翌日の早朝、まだ朝霧の残る時間帯に、リーヴ村へ騎士団の一行が訪れた。
村にはあまりにも場違いな、全身を金属鎧で覆った屈強な男たちがぞろぞろと足を踏み入れてくる。その異様な光景に、村人たちは家々の前に集まり、ざわめきと戸惑いを隠せずにいた。
自分も、朝起きて顔を洗おうと外へ出たところで、その異変に気づいた一人だ。
普段なら聞こえてくるはずの鳥の声よりも先に、重々しい金属音と人々のひそひそ声が耳に入ってきた。何事かと周囲を見回し、気づけば顔を洗うことすら忘れて、少し離れた場所からその様子を眺めていた。
「リーフ殿、ご苦労様です」
騎士団の一人が、捕らえた賊を連行しながら、リーフさんに向かって恭しく敬礼する。
「やあ、わざわざすいません。まさか貴方が直々に来るとは思いませんでした」
「いえいえ。リーフ殿のお力添えのおかげで、被害は最小限で済んだと聞いています。心より感謝いたします」
どうやら、賊の身柄引き渡しに来たようだ。
あの騎士が、リーフさんの言っていた知り合いなのだろうか。兜で顔は見えないが、声色や態度から、相当信頼されていることだけは伝わってきた。
「それでは我々はこれで。詳しい話は、後日改めて」
「はい、よろしく頼みます」
賊を荷台に押し込み終えると、騎士団は休憩を取ることもなく、すぐさま村を後にした。遠方から来たはずなのに、村に滞在していた時間は一時間にも満たない。
その仕事の早さに感心すると同時に、これ以上村人の視線を浴びたくなかったのだろう、という事情も察せられた。
騎士団の姿が見えなくなり、ようやく村の空気が落ち着き始めた頃――。
「さて、私もそろそろお暇させてもらおうかな」
「ッ!?」
リーフさんが軽く背伸びをしながら、さらりとそんなことを口にした。
――まずい。
昨日の話を、今のうちに伝えておかなければ。
そう思った瞬間、体は自然と動いていた。
「リーフさん!」
「ん? ああ、君か。おはよう」
「おはようございます。それより……もう行っちゃうんですか?」
少し息を切らしながら問いかけると、リーフさんは穏やかに頷いた。
「うん。用事は済んだし、一度学園に戻ろうと思ってね」
やはり、この村を離れるという意味だったらしい。
朝早く目が覚めたのは、今思えば幸運だった。
「あの、昨日の件なんですけど……」
「うん?」
ここから、昨日神父様たちに話し、無事に許可をもらえたことを説明した。自分とミオ、二人で試験を受けることになったということも含めて。
「そうか……」
リーフさんは少し考え込むような表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。
「正直に言えば、手放しで喜べないのは残念だね。でも……覚悟は決まっているようだ」
「はい!」
即答すると、彼はほんの少しだけ、困ったように笑った。
仕事柄、軽率に背中を押すことはできないのだろう。スカウトした以上、その責任も感じているはずだ。もしかしたら、これまでに後悔したことも一度や二度ではないのかもしれない。
それでも――。
自分は絶対に、学園に入り、卒業してみせる。
神父様たちにそう誓い、許可をもらったのだ。中途半端な覚悟で臨むつもりはない。
「試験はちょうど一か月後だ。ここに行けば、学園付近まで向かう馬車が出ている」
そう言って、リーフさんは簡易的な地図と、試験日程が記された紙を差し出した。
「乗る日を間違えないようにね」
「はい、ありがとうございます!」
リーフさんは軽く手を振り、そのまま村を後にした。
試験まで、残り一か月。
今日からは、これまで以上に厳しい鍛錬が必要だ。
――転生勇者が死ぬまで、残り4143日。