「……は?」
思わず間の抜けた声が口からこぼれた。隣ではエリカさんが、まるで理解が追いついていないといった様子で口を半開きにし、そのままミオへと視線を向けている。
無理もない。自分がどれだけ頭を下げ、必死に説得して、ようやく魔法学園の受験を許可してもらったというのに――その直後、まるで便乗するかのようなタイミングで、ミオが「自分も受験したい」と言い出したのだから。
正直に言って、混乱しかなかった。
彼女はいったい、この状況をどう捉えて、どうすれば許可が下りると考えたのだろうか。
「ミ、ミオ? 貴方まで急に何を言っているの?」
動揺を隠しきれないエリカさんの問いかけに、ミオは一瞬だけ視線を伏せ、それから意を決したように顔を上げた。
「本気かい? 今の話、ちゃんと聞いていただろう?」
神父様もまた、困ったように眉を下げながらミオを見つめる。
「サダメはそれなりに鍛えているし、戦闘経験もある。だからまだ可能性はあるとして……君は、正直に言えば少し厳しい」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
神父様の言うことは間違っていない。
ミオに魔法の才能がないわけではない。治癒魔法に関して言えば、むしろ天賦の才があると言っていい。だが、それはあくまで支援・回復に特化したもので、戦闘向きとは言い難い。風魔法も扱えるようにはなっているが、せいぜい物を浮かせたり、軽く押し動かしたりする程度だ。
普段から特別な鍛錬をしている様子もない。
仮に試験に合格できたとしても、その先の厳しい学園生活を考えると、不安が残るのも当然だった。
――それでも。
「……私も」
ミオは小さく息を吸い込み、震える声で言葉を紡いだ。
「もっと魔法の勉強をして、立派な治癒師になりたいの!」
「……ミオ」
治癒師。
前世で言うなら医者に近い職業だろう。高度な医療機器や設備はほとんど使わず、必要なのは知識と魔法、そして資格。それだけで、多くの命を救える存在だ。
ミオの治癒魔法は確かに優れている。
勇者からも、その素質を褒められていたほどだ。鍛えれば、誰よりも頼られる治癒師になれる――自分も、そう思っている。
「もっと強い治癒魔法が使えるようになったら、たくさんの人を助けられる」
ミオの声は次第に熱を帯びていく。
「風魔法だって、攻撃できなくてもいい。重い物を運んだり、瓦礫をどかしたり……色んな形で人の役に立てると思うの」
そして、ぎゅっと拳を握りしめ、涙を滲ませながら続けた。
「だから、私も学園に行って魔法を勉強したい。……もう、あんな思いはしたくないから」
言葉が途切れ、部屋に静寂が落ちる。
――そうか。
胸の奥で、何かが腑に落ちた気がした。
悔しかったのは、自分だけじゃなかったのだ。
あの時、守られるだけだった自分。
何もできず、無力さを噛みしめるしかなかったミオ。
彼女もまた、あの日からずっと考え続けていたのだろう。
ひょっとしたら、今日この瞬間まで、言い出すタイミングを待っていたのかもしれない。
「……神父様」
気がつけば、体が勝手に動いていた。
「俺からもお願いします。ミオも、一緒に試験を受けさせてもらえませんか」
「ッ!? サダメ?」
驚いたようにミオがこちらを見る。
だが、もう迷いはなかった。
同じ想いを抱えているなら、置いていくわけにはいかない。
試験の内容は分からないが、助け合える部分があるなら、全力で支えればいい。少なくとも、魔法学園に筆記試験があるとは思えないし。
「うーん……」
神父様は腕を組み、しばらく考え込んだ後、ため息混じりに言った。
「まあ、サダメも一回きりの特例だ。ミオにも、チャンスくらいは与えてもいいだろう」
「神父様!?」
「ッ!?」
思わず声が重なった。
予想以上にあっさりとした承認に、今度は自分たちの方が戸惑ってしまう。
おそらく、自分を許可した以上、ミオだけを完全に突き放すことはできなかったのだろう。
エリカさんは納得いかない様子で腕を組んでいたが、それ以上反対することはなかった。
こうして、自分とミオはなんとか魔法学園受験の承諾を得ることができた。
――なお、その後この件とは別で、エリカさんからしっかりお叱りを受けたのは、また別の話である。
――転生勇者が死ぬまで、残り4144日。