『こちらが試験会場となりまーす!!』
案内人の明るい声が響き渡り、列はその場で止まった。
そして――。
自分が抱いていた不安は、いい意味で裏切られることになる。
途中で迷うことも、トラブルに巻き込まれることもなく、俺達は本当に“普通に”試験会場へと辿り着いていた。
……流石に考えすぎだったか。
「取り越し苦労だったな」
胸の奥に溜まっていた緊張が、少しだけ緩む。これでようやく試験に集中できそうだ。そう思ったのも束の間――。
「……試験会場って、ここでか?」
「ここ、ただの野原だよな?」
「俺てっきり、物凄いデカい建物の中でやるもんだと思ってたわ」
「嘘でしょ……私達、なんか試されてない?」
周囲から次々と困惑の声が上がり始める。
俺も改めて周囲を見渡し、言葉を失った。
案内人が示した“試験会場”は、建物ひとつ存在しない、どこまでも広がる草原だった。整地されているわけでもなく、特別な設備がある様子もない。ただ、風に揺れる草と、広い空があるだけだ。
……これは流石に怪しい。
試験会場と呼ぶには、あまりにも何もなさすぎる。
まさかとは思うが、学園側が俺達を騙している可能性も、微レ存ながら浮かんでくる。
――いや、待て。
もしかして、もう試験は始まっているのか?
この状況そのものが試験内容。受験者の反応や行動を観察しているとか……。
さっきまで「杞憂だった」と安心していた自分の考えが、再び揺らぎ始める。
『はっはっは、安心してくれたまえ』
そんな疑念が頭を巡っていた、その時だった。
『試験会場は、ちゃんとここで合っているよ。この場所を選んだのは、会場を用意するのに都合が良かったからさ』
どこからともなく、別の男性の声がマイク越しに響き渡る。
「ッ?!」
突然の声に、会場全体がざわめく。受験者達は一斉に辺りを見回し、声の主を探すが、こちらからは何も見えない。
「お、おい! あそこ!」
前方の方から、誰かが叫んだ。
その声に引き寄せられるように、受験者達の視線が一斉に前方へと向かう。
「はっ?! なんだアレ?!」
「階段?! なんでこんな所に?」
「さっきまで何もなかったよな?」
「なにこれ……魔法?」
「いやいや、ホログラムとか映像だろ?」
俺も目を凝らして前方を見る。
――そこには、確かに“なかったはずのもの”が存在していた。
広大な草原の真ん中に、白く輝く巨大な階段。
受験者全員を見下ろせるほどの高さを誇り、まるで最初からそこにあったかのように堂々と佇んでいる。
魔法なのか、機械による演出なのか。距離があるせいで、はっきりとは判別できない。ただ一つ確かなのは、尋常ではないということだ。
『ようこそ、ソワレル学園へ』
その白い階段を上がりながら、男性は演説を続けていた。
『未来ある若人達の奮起、我々学園一同、心から歓迎しよう!』
まだ姿はよく見えない。だが、その声を聞いた瞬間、胸の奥が微かにざわついた。
……どこかで聞いたことがある声だ。
『おっと、自己紹介がまだだったようだね』
学園関係者。
聞き覚えのある声。
まさか――。
自分の中で、否定と肯定がせめぎ合う。そんなはずがない、と理性は言う。だが、感覚は強く一致を訴えていた。
『ソワレル学園、四十九代目理事長――リーフ・エンドレッドだ』
その名が告げられた瞬間、俺の中の葛藤は、完全に決着がついた。