転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー19

 『はーい! ソワレル学園に到着致しましたー! 皆様、大変お疲れ様でした。この後、別の案内人より今後の説明がありますので、お疲れのところ恐縮ですが、なるべくその場から離れないようお願いいたします。それでは、私はこれで失礼致します!』

 

 「ふわぁ……ようやく着いた……」

 

 「流石に尻がイテぇ……」

 

 「やべぇ、もう膀胱が限界なんだけど……」

 

 「とにかく休みてぇ……」

 

 案内人のアナウンスが終わると同時に、受験者たちは堰を切ったようにぞろぞろと馬車を降り始めた。自分とミオも人の流れに乗るようにして地面へと足を下ろす。

 

 本当に疲れた。

 

 都会に初めて来た時の高揚感など、とっくにどこかへ消え失せている。まだ夕方前だというのに、今すぐ横になりたい気分だった。眠いというより、とにかく身体を休ませたい。

 

 もっとも、この痛む尻では仰向けに寝ることすら難しそうだが。

 

 そんなことを考えていると、すぐに別の男が前へ出て、拡声用の魔道具らしきものを手に取り声を張り上げた。

 

 『えー、皆さんお疲れ様でした! お疲れのところ申し訳ありませんが、これから重要な説明を行いますので、もう少しだけお付き合いください!』

 

 「はぁ……早くしてくれよ」

 

 「マジで限界なんだけど……」

 

 周囲を見渡せば、誰もがへとへとだ。不満の声があちこちから漏れている。

 

 もしこれが試験当日だったなら、まともに実力など発揮できなかっただろう。そう考えると、今日が移動日で本当に助かった。

 

 『試験は明後日の早朝に実施されます。それまでの間、学園内の視察は宿舎区域を除き全面的に禁止となります。いかなる理由があっても、無断で侵入した場合は受験資格を失う可能性がありますので、十分注意してください』

 

 まずは試験に関する説明から始まった。

 

 案内人が指し示した先――右側には、巨大な校門がそびえ立っている。その奥には、白亜の外壁に無数の装飾が施された荘厳な建物が見えた。どこか神殿のようでもあり、前世で写真だけ見たサクラダ・ファミリアを思わせる威容だ。

 

 あれが、ソワレル学園。

 

 遠目に見ているだけなのに、圧倒される。

 

 一方、左側には少し離れた場所に三階建ての木造建築が整然と並んでいた。ぱっと見は住宅街そのものだが、どうやらあちらが受験者用の宿舎らしい。

 

 ……というか、学園の敷地が広すぎる。下手をすればテーマパークの一つや二つ作れてしまいそうな規模だ。

 

 学園内に入れないのは残念だが、前日に細工をする不届き者が現れる可能性を考えれば当然だろう。純粋な好奇心はあるものの、ここは素直に従うしかない。

 

 受かった時の楽しみに取っておこう。

 

 『続いて宿舎についてですが、こちらには五十棟、計三百室が用意されています。今回馬車で来られた方は、全員一人一部屋で宿泊可能かと思われます』

 

 どうやらこの馬車に乗っていたのは二百人弱。恐らく遠方からの受験者だけだ。

 

 だが試験当日には、この何倍もの人数が集まるはず。

 

 想像しただけで、人の波に飲み込まれる自分の姿が容易に思い浮かび、少しだけ背筋が寒くなった。

 

 『なお、学園外の宿をご希望の方は定期便の馬車をご利用ください。他用で外出される場合も同様に利用可能ですので、時刻表をご確認ください』

 

 視線を向けると、確かにバス停のような掲示板が設置されていた。

 

 ……ここまで来ると、もう完全にバスだな。

 先ほどの馬車は、もはや「学園バス」と呼んでも差し支えない気がする。いや、この世界的には「学園馬車」か。

 

 ひょっとして路線馬車や高速馬車なんてものも存在するのだろうか。

 

 『説明は以上です。ご不明点がある場合は、このプレートを首に下げた者へ遠慮なくお声がけください。周辺を常時巡回しております。それでは――解散!』

 

 「ふぅ……やっと終わった!」

 

 「腹減ったー!」

 

 「いい部屋、先に取ろうぜ!」

 

 「おい待てよ!?」

 

 案内人は銀色のプレートを掲げながらそう告げた。細かい文字までは見えないが、恐らく学園関係者を示す身分証のようなものだろう。

 

 解散の合図と同時に、人々は一斉に動き出した。談笑しながら歩く者、宿舎へ向かって駆け出す者――それぞれが思い思いの速度で散っていく。

 

 「ミオ、俺たちも行こうぜ」

 

 「う、うん」

 

 自分たちも少し遅れて歩き出す。

 

 目の前には受験者用の宿舎。そしてその奥には、巨大なソワレル学園。

 

 いよいよだ。

 

 ここから先は、もう引き返せない。

 

 試験まで、あと二日。

 

 胸の奥に、小さな緊張が芽生え始めていた。

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