悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
シンセ・フィブラのラボの一角。
そこは以前、レタリアとペルダ支部のリッテ・フォンが激しい一戦を交えた、大型シミュレーターが鎮座する部屋だった。
「ふぅ……」
駆動音の停止と共にシミュレーターのカプセルが開き、一人の男が汗を拭いながら出てきた。自警団隊長のグレインである。
「どう?『リーズ』の乗り心地は。といっても、まだ機体が届いてないからデータをこちらの環境で再現したものだけれど」
操作パネルの前に立つミレアが、眼鏡の奥の切れ長の瞳を向けて声をかけた。現場に復帰したばかりのグレインは、愛機のシートの感触を思い返すようにしみじみと言葉を発した。
「ふむ……本当にこのスペックが出せるのか? 正直驚きだ。以前乗っていた俺のカスタム機、シュエルでの全力を、平時で軽く上回っている。これが次世代の軍用機か」
その言葉に、ミレアは誇らしげに少し微笑む。
「本社が今一番力を入れている最新鋭機だもの。正式にリリースされたとしても、正規軍のエースパイロットにしか配備されないレベルの代物になるわ」
「なるほどな……。ただ、今回はシミュレーターだから問題なかったが、実機でこれほどの高機動を発揮できるとなると、流石に俺の身体が持たんぞ」
グレインは首の後ろを掻きながら苦笑した。
「もちろん機体側にも、搭乗者への負荷を抑える慣性制御機構は搭載される予定よ。それに――」
ミレアは視線をグレインへと移し、言葉を付け加えた。
「あなたには更に負荷を軽減するための、専用のスーツを開発している最中だから。ソラが今、頑張ってくれているわ」
その言葉にグレインは意外そうに眉を上げた。
「それはスカリア女史にまた苦労をかけるな。何か良いお礼を考えておかなくては」
「あの子は新しい機体やパイロットのデータを取るのが大好きだから、これからのテストにたっぷり付き合ってあげて頂戴」
「ハハ、おてやわらかに頼みたいね」
グレインは笑いながら答え、再びシミュレーターのカプセルへと向かった。
先ほどは基本的な四肢の動作や、簡単なダミーを相手にする基本的な攻撃テストに過ぎなかったが、次は違う。
メインモニターに映し出されたのは、かつてのアーデン。レタリエム計画のプリプロトタイプパーツに換装される前の、古い状態のデータだった。
次に行うのは、実戦を想定した模擬戦。
グレインは仮想のリーズを自在に操作し、星の海を駆けるアーデンと並走する。
異常な程の加速を見せ、かつては全く速度に置いて勝るものなしだったアーデンに決して劣らないリーズ。機体のレスポンスも極めて良好だった。
しかし、攻撃が全く当たらない。
リーズが放つ正確なフォトンライフルの射線は紙一重で躱され、肉薄してのフォトンセイバーの一撃も、アーデン特有の強引かつ規格外の反応速度で的確に回避される。
(だが――)
グレインの集中力もまた研ぎ澄まされていた。放たれる反撃を一度も受けることなく流れるように捌き切る。
そして一瞬の隙を見つける。大回りになったアーデンの懐へと潜り込んだリーズが、その喉元へフォトンセイバーの光刃をピタリと突き付けた。
『そこまで。タイムアップよ』
ミレアの音声と共にシミュレーターの視界が暗転する。
「過去のレタリアの戦闘データを反映させたアーデンだったけれど、流石の腕前ね」
通信回線越しに告げたミレアの称賛に、しかしグレインは首を振った。
「いや……あれは彼女の動きに似せているだけで、完全に別物だ。ミレア、君なら分かるだろう?」
その言葉に、ミレアは苦笑を漏らした。
「そうね。シミュレーターのプログラムじゃあ、彼女の本来の強靭なフィジカルや、何よりあの『魔力』を通した第六感的な動きの再現は不可能だもの。だから、ただ単純に相手の動きに合わせて的確な回避と攻撃を行うだけの、それっぽいデータでしかないわ」
「ああ。だから最後の時のように、完全にパターンを見切ってしまえば下せない訳じゃない。だが、レタリア本人だとこうはいかないな。それこそ、あのツーインがカウンターで放ったような、物理的に逃げ場のない超至近距離からの全方位攻撃でもなければ……」
「それでも、彼女が相手でなければ、今のグレインとリーズの動きに追従できるパイロットなんて連合国家にも殆どいないと思うわ。――回避不能の攻撃に対する防御策については、そうね。今後の私たちの開発課題にさせてもらうわ」
「あら、楽しそうなお話をなさっていますわね!」
いつの間にやら、背後にレタリアが立っていた。
「あなた、いつの間に……」
ミレアの言葉に対し、レタリアは腰に手を当てて胸を張ると、不敵で美しい笑みをその唇に浮かべた。
「ソラ様が案内してくれましたわ!かつてのわたくしのアーデンに一本とるとは、なかなかやりますわね!」
「これはお嬢様。お褒めに預かり光栄だが、データ相手が限界さ。本物の君の動きを相手にするのは、これでもまだ骨が折れそうだからな」
シミュレーターから降りてきたグレインが肩をすくめると、レタリアはおーっほっほ、といつものように高らかに笑った。
「当然ですわ! わたくしは優雅で、高貴で……そして最強の騎士となる予定なのですから! ですが、グレインがそれほどの機体を手に入れたというのなら、わたくしも負けていられませんわね。ミレア、早くわたくしの新生アーデンの調整をお願いしますわ!」
「はいはい。わかってるわよ、お嬢様。そのために今スキャンデータを解析してるんだから、少しは大人しく待っていなさい」
微笑むミレアと、レタリア。
その瞳には愛機への絶対の信頼と、新たな仲間でありライバル(リーズ)に対する旺盛な闘志が、黄金色の魔力の輝きと共に確かに宿っていた。
どういうお話が好きですか?
-
キャラクターの日常
-
戦闘
-
政治的な駆け引き
-
技術系
-
主人公の活躍
-
レタリアがかわいい!
-
いや、ミレアがかわいい!
-
他のキャラが良い!
-
その他(自由記入欄欲しい)