学園行きの馬車に乗ってから、すでに半日ほどが経過していた。
ここまで辿り着くまでの道中、自分は何度も驚かされ続けていた。
この国では機械の文化が発展しているとは聞いていたが、その水準は自分の想像をはるかに超えていたのだ。
まず、今自分たちが乗っているこの馬車。
荷台部分は一般的な馬車とは異なり、まるで前世で見たバスのように横長の構造をしている。それを二頭の馬が引いているのだが、ただの馬ではない。
使用されているのは魔導馬《ソーサ・ホース》。
ドレーカ村で魔物たちが飼っていたものとは違い、葦毛の体毛は艶やかで、筋肉の付き方も美しい。知らなければ普通の馬と見分けがつかないほどだ。
さらに驚くべきことに、二頭の魔導馬には特殊な蹄鉄が装着されていた。
これは魔導馬の魔力を増幅させ、走行速度を安定・調整するための魔道具らしい。無論、馬それぞれの魔力量や体力も考慮された上で使用されているとのことだ。
馬車に同乗していた案内人役の男性の話によれば、魔導馬は通常の馬とは違い、自身の魔力を消費して走行することができるという。
そのため最高速度も段違いで、普通の馬では到底追いつけないらしい。
言われてみれば、確かに速かった……気がする。
途中、景色が流れる速度がおかしいとは思っていたが、まさかそこまでとは。
そのおかげで、本来なら丸一日以上かかる道のりを、わずか半日ほどで移動できてしまうらしい。
下手をすれば前世の車よりも速いのではないかと思えるほどだ。
もっとも、乗り心地は「最高」とは言い難い。
揺れはそれなりに激しく、長時間座りっぱなしのせいで、自分の尻はとっくに悲鳴を上げていた。
一度、ミオの治癒魔法で痛みを和らげてもらったものの、何度も乗り換え、何日も移動を続けていれば流石に効果も薄れる。
試験前に彼女の魔力を無駄に消費させるのも申し訳なく、それ以上は頼めなかった。
そんなことを考えていると、案内人役の男性がマイクを手に取り、明るい声でアナウンスを始めた。
『さて、間もなくクルーシア王国の中央都市、ソワレルに到着致します! 学園まではもう少しですので、寝ていられる方々は今のうちに起きておいてくださいねー!』
「おっ……そろそろか」
ついに、か。
この国の中心都市――ソワレル。
ほとんどが乗り物移動とはいえ、ここまで本当に長かった。
だが、それ以上に胸の奥がざわついているのを感じる。
『はい! ただいま中央都市ソワレルに入りましたー! 学園まではもう少しですので、お手洗い等はもう少し辛抱してくださいねー!』
「おおおっ、すげーー!」
「建物、でっか!」
「やっぱ都会は別格だな!」
馬車が都市部へと足を踏み入れた瞬間、車内が一気に騒がしくなった。
他の乗客たちは窓のない車窓から身を乗り出し、次々と感嘆の声を上げている。
自分もその一人だった。
視界いっぱいに広がるのは、これまで見たことのない規模の建物群。
高さも横幅も、村や町とは比べ物にならない。人の数も、活気も、すべてが段違いだ。
これが都会。
前世で東京に行ったことはないが、もし初めて訪れていたら、きっと同じように圧倒されていただろう。
そんな中、再び案内人の声が響いた。
『えー、これから学園専用の通路に入りますので、顔を出している方はくれぐれもお気をつけくださーい!』
アナウンスと同時に、馬車は大通りを外れ、やや狭い細道へと進路を変える。
どうやらこの先が、学園へと続く特別な通路らしい。
胸の高鳴りを抑えきれないまま、自分は息を整えた。
いよいよ――ここからが、本当のスタートだ。
―転生勇者が死ぬまで、残り4114日。