翌日。まだ夢の中にいたはずの自分は、昼前にもかかわらずミオに容赦なく叩き起こされ、そのまま半ば引きずられるようにして再び街へと繰り出していた。
くそ……なぜあの宿は鍵付きではないのだろうか。いくら受験者用とはいえ、防犯面があまりに心許ない。安心して眠ることもできやしない。もう少しセキュリティーというものをだな――などと愚痴を零していたところ、
「何言ってんの? この鍵渡されたでしょ?」
ミオがきょとんとした顔でそう言い、部屋番号が書かれた札サイズの木の板をひらひらと見せてきた。
「……えっ?」
よく見ると、それは昨日受付で渡されたものだった。どうやらドアノブにかざし、少量の魔力を流すことで施錠される仕組みらしい。言われてみれば、そんな説明を受けた記憶がうっすらと蘇ってきた。
……完全に忘れていた。
つまり今回の一件、宿の問題でも何でもなく、ただ単に自分の注意不足であることが判明しただけだった。なんとも情けない。
その話はさておき、自分たちは昼食を済ませた後、土産物を買うために良さげな店を物色して回っていた。本来なら試験が終わってからゆっくり選ぶつもりだったのだが、試験後に精神的な余裕がある保証はどこにもない。結果次第ではそれどころではなくなる可能性もある。
ならば、今のうちに済ませておこう――そういう結論に至ったわけだ。
「うーん、何にすっかなぁ……」
いくつか店を回ってみたものの、決め手に欠けていた。当初は「都会でしか手に入らない美味いもの」を候補にしていたのだが、賞味期限を考えるとどうにも難しい。リーヴ村までの距離を思えば、途中で傷んでしまう可能性だってある。
もちろん、美味しそうな品は山ほど並んでいる。だが土産とは、無事に持ち帰れてこそ意味がある。そう考えると、食べ物は避けた方が賢明かもしれない。
となると、無難なのは置物やアクセサリーの類だろうか。しかし「都会ならではの置物」と言われても、正直ピンと来ない。下手をすれば村でも売っていそうな物を選んでしまいかねない。それでは土産としての価値が半減してしまう。
「……」
次に入った雑貨屋で、自分は棚に並ぶ商品を一つひとつ手に取りながら吟味していった。見覚えがあるかどうか、うろ覚えの記憶を頼りに判断しようとするが、どれも決め手に欠ける。
これは……思った以上に難しいな。
最悪、店員に「この街でしか買えない物」を聞くしかないか――そんなことを考えていた時だった。
「ねえ、私もう決めたけど。まだ時間かかりそう?」
振り向くと、ミオはすでに買い物を終える寸前だった。彼女の手には、おしゃれな服を着せられた可愛らしいうさぎのぬいぐるみが二つ抱えられている。
……なるほど。こういう物もあるのか。
「んー、いや、すぐ決めるから先に出といてくれ」
「そう? わかった。早くしてね」
そう言い残し、ミオはレジへと向かっていった。
とは言ったものの、実のところまだ迷っていた。しかし彼女の選び方を見て、ふと肩の力が抜ける。
――あまり深く考えすぎない方がいいのかもしれないな。
身内に贈るものなのだ。高価である必要も、特別である必要もない。自分が「これがいい」と思ったものを選べば、それで十分だ。
直感に任せよう。
「……よし、これでいっか」
店内をもう一度見回し、最終的に目に留まったのはスノードームだった。小さなガラス球の中に精巧な街並みが再現されており、軽く振れば白い粒子が雪のように舞う。
この世界にもこんな物が存在していたとは知らなかったが、エリカさんあたりはきっと気に入るだろう。結局、デザインの異なるものを二種類購入することにした。
「ありがとうございましたー」
会計を終え、店を出る。
「ふぅ……あんまりミオを待たせると、また不機嫌になるかもしれないしな。早く行かねーと」
昨日の件もある。これ以上機嫌を損ねれば、また何かしら奢らされる未来が容易に想像できた。
店の外に目を向け、彼女の姿を探す。
「待たせて悪かったな、ミ――」
声をかけようとした、その瞬間だった。
ミオの前に、見知らぬ男が二人立っているのが目に入った。