翌日の早朝。
いよいよ試験当日がやって来た。
目を覚ました瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられる。昨日までは漠然としていた緊張感が、一気に現実味を帯びて押し寄せてきた。心臓の鼓動が、普段より少しだけ早い。
……こんなに緊張するのは、いつ以来だろう。
前世でも、ここまで気を張った覚えはあまりない。少なくとも、命運を左右するような試験など、そう何度も経験するものではない。
部屋を出ると、ちょうど向かいの部屋からミオも出てきた。
「おはよう、サダメ」
「おはよう」
目が合い、挨拶を交わす。
だが、その後が続かない。
「「……」」
沈黙が、妙に気まずい。
昨日の出来事が頭をよぎったせいか、それとも単純に緊張しているだけなのか。ミオもどこか落ち着きがなく、視線を泳がせている。
――まあ、無理もない。
これが最初で、そして最後のチャンス。
今回の試験に落ちれば、それで終わりだ。二人とも、その重さを嫌というほど理解している。
「……行くか」
自分から声を掛けると、
「……そ、そうだね」
少し遅れて、ミオが頷いた。
お互いガチガチの状態のまま、試験会場へと向かう。歩きながらも、無意識のうちに肩に力が入っているのが分かった。
◇
「……マジかよ……」
学園の校門前に辿り着いた瞬間、思わず本音が漏れた。
一昨日とは比べ物にならないほどの受験者の数。人、人、人。見渡す限り人の頭しか見えない。宿舎に泊まっていたのが二百人程度だったことを考えると、その十倍――いや、それ以上はいるだろう。
朝っぱらからこの光景を見せられて、脳が一瞬フリーズする。
……こんな人だかり、生まれて初めて見た気がする。
「……ここにいる人、全員受験生なんだよね?」
呆然としたままミオが呟く。
「まあ、それ以外考えられないな」
ミオも相当ショックを受けている様子だ。下手に人混みに突っ込ませたら、最悪パニックを起こしかねない。昨日の件もあるし、なるべく近くにいないと不安だな。
そんな中、人だかりの先頭からアナウンスが響いた。
『受験者の皆様、おはようございます! 只今から試験会場へと案内いたしますので、くれぐれも列から離れないようご注意ください。万が一はぐれてしまい、試験会場に辿り着けなかった場合は、その時点で不合格となりますので、必ず付いて来てくださいねー!!』
声は聞こえるが、姿はまったく見えない。人が多すぎて、前方が完全に壁になっている。
……これ、前の人を見失ったら詰みじゃないか?
流石にそんなことはないだろうと思いつつも、不安が頭をもたげる。前に出て位置を確認したい気もするが、ミオをこの人混みに放り込むのは少々酷だ。ここは無理をせず、人の流れに身を任せるしかない。
◇
その後も、案内役の男性が定期的にアナウンスを入れてくれたおかげで、極端な混乱は起きず、列はゆっくりと前進していった。
校門をくぐり、広い敷地へと入る。視界の端に立派な建物が見えた。恐らく本校舎だろう。しかし、列はそこへ入ることなく、その脇を通り過ぎていく。
……なるほど。
これだけの人数だ。本校舎に全員詰め込むのは無理がある。在校生もいるだろうし、別会場を用意するのが妥当だ。
だが、進めば進むほど、別の不安が頭をよぎる。
――本当に、このまま付いて行って大丈夫なんだよな?
まさかとは思うが、「試験会場に辿り着くまでが試験です」みたいな展開じゃないよな?
途中から急にペースが上がったり、突然ルートが変わったり……。
どこかで読んだ某ハンター漫画の影響か、ありもしない妄想が次々と浮かんでくる。完全に漫画脳だ。
……いやいや、落ち着け。
現実はそんな都合のいい(悪い?)展開にはならないはずだ。
たぶん。
きっと。
そう自分に言い聞かせながらも、不安が完全には消えないまま、俺たちは人の波に揉まれ続けていた。