転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー29

 「うおぉっ!?」

 

 長い長い“ウォータースライダー体験”の末、ようやく終点に辿り着いた。

 謎の物体は、まるで最後まで役目を果たすかのように、自分を地面からさほど高くない位置で吐き出し、俺は大きな衝撃を受けることもなく着地する。

 

 「……ふぅ」

 

 拍子抜けするほど、体に異常はない。

 どうやら学園側は、本気で受験者を殺すつもりはないらしい。最低限の安全対策は取られているようだ。

 

 「とりあえず……本会場に着いた、ってところか……?」

 

 そう呟きながら、周囲を見渡す。

 目に飛び込んできたのは、想像以上に広大な洞窟だった。

 

 天井は高く、奥行きもある。所々から風の音が聞こえてくることから、どこかに外と繋がる空間があるのは間違いない。空気も澱んでおらず、息苦しさは感じなかった。

 

 「……皆、どこに行ったんだ?」

 

 だが、違和感が拭えない。

 ここに来るまで、確かに二千人近い受験者がいたはずだ。それだけの人数が落とされたというのに、視界のどこを探しても人影は一つも見当たらない。

 

 あり得ない。

 いくら洞窟が広いとはいえ、完全に孤立するほど離されるものなのか?

 

 「ミオー! どこだー!!」

 

 耐えきれず、彼女の名前を叫ぶ。

 だが返ってきたのは、自分の声が洞窟内で反響する虚しい残響と、ひゅうひゅうと鳴る風の音だけだった。

 

 胸の奥が、じわじわと冷えていく。

 

 ――マズい。

 

 精神的な意味でも、試験的な意味でも、これは相当マズい状況だ。

 孤独にされた不安と、ミオの安否への心配が一気に押し寄せてくる。

 

 そんな時だった。

 

 『よし。これで皆、無事に試験会場へ辿り着けたようだね』

 

 「ッ?! リーフさん!?」

 

 突如、目の前の空間に光が走り、まるで巨大なテレビ画面のような映像が浮かび上がる。そこに映し出されていたのは、見慣れた顔――リーフ・エンドレッドだった。

 

 どうやらこちらの音声は届いていないらしく、リーフさんは一方的に語り始める。

 

 『これより、試験の説明を始める。訳も分からず不合格にならないよう、しっかりと私の話を聞くように』

 

 「……」

 

 自然と背筋が伸びる。

 この口調は冗談じゃない。聞き逃したら、本当に即脱落しかねない。

 

 『まず、君達が今居る場所は地下百五十メートル。全長およそ三キロに及ぶ広大な洞窟だ。配置場所はランダムだが、受験者の数も多い。近場に他の受験者がいる者もいれば、仲間と完全に離ればなれになっている者もいるだろう』

 

 「……はっ?」

 

 思わず、もう一度周囲を見回す。

 だが、やはり誰もいない。つまり――

 

 (まさか、孤独なのは俺だけ……?)

 

 別の意味で、嫌な汗が背中を伝う。

 

 『試験の合格条件は、この洞窟からの脱出だ。脱出口はランダムに配置されており、その数は全部で三十個』

 

 画面に食い入るように視線を集中させる。

 

 『但し、出口は必ずしも地上にあるとは限らない。壁、天井、地面――上下左右、様々な場所に設置されている。そして出口は一つにつき一人限定。誰かが先に通過した場合、その出口は即座にロックされ、二度と使用できなくなる』

 

 ……なるほど。

 

 『つまり、早い者勝ちということだね。ここまでで理解できたかな?』

 

 頭の中で、情報を整理する。

 要するにこれは巨大な迷路だ。ただし出口には人数制限がある。

 

 ――ということは。

 

 (集団行動は、むしろ不利……?)

 

 出口が一人用なら、複数人で行動している場合、必ず争奪戦になる。実力だけでなく、心理的な駆け引きも発生する。出口を取れなかった側の精神的ダメージは計り知れない。

 

 それに比べれば、一人で動ける自分は――

 

 (案外、運が良いのかもしれないな)

 

 ミオと離れた不安は大きいが、試験そのものに限れば、この状況は必ずしも悪くない。

 

 『さて、ここからは注意事項に入る訳だが……』

 

 その後も、リーフさんの説明は続いた。

 自分は一言一句聞き漏らさぬよう、画面を睨みつけながら、次に訪れる試練に備えていた。

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