ヤチヨが彩葉と出会うまでの前日譚 作:リミナル
「今からKASSENで勝負しませんか、ヤチヨ」
「おやおや、さっくんにしては唐突だね?」
ツクヨミがサービスを開始して約三年が経過した。
ウミウシ状態のヤチヨが住んでいる、サーバールームの隣の部屋にて俺は今日も彼女のご飯を用意している。
「一体どういう風の吹き回しかな?」
「武器調整も兼ねて、ですよ」
「なるほど〜〜、そういうことならお任せあれ♪」
「ただ、そのまま勝負しても楽しくないと思うので……」
「?」
「勝ったら、相手の言うことを何でも一つ聞くことにしましょう」
──────────
ツクヨミ内で遊ぶことのできるゲームとして追加予定のタイトル、「KASSEN」。
三対三の「SENGOKU」や一対一の「SETSUNA」など、色々なゲームモードを想定しているが、今回ヤチヨとタイマンを張るゲームモードは七対七の「KASSEN」だ。
タイマンと言っておきながら七対七のルールを選んでいるのには、深い訳がある。
俺が格ゲーもどきの「SETSUNA」モードにて、ヤチヨに勝てる気がしないからだ。
お互い、自陣のスタート地点に桃の中からスポーンする。
「KASSEN」は、チーム内から一人「SYOGUN」が選ばれ、選ばれたプレイヤーのHPを削りきれば勝利のゲームモード。全員ストックは三つだが、「SHOGUN」はHPが高く設定されている代わりにストックが一つになっている。
今回、俺とヤチヨ以外ボットということで二人は「SYOGUN」確定だ。
『GAME START!』
法螺貝の音とともに戦いの幕が上がる。
今回のステージは俺のピックアップ、高低差のあり、裏取りありの城の中。
本来であれば倒されたら負け確定の「SYOGUN」が前を張ることなど無いのだが、今回はヤチヨ以外全員プレイヤーではない。ということでバリバリ前に出ようと思う。
マップを開いてヤチヨも前に出てきているのを確認しつつ、ステージ中央へ向かう。
俺の持ち武器は、ダメージは低いものの近距離範囲攻撃が可能の二つの扇子。武器によってはパリイも出来てエイムも要らない、正に俺のために生まれた武器だ。
そして一番重要なのは、隠密スキルも持っている点。
「ありゃ、マップにさっくんがいないってことは」
「っしゃ、まずは二体!」
そう。この武器は隠密行動が基本のスピード特化。
ステージ中央に向かうといっても、裏からだ。
後ろから隠れて二枚処理した俺は、加速スキルを発動してそそくさと自軍へと逃げ込む。
まずは作戦成功だ。さて、ここからどうするかが問題。
このゲームにはウルト、いわゆる必殺技的なのも存在しており、それは時間経過、敵を倒す、味方のHP回復、フィールド上のオーブを回収のいずれかを行うことでゲージが溜まっていく。ゲージが満タンになれば発動可能だ。
オーブ回収と二キルにより俺のウルトは既に発動可能、そして相手二枚はデスポーン中。単純に人数有利だ。
ここはシンプルに前から詰めるべきだろう。
睨み合いが続いていた前線のボット達に突撃の合図を送り、本格的に戦闘が開始する。
前線を確認しながらマップを開くと、ヤチヨ本人も俺と同じく突撃命令を出すのみで待ちの姿勢であることが確認できた。
それなら……
(今だな)
ウルトを発動する。俺のウルトは発動中、身体能力の超強化と空中移動に加えて攻撃時以外の隠密状態が維持される。
マップを確認してヤチヨの位置を把握しつつ、一気に距離を詰める。
(居た!)
最速速度を維持したまま、隙だらけのヤチヨにチャージの最大火力を一発!
「ふふ〜ん☆」
「えっ?」
……と思ったのだが。
突然展開される傘に攻撃を弾かれ、後ろにヒットバック。大きく出来た隙に攻撃を入れられてしまう。
「『SYOGUN』なのに敵陣に凸ってくる悪い子にはおしおきだよ〜〜」
「簡単には勝たせてくれないっぽいですね」
ウルトのゲージはまだ半分程度残っている。
再び走りだしながら、このゲームのもう一つの特徴である武器の形態変化──片方の扇子をバラバラにして複数個のクナイに変化させる。
普通なら、当たってもせいぜいデバフを付与する程度のクナイだが、ウルト中なら……
「わわ、それは流石の私もまずいかも!?」
ヤチヨがそう言い切るかいなかのタイミングに投げたクナイがヤチヨの傘にクリーンヒット、そしてドッカーンという轟音が響き渡る。
ウルト中クナイを使えば、ゲージを大幅消費する代わりに爆発による広範囲高ダメージの防御不可な攻撃を与えられるのだ。
今ので強化状態は解除されたものの、一気に畳かけようと右手に扇子を構えながら加速スキルを使用する。
すると5秒も経たないうちに、煙の中で武器も持たず地面に横たわるヤチヨを見つけた。
すぐさまトドメを刺す。ダメージエフェクトが出たのを確かに確認する。
「まずは、一勝」
次の瞬間UIに表示されたのは"YOU WIN"という文字……ではなく"一キル"の表示のみだった。
「なんちゃって〜〜」
「っ!?」
背後から綺麗に傘状態の斬撃を受ける。
振り向いてももう遅い。
俺の体は既に切断されていた。
「ボットのスキル……」
「いえ〜い、この子に身代わりになってもらいました☆」
……一回戦はあっけなく負けてしまった。
反省点は、味方がカバーに来れるような位置で戦闘をしなかったことだろう。そのせいで不意をつかれた時に何も出来ずに敗北してしまった。
二本先取なのでもう後がない。
「……今回は堅実に、だな」
二回戦開幕の法螺貝が鳴る。
次のステージはヤチヨのピックアップ、障害物が少なく見通しの良い草原のマップだ。ここは俺の嫌いなステージ上位に君臨する。
まあ高低差もほとんど無い分遠距離からの攻撃も基本は届かない事が唯一救いだろう。
扇子を開いて両手に持ちつつ、防御の構えを取りながら雪崩れ込んでくる敵を迎え撃つ。
途端、視界の端にヤチヨがウルトの発動をしているのが見える。
「うっそ、早すぎでは!?」
ヤチヨの武器は斬撃と吹きガラスによる攻撃が可能な和傘。そのウルトは超広範囲の一撃必殺爆発。喰らえば即お陀仏の火力だ。
あのガラスの膨らみ具合でこの位置だと、恐らくスキルを使っても避けることは不可能。
あれ、これ負けか?
爆発の閃光に思わず目を瞑る。
続くガラスの音の砕ける音。
恐る恐る目を開けると、目の前には複数の味方が光の粒子となりながら消えていくのが見えた。
(俺がやられたら負けるからって、身を挺して守ったのか……)
「ヤッチョ監修のAIは高性能でしょ?」
「みたいですね、認識を改めます」
ウルト直後の後隙を狙ってスタンと能力低下効果のクナイを投げるが、展開される傘にまたも守られる。
加速スキル、隠密スキルを使いつつ距離を詰めて傘をひたすらに攻撃する。
「よっと」
俺の連撃の合間に合わせてくり出された斬撃を、俺は今度こそ見逃さなかった。
「えぇ!? それってパリイ出来るんだっけ!?」
ようやく見せてくれた隙にちょうど溜まったウルトを発動、なんとか攻撃に合わせようと武器を持ち直すヤチヨの背後に回りこみ、クナイを二本突き刺す。
巻き上がる粉塵とともにヤチヨが宙を舞う姿が見える。
「よよよ〜〜、完敗なのです」
二回戦が終了、今回は本物だったらしい。
───────
三回戦の幕が上がる。
最後は他と比べて少し広めの、山岳地帯がモデルのステージが選ばれた。このステージには特別に中立ミニオンも配置されている。
中立ミニオンを倒しながら前に進み、山の中腹に現れるのはサカバンバスピスの神輿に乗ったヤチヨとその軍勢。
「負けませんよ」
「それはヤッチョのセリフ〜」
──負けれない、か。
この戦いを挑んだのは、別にヤチヨとゲームがしたかった訳じゃない。
俺にはここ数年間で悩んでいることがあった。ヤチヨの話をもっと聞くべきか、このままの関係でいるのか。
女手一つで俺を育ててくれた母は、俺が中学に入ったあたりから病に侵され始めた。
入院しても現状維持が関の山。やっとの思いで稼いだ治療費も虚しく、5年で帰らぬ人となった。
母の病を治すことにしか努力してこなかった俺は、その日から突然生きる目標を失った。何をしていいか分からなくなってしまったのだ。
そうしてダラダラ過ごした最中に、俺はカーターと出会った。
最近になって気づいた、俺が犯したいくつかの失敗。
自分の人生を生きて欲しいと言い続けてくれた母、俺が大切さに気付けないまま、感謝もしない内に居なくなってしまった彼。
いつか来るヤチヨとの別れの日に、こんな思いはもうしたくない。そう思って不器用に、考えに考えて出した結果がこれだ。
勝ったらヤチヨの隠している事を全て話してもらうことにした。
だから、負けれない。勝ちたい。
「全速力で行かせてもらいます!」
ウルトと加速スキルの重ね掛け。
ボットを数体仕留めつつ、目眩しのためのクナイを一本投げる。
爆発が引き起こす土煙の中、最速でヤチヨの背後を取る。しかし、これでもヤチヨはカウンターを決めてくるだろうという確信があった。
だから最初からキルを狙うのではなく、ここでチャージ攻撃をして傘膜を破壊する。
最大火力を振りかぶった俺の目に映るのは、金棒を手に持つヤチヨの姿。
「戦闘中の武器の入れ替え!?」
考える間もなく、俺の攻撃はしっかりと受け止められる。片手のみの扇子で鍔迫り合いに勝てるはずもなく、俺の武器はそのまま手から振り落とされる形に。
「これで私の勝ちかな〜?」
慌てて武器を拾いに行く俺にトドメの一撃を入れようとするヤチヨ。
まだだ。まだ可能性はある。
金棒はその対面性能の分、全体的に動きが重い。
拾い上げたと同時に扇子を広げ、実行するのは何度も練習した受け流し。
一回、二回、三回。
続く連撃を凌ぎ切り、使用可能となった加速スキルで一度距離を取る。
修復された扇子を取り出し、物陰に隠れて仕切り直そうとしたその時、ヤチヨが金棒をライフルに変形させるのではなくこちらの方へ走っているのが見えた。
(ここでせっかくのアドバンテージを捨てる?)
確かに、近づいてしまえばこちら側に有効打は無いが、その間合いに入る前にはこちらが先手を打てるタイミングがいくつも存在する。
そんな素人みたいなことを……いや、分かった!
隠密スキルを発動しながらジリジリと後退。
ヤチヨをもう一度見ると、彼女は確かにウルトを発動していた。
あの武器のウルトは、加速した軽量級の武器を越えられるほどのスピードを出力可能とする。
どうやらヤチヨは俺が迎え撃とうとしたところを狙うつもりだったらしいが、それは既にお見通し済み。
案の定、俺がさっきまでいた岩陰にてキョロキョロと周りを見渡していた。
今なら扇子は両手にある。行ける。
隠密スキルが切れない間に距離を詰める。──はずだったのだが。
「動けない!?」
足元を見ると、杖職スキルの拘束エリアが展開されていた。現在は大剣職のヤチヨがそれを使えるはずもない。
途端に、自分とヤチヨのことしか考えていなかった脳内に周囲の情報が流れ込んでくる。
後ろを見ると、俺の軍勢とヤチヨの軍勢が背後で激しい戦いを繰り広げていた。
いつの間にこんな場所まで?
「や〜〜っと見つけた☆」
まさかウルトを使うまでがブラフで、俺をこの場所まで引かせることが最初から狙いだったというのだろうか。
まあ、うん。どちらにしろ、
「俺の、負けです」
「潔くてよろしい!」
───────
「まさか、味方と挟み撃ちするために誘導されていたとは……」
「ふっふ〜ん、ヤッチョはずる賢い性格なのです☆」
「いえ、それも立派な戦術です」
「ほほ〜、その言葉有難〜く受け取っておくよ」
隠密スキルを使えば、俺の位置は味方からも確認が不可能になる。しかし俺がこちらに来ることを事前に味方に伝えておけば、ヤチヨの軍勢のみが俺の妨害が可能で、俺の軍勢は誰もカバーに入れない状態を作り出せる。
実際にここまで見越していたのかは不明だが、挟み撃ちにする形を取ろうとしていたのは間違いない。
完全敗北だ。
「久々に体を動かしたおかげか、少しスッキリした気がします」
「体を動かすって言っても、さっくんは実際に動いてる訳じゃないんだけどね〜」
「……そうですね。でも、晴れ晴れしてます。一人では勝てないってことを学びました。俺はもう少し、誰かを頼ることにします」
「ってやばば!もうすぐ配信の時間だ!何の話題話すか一切決めてないよ〜」
「またFUSHIと俺によるカンペ頼りですか?」
「じゃあ勝者の権利はここで使っちゃおうかな〜、今日もよろしく頼んだよ二人とも!」
悪いな、FUSHI。お前も巻き添えみたいだ。