「うおぉっ!?」
長い長い“ウォータースライダー体験”の末、ようやく終点に辿り着いた。
謎の物体は、まるで最後まで役目を果たすかのように、自分を地面からさほど高くない位置で吐き出し、俺は大きな衝撃を受けることもなく着地する。
「……ふぅ」
拍子抜けするほど、体に異常はない。
どうやら学園側は、本気で受験者を殺すつもりはないらしい。最低限の安全対策は取られているようだ。
「とりあえず……本会場に着いた、ってところか……?」
そう呟きながら、周囲を見渡す。
目に飛び込んできたのは、想像以上に広大な洞窟だった。
天井は高く、奥行きもある。所々から風の音が聞こえてくることから、どこかに外と繋がる空間があるのは間違いない。空気も澱んでおらず、息苦しさは感じなかった。
「……皆、どこに行ったんだ?」
だが、違和感が拭えない。
ここに来るまで、確かに二千人近い受験者がいたはずだ。それだけの人数が落とされたというのに、視界のどこを探しても人影は一つも見当たらない。
あり得ない。
いくら洞窟が広いとはいえ、完全に孤立するほど離されるものなのか?
「ミオー! どこだー!!」
耐えきれず、彼女の名前を叫ぶ。
だが返ってきたのは、自分の声が洞窟内で反響する虚しい残響と、ひゅうひゅうと鳴る風の音だけだった。
胸の奥が、じわじわと冷えていく。
――マズい。
精神的な意味でも、試験的な意味でも、これは相当マズい状況だ。
孤独にされた不安と、ミオの安否への心配が一気に押し寄せてくる。
そんな時だった。
『よし。これで皆、無事に試験会場へ辿り着けたようだね』
「ッ?! リーフさん!?」
突如、目の前の空間に光が走り、まるで巨大なテレビ画面のような映像が浮かび上がる。そこに映し出されていたのは、見慣れた顔――リーフ・エンドレッドだった。
どうやらこちらの音声は届いていないらしく、リーフさんは一方的に語り始める。
『これより、試験の説明を始める。訳も分からず不合格にならないよう、しっかりと私の話を聞くように』
「……」
自然と背筋が伸びる。
この口調は冗談じゃない。聞き逃したら、本当に即脱落しかねない。
『まず、君達が今居る場所は地下百五十メートル。全長およそ三キロに及ぶ広大な洞窟だ。配置場所はランダムだが、受験者の数も多い。近場に他の受験者がいる者もいれば、仲間と完全に離ればなれになっている者もいるだろう』
「……はっ?」
思わず、もう一度周囲を見回す。
だが、やはり誰もいない。つまり――
(まさか、孤独なのは俺だけ……?)
別の意味で、嫌な汗が背中を伝う。
『試験の合格条件は、この洞窟からの脱出だ。脱出口はランダムに配置されており、その数は全部で三十個』
画面に食い入るように視線を集中させる。
『但し、出口は必ずしも地上にあるとは限らない。壁、天井、地面――上下左右、様々な場所に設置されている。そして出口は一つにつき一人限定。誰かが先に通過した場合、その出口は即座にロックされ、二度と使用できなくなる』
……なるほど。
『つまり、早い者勝ちということだね。ここまでで理解できたかな?』
頭の中で、情報を整理する。
要するにこれは巨大な迷路だ。ただし出口には人数制限がある。
――ということは。
(集団行動は、むしろ不利……?)
出口が一人用なら、複数人で行動している場合、必ず争奪戦になる。実力だけでなく、心理的な駆け引きも発生する。出口を取れなかった側の精神的ダメージは計り知れない。
それに比べれば、一人で動ける自分は――
(案外、運が良いのかもしれないな)
ミオと離れた不安は大きいが、試験そのものに限れば、この状況は必ずしも悪くない。
『さて、ここからは注意事項に入る訳だが……』
その後も、リーフさんの説明は続いた。
自分は一言一句聞き漏らさぬよう、画面を睨みつけながら、次に訪れる試練に備えていた。