転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー24

 「さて、話の続きに戻ろうか」

 

 「こいつの言う通りだ。お前に拒否権はねぇ。俺たちの遊び相手になってもらうぜ。一晩、たっぷりとな。ぶへへっ!」

 

 「ちょっ……ふざけないで!」

 

 貴族を名乗る男二人は、こちらとのやり取りを一方的に打ち切ると、再びミオへと歩み寄った。さっきまでとは明らかに違う。言葉だけでなく、今にも腕を掴んで連れ去ろうとする勢いだ。

 

 それを悟ったのか、ミオの表情が怒りで強張る。このままでは、彼女が先に手を出しかねない。――正直、こいつらの行いは殴られても文句を言えないレベルだ。しかし、ここで暴力に訴えれば、相手が何をしでかすか分からない。最悪、こちらが訴えられる可能性だってある。

 

 試験への影響も考えれば、なおさらだ。

 

 ……ここは、別のやり方で収めるしかない。

 

 「あ、あのー……」

 

 「「あ゛っ?!」」

 

 ミオが連行される前に注意をこちらへ向けさせようと、再び作り笑顔を浮かべて声を掛ける。当然のように、二人の反応は最悪だった。自分の存在が、よほど癪に障るらしい。

 

 「なんだお前? さっきの話、聞いてなかったのか? それとも教養がなさすぎて、人間の言葉も理解できねぇのか?」

 

 「とっとと失せろ。マジで死罪にすっぞ?」

 

 容赦のない罵声が飛んでくる。

 

 だが――不思議なことに、そこまで怖くはなかった。言葉の端々から漂うのは、どこか中途半端な虚勢。中学のヤンキーを思わせる軽さがある。魔物と相対してきた身からすれば、威圧感など比べるまでもない。

 

 「……できるなら、やってみろよ?」

 

 「……はっ?」

 

 作り笑顔を消し、真顔でそう返す。急な態度の変化に、二人は一瞬言葉を失った。

 

 「いくら貴族様でもさ、一般人が肩に触れただけで死罪にできる権利なんて、あるわけないだろ?」

 

 「なんだと、貴様ぁ!?」

 

 痩せた方の男が顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。太った方も、もはや余裕の表情ではなかった。

 

 確かに、自分はこの世界の政治体制に精通しているわけじゃない。だが、この国が貴族の独裁国家でないことくらいは、これまで生きてきてなんとなく分かる。私怨で生殺与奪を振るえるほど、権力が集中しているとは思えない。

 

 そもそも――。

 

 ここは昼間でも薄暗い、建物が密集した裏路地だ。人通りはほとんどない。そんな場所で「高貴な貴族様」が女を口説くのは、どう考えても不自然だ。

 

 おそらくこいつらは、貴族という立場を盾にして、人気のない場所で女を捕まえる手口を使っているだけなのだろう。あまりにも小物臭くて、拍子抜けすらする。

 

 「本当に死罪にできるって言うならさ」

 

 そう言って、表通りの方を指差す。

 

 「人通りのある場所で、さっきの台詞をもう一回言ってみろよ?」

 

 「くっ……!?」

 

 表通りにはそれなりに人がいる。そこで同じことを言えば、周囲がどう反応するかは一目瞭然だ。

 

 二人の顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。その反応で、確信した。

 

 ――やっぱり、ハッタリだ。

 

 「どうした? 貴族様なら、人目なんて気にせず無礼者を死罪にできるんじゃないのか?」

 

 「こ、こいつ……!」

 

 一歩、また一歩と距離を詰める。二人の額から冷や汗が滲み出ているのが分かった。

 

 ……いける。

 

 「ほら。やれよ?」

 

 「ッ……クソ! 覚えてろよ! ゴミの分際で!!」

 

 捨て台詞を吐き散らし、二人は逃げるようにその場を去っていった。

 

 「……ふぅ。やっと追い払えた」

 

 無事に背中が見えなくなったのを確認し、ようやく息を吐く。平和的解決とは言い難いが、目的は果たせた。逆恨みはされるだろうが……まあ、そう何度も会うことはないだろう。多分。

 

 「大丈夫か、ミオ?」

 

 振り返って声を掛ける。

 

 次の瞬間――。

 

 「サダメェッ!!」

 

 「うおっ!?」

 

 涙を流したミオが、勢いよく抱きついてきた。

 

 「うぅ……怖かった……本当に怖かったよぉ……!」

 

 その様子を見て、胸が締め付けられる。

 

 そうだ。少し気が強くて、時々乱暴な一面があるとはいえ――彼女も年頃の女の子だ。男二人にあれだけ迫られれば、恐怖を感じないはずがない。

 

 怖い思いをさせてしまった。その事実が、今になって重くのしかかってくる。

 

 「……今日は、もう帰ろう」

 

 「……うん……」

 

 彼女の頭をそっと撫で、なるべく優しい声でそう告げると、ミオは目を擦りながら小さく頷いた。

 

 その後、詫びも兼ねて彼女の手をしっかりと握り、離さないようにしながら帰路につく。途中で見つけた店で、彼女の好きそうなケーキを買って。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り4113日。

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