『試験の説明は以上だ。それでは、これより試験を開始する。皆の健闘を祈っているよ』
リーフさんの言葉を最後に、空中に映し出されていた映像はふっと掻き消えた。
洞窟に残されたのは、風の音と、自分の呼吸音だけ。
「……始まった、ってことか」
そう呟いた瞬間、ようやく実感が湧いてくる。
もう説明は終わり、後戻りはできない。ここから先は、試験官の助言も、再説明もない。合格するか、不合格になるか――すべては自分の行動次第だ。
「よし……とりあえず、脱出口を探すか」
気持ちを切り替え、歩き出しながら、改めて今回の試験内容を頭の中で整理する。
試験会場は地下百五十メートル。全長約一キロにも及ぶ広大な洞窟。
合格条件は、この洞窟からの脱出。ただし脱出口はランダムに配置された三十個のみ。出口は一つにつき一人限定で、誰かが通過した瞬間、その出口は使用不可となる。
時間制限はなし。しかし、三十人が脱出した時点で試験は強制終了。つまり、残った者は自動的に不合格だ。
次に注意事項。
魔法の使用自体に制限はないが、他者を殺しかねない危険行為は即失格。争奪戦になった場合、攻撃の加減を誤れば一瞬で終わる可能性がある。力任せは論外だ。
脱出口に関するルールも厄介だった。
同じ脱出口に二人以上が同時に侵入しようとした場合、特殊なセンサーが作動し、侵入者を強制排除。そのうえ、その脱出口は即座に別のランダムな位置へ再配置されるらしい。
一見、妨害行為に使えそうにも思えるが、出口の再配置は完全にランダム。自分に有利に働く保証はどこにもない。むしろ時間の無駄になる可能性の方が高い。
さらに、脱出口の強度についても説明があった。
出口内部には地上へ転移するための魔道具が組み込まれているが、その使用は一度きり。仮に無理やり破壊して侵入したとしても、二度目の転移は不可能だという。
加えて、脱出口自体は上級魔法でも容易には破壊できない構造になっているとのこと。ずる賢い手段は最初から想定済み、というわけだ。
「……なるほどな」
ここまで整理してみると、試験内容自体は驚くほどシンプルだ。
要するに、洞窟内を探索し、いち早く脱出口を見つけて通過すればいい。それだけ。
運の良いことに、今の自分は一人だ。
近くに脱出口さえあれば、誰とも争わずに脱出できる可能性が高い。三十枠しかない以上、集団で行動している受験者ほど不利になる構造だ。
(……世界有数の名門校の試験にしては、ずいぶん運任せだな)
そう思わずにはいられず、わずかに肩透かしを食らった気分になる。
「……」
だが、その一方で、どうしても拭えない不安があった。
――ミオ。
この試験は早い者勝ちだ。合流を目指すこと自体が、致命的なタイムロスになりかねない。
しかも、脱出口は一つにつき一人。仮に再会できたとしても、出口が一つしか見つからなければ、どちらかが諦めるしかなくなる。
さらに言えば、自分たちは今年しか受験資格がない。
ここで落ちれば、もう二度とチャンスは巡ってこない。
「……」
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
「……ミオ、悪い」
誰もいない洞窟で、そう呟く。
「この試験……自分で、なんとかしてくれ」
冷たい判断だと、自分でも思う。
だが、これは情に流されていい場面じゃない。互いが互いの実力を信じて、各自で突破するしかない試験なのだ。
そう自分に言い聞かせ、俺は前を向いた。
――まずは脱出口だ。
考えるのは、それからでいい。