転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー27

 「……リーフさん?」

 

 「サダメ、あの人って……」

 

 白い階段を上っていくその人物の姿を目にした瞬間、俺とミオはほぼ同時に顔を見合わせていた。互いの表情を見れば、言葉にしなくとも分かる。同じ衝撃を受けているということが。

 

 ミオもリーフさんの存在は知っていたらしい。顔をはっきり覚えていたわけではないが、「どこかで見たことがある人」という認識はあったようだ。

 

 それにしても――未だに信じられない。

 

 まさか、あの人がこのソワレル学園の理事長だったなんて。

 自分の中では、完全に「学園のスカウト担当」くらいの認識だった。部活をしていた頃、たまにグラウンドの端で見かける、少し変わったおじさん。そんな印象しかなかったのだ。

 

 それが、学園のトップ。

 しかも、理事長自ら街に出てスカウトをしていたという事実。

 

 今になって思えば、恐れ多いにも程がある。

 無礼なことをした覚えは……たぶん、ない。ないはずだ。

 そう自分に言い聞かせつつも、胸の奥にほんの少し罪悪感のようなものが浮かび上がってきた。

 

 『さて』

 

 そんな俺の内心など知る由もなく、リーフさんは朗らかな声で続ける。

 

 『ここで長話をしても退屈するだろうし、そろそろ試験を始めようか』

 

 「えっ?! もう?!」

 

 「つーか、本当にここでやるのかよ?」

 

 「いくらなんでも急すぎだろ!」

 

 「てか、試験って結局なにすんの?」

 

 「こんだけ人がいて大丈夫なのかよ?!」

 

 自己紹介を終えるや否や、いきなり試験開始宣言。

 当然のように、受験者達から不満や疑問の声が一斉に噴き出す。

 

 それも無理はない。

 試験内容の説明もなく、心の準備をする時間すら与えられていないのだから。

 

 『はっはっは、安心したまえ』

 

 そんな騒然とした空気を、リーフさんは笑い声一つで受け流す。

 

 『ちゃんと説明はするよ。その前に……』

 

 その時、俺は気づいてしまった。

 

 リーフさんの右手が、軽く前に突き出されている。

 指を鳴らす――そんな仕草だ。

 

 嫌な予感が、背筋を走る。

 

 『会場の準備を済ませてから、だね』

 

 次の瞬間。

 

 パチン、という乾いた音が響いた。

 

 それと同時に、足元の感覚が一変する。

 野原の地面が、まるで生き物のようにぐにゃりと歪み、波打ち始めたのだ。

 

 「な、なにこれ?!」

 

 「うわっ!?」

 

 突然の異変に、受験者達は一斉に悲鳴を上げる。

 誰もが素人のサーフィン状態で、必死にバランスを取ろうとしていた。

 

 俺も同じだ。

 踏ん張ろうとするが、地面が安定しないせいで、まともに動くことすらできない。

 

 「ミオ! 捕まれ!」

 

 それでも、左手だけはどうにか動かせそうだった。

 嫌な予感が胸を締め付ける。せめて、彼女とは離れたくない。

 

 俺は必死に腕を伸ばし、ミオに手を差し出した。

 

 「……うっ、ダメ……動けない……」

 

 ミオは地面に手をつき、姿勢を保つので精一杯の様子だった。

 片手を離す余裕など、なさそうだ。

 

 今の彼女は、まるで生まれたての小鹿のように震えている。

 

 それでも――。

 

 「頑張れ、ミオ! ほら、もう少しだ!」

 

 俺は限界まで体を傾け、腕を伸ばす。

 足は震え、今にも崩れそうだが、それでも踏ん張る。

 

 ミオも、必死に勇気を振り絞り、ゆっくりと手を伸ばしてきた。

 

 あと少し。

 指先が、届きそうで――

 

 「ッ!?」

 

 「キャッ!?」

 

 その瞬間だった。

 

 波打っていた地面が、唐突に――大きな穴へと変貌する。

 

 足場が消え、体が宙に投げ出される感覚。

 手と手は、最後まで繋がらなかった。

 

 俺達は、そのまま抗う術もなく、暗い穴の中へと落下していった。

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