覗き込み、ミレアが心底心配そうに気遣う。
「え、ええ、まあ……。わたくしはご覧の通り、ピンピンしておりますわ」
言葉とは裏腹に、いつもの自信に満ちあふれた高飛車な調子ではない。どこか心ここに在らずといった様子のレタリアに、ミレアはどう声をかけてよいか分からず、困惑したように視線をグレインへと送った。
「まあ、大したことじゃない、気にするな……と言ったところで、気になるのは仕方がないさ。こういう裏切りだの何だのは、この業界じゃあ良くあることだ」
ゼインと同じく、乾いた現実を口にするグレイン。
「少し驚いただけですわ。まあ、わたくしのことをそこまで気にかけてくれていることについては、感謝してもよくってよ?」
レタリアは無理にでも明るく振る舞ってみせた。動揺がないわけではない。だが、ここはそういう過酷な世界なのだ。思い返せば、自分がかつていた元の世界だって、信じていた者に後ろから刺されるような謀略は日常茶飯事だった。
(そうですわ、ここもそういう世界だと割り切るしかありませんもの)
彼女は胸の内でそう強く自分に言い聞かせた。
そんなレタリアの様子を見て、ひとまず彼女の心は落ち着いたと判断したミレアは、次に痛々しい傷を負ったアーデンへと視線を移す。
「それにしても、あのあなたが被弾するなんてね……。いえ、戦闘ログの映像を見る限り、あの超至近距離での全方位掃射は、物理的に回避不能と言っていいわね」
「一風変わった、えげつない武器を使っていた機体だったようだな」
グレインはそう言いながら、アーデンの四肢に深く刻まれた無数の弾痕をじっと眺める。
「……せっかくミレアが綺麗に直してくれた、新生アーデンを大きく傷つけてしまいましたわ……」
レタリアがふう、と小さくため息をつく。ミレアはそれを聞いてハッとした。彼女の落ち込み具合は、仲間だったツーインの裏切りだけでなく、大切に調整してもらった愛機をさっそく傷物にしてしまったという、申し訳なさからも来ていたのだ。
「ふふ、レタリア、大丈夫よ。そんな顔しないで」
その優しい声に、レタリアは「え?」と言って小首をかしげる。
「ダメージが入っているのはね、外装(ルードのパーツ)部分だけよ。あれほどの全方位掃射でも、中身のフレームやジェネレーターは完全に無事。先日のエレクトラ・デュロの時と全く同じ状況よ」
「なるほど、流石のハルディライト製だな……。中身のレタリエムフレームには傷一つついていないというわけか」
グレインが腕を組み、感心したように深く頷いている。
「あら、そうなのですの……!? 良かった……! アーデン、あなたも随分と頑丈になりましたのね!」
愛機が無事だと知り、レタリアの顔にいつもの輝きが戻る。その現金で、けれど愛機想いな様子を見て、ミレアとグレインは顔を見合わせ、ほほえましく笑った。
◆
ひとまず安心した一同は、ミレアのラボへと移動していた。階下のドックでは、アーデンの四肢から傷ついた外装パーツが取り外され、機体の詳細なスキャンが始まっている。
レタリアも汗をかいたパイロットスーツを脱ぎ、いつものお気に入りの服へと着替えを済ませていた。今はミレアが淹れた温かいハーブティーを飲み、ソラが置いていったクッキーをサクッとかじっている。
室内の空気が落ち着いたところで、グレインが静かに本題を切り出した。
「ツーインという男だが、レストフルの騒動の時は『腕の立つ臨時の傭兵』として、ゼイン氏たちと同様に一応こちらでも連絡先を押さえていたんだが……」
グレインは手元の端末の画面をミレアたちに見せる。
「今は見事に消えている。セルディアに登録されていたフリーランサーのデータベースからも、ヤツの記録は綺麗に抹消されているな」
「所属のデータは、セルディアが属している『ウィステルム連合国家』の別自治区となっていたけれど、それも実際はどこまで本当か分かったもんじゃないわね」
ここでミレアが手元にある端末の画面を見た。
「レタリアが持ち帰った箱の中身の調査が終わったわ。なんてことのないシグナル発信機だけど、ジャミング機能も備えていたみたい。更に、依頼宙域に設置されていた防衛装置に後から設置されたものも確認されたわ」
ミレアはコーヒーに口をつける。
「その上で管理局に当該宙域への調査を促す通報もあったみたいね……。となると……」
ミレアの言葉に、レタリアがカップを持ったまま尋ねる。
「……どういうことですの? 彼は一体何者なんですの?」
「まあ、十中八九こういう事だと確信しているがね。ヤツは他の自治区、もしくはどこか他国から、レタリア――君の『正体』を調べに来た諜報員の類だ。今回の依頼もヤツがわざわざお膳立てをして舞台を作ったのだろう」
「ええっ!?」
レタリアが素っ頓狂な声を上げて驚き、手からクッキーを落としそうになって、わたわたと空中でそれをキャッチする。
「だから、この業界じゃ珍しい事じゃないのさ。君があげたこれまでの破格の戦績は、当然アーデンという機体あってこそだ。だが、外部に出ている情報じゃあ、あの機体は『ちょっと特殊なカスタムを施された旧型汎用機』程度にしか処理されていない。実際、『アーデンシステム』以外に特筆すべき点は無いと言える」
「それくらいの技術力なら、今うちの支部が開発している次世代汎用機『ラスタ』や本社開発の『リーズ』のデータの方が、他国にとっては余程重要で、盗む価値のある情報になるものね」
ミレアが続けて言った。
「ああ、試作型フォトンライフルの『アルシアン』だって同じだ。純粋な技術的な意味での産業スパイなら、大手のシンセ社に潜り込もうとする奴なんて珍しくもないだろう」
だが、とグレインは一度言葉を切り、鋭い目つきになった。
「通信ログからも、ヤツの目的は明らかに君個人を狙うことだった。……にしては、少々去り際の口数が多すぎたと俺は思っている」
「どういうことですの?」
「ヤツは君の実力を見る事を注視していたようだ、機体を撃破することでも、拿捕することが目的でもなさそうだった。あれがこちらの注意を逸らすためのブラフじゃなければ、そういう事だろう」
レタリアはここで、かつての無人機騒動の際、初めて出会ったツーインが『特機乗りがどんな戦いを見せるのか興味がある』と言っていた事を思い出した。
「俺のカンだが、ヤツが嘘を言っているようには思えなかった。アーデンに本気で攻撃をしてきたのも君の力を引き出すため、そして引き際が鮮やかだったのもそう考えると合点がいく。その上で君の戦士としての実力に対する敬意を払って、わざわざあそこまで明かしてくれたのかもしれない」
「なんだか妙に律儀ね」
ミレアの率直な感想に、グレインは苦笑する。
「まあ、軍人っぽさは感じられないな。多分雇われだろう、何でも屋(フリーランサー)の業界には、どうにも変わり者が多いからな」
グレインは『変わり者が多い』という部分を強調しながら、わざとらしく視線をレタリアへと送った。
「なんですの?」
レタリアは首を傾げ、一拍置いてからようやくその視線の意図に気づく。
「ちょっと! わたくしのことを変わり者だと仰っていますのね!? 失礼ですわよ、わたくしは至ってまともで、優雅で、高貴なだけですわ!」
ぷんぷんと怒りながらクッキーを口に放り込むレタリアを見て、ミレアとグレインは今度こそ声を合わせて笑った。
「まあ、そういう事だ。君の『力の本質』についてはバレようがない、そこまで心配しなくていい。……次にあいつと戦場で出会うことがあれば、その時は挨拶代わりに思いっきりぶっとばしてやればいい」
グレインの頼もしくも手荒いアドバイスに、レタリアもようやく、いつもの不敵で美しい笑みをその唇に浮かべるのだった。
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