「二人とも、頑張って来いよー!」
「はい、ありがとうございました!」
目的地に辿り着くと、御者のおじさんは朗らかな笑顔でエールを送り、そのまま馬車を返していった。
ここまで安全に送り届けてくれたことに、感謝してもしきれない。改めて深く頭を下げ、その背中を見送った。
「おー……ここがレッソか」
思わず声が漏れる。
目の前に広がる町・レッソは、リーヴ村とは比べ物にならないほどの賑わいを見せていた。
「人、多いね……」
ミオも周囲を見回しながら呟く。
人口も領土も、リーヴ村とは一回りどころか二回り以上違う。石畳の道の両脇には店がずらりと並び、人々の話し声や笑い声、商人の呼び込みが入り混じっている。
学園の入学試験が近いからだろうか。
同じように学園行きの馬車を待っているらしき若者の姿もちらほらと見える。
「それより、さっさと学園行きの馬車探そうぜ」
「うん、そうだね」
ここでぼんやりしている訳にもいかない。
試験を受けるためにも、まずは学園近くまで向かう馬車に乗らなければ。
「ほら」
「えっ!?」
人混みの中を歩き出そうとした瞬間、自分はミオに向かって手を差し出した。
「い、いや! だ、大丈夫だから!?」
慌てて手を引っ込めようとするミオ。
だが、こちらとしてはそんな反応をされる理由がよく分からない。
「いやいや、迷子になったら大変だろ? 初めての町だし、人も多いし。はぐれたら合流するのも面倒だぞ」
「うっ……うぅ……」
「? ほら、急がないと」
「ちょ、ちょっとぉ!?」
そう言っている間にも、ミオは落ち着きなく周囲をきょろきょろと見回し、なかなか手を取ろうとしない。
もしかして、自分が道に迷うと思われているのだろうか。リーフさんから貰った地図もあるし、そこまで心配されるようなことではないと思うのだが。
むしろ、地図を持っていない彼女が一人になる方が不安だ。
いつまでもこうしている訳にもいかず、半ば強引にミオの手を取った。
「ほら、行くぞ」
「……っ」
ミオは小さく息を呑み、そのまま何も言わなくなった。
『学園行きー! 学園行きの馬車に乗られる方はこちらでーす!』
「おっ、あそこだ」
少し歩いた先から、はっきりとした呼び声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、馬車が数台並び、係の男が声を張り上げている。
「……」
どうやら目的地は間違っていなかったらしい。
それにしても、この世界で“アナウンス”のようなものを聞くのは初めてだ。都会では機械文化が進んでいると聞いたことはあったが、ここまで浸透しているとは思わなかった。
「ほら、俺たちも早く乗ろうぜ!」
「……う、うん」
手を引いて馬車へ向かおうとするが、ミオは頷きこそすれ、ずっと下を向いたままだ。
さっきから様子が少しおかしい。
人混みで酔ってしまったのだろうか。
確かに、見慣れない人の多さに囲まれれば、気分が悪くなるのも無理はない。次からは、なるべく人の少ない道を選ぶようにしよう。
そんなことを考えながらも、ミオの手を離すことなく、そのまま一緒に馬車の方へと駆けていった。