試験が開始してから、十数分は経っただろうか。
開始直後ということもあり、今のところ無理に急ぐ必要はないと判断し、自分は洞窟内を歩きながら慎重に脱出口を探していた。
とはいえ、妙だった。
ここまで歩き回っているにもかかわらず、未だに誰一人として他の受験者と遭遇していない。二千人近い人間が同時に放り込まれたはずなのに、この静けさはどう考えても不自然だ。
「……どんだけ離れた場所に配置されたんだよ」
ラッキーと言えばラッキーだ。脱出口さえ見つけてしまえば、誰とも争わずに済む。
だが、風が洞窟を抜ける音しか聞こえないこの空間に、次第に心が削られていくのを感じていた。静かすぎる。人の気配がなさすぎる。
「こんな寂しい場所……とっとと脱出しちまいてぇな」
思わず本音が漏れる。
この状況から少しでも早く抜け出したくなり、無意識のうちに歩くペースが速くなっていた。ここに長居すればするほど、余計な不安ばかりが膨らんでいく気がした。
その時だった。
『報告。只今、一人目の脱出を確認。残りは二十九となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』
澄んだ女の子の声が、洞窟全体に響き渡る。
「おっ……? もう一人出たのか?」
思わず足を止める。
どうやら、脱出者が出るたびにアナウンスが流れる仕組みらしい。それにしても早い。試験開始からそれほど時間は経っていないはずだ。
「……あんまり余裕こいてる場合じゃなさそうだな」
一人が出たということは、運良く近場に脱出口を引き当てた受験者がいたということだ。この流れで、次々と合格者が現れてもおかしくない。
焦燥感が、じわじわと胸を締め付ける。
気付けば早歩きだった足取りは、いつの間にか駆け足へと変わっていた。
——そして、数分後。
『報告。只今、五人目の脱出を確認。残りは二十五となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら、辺りを見回す。
上下左右、分岐や壁際、天井付近まで目を凝らして探したが、脱出口らしきものは一向に見当たらない。それどころか、やはり人影すらない。
(……本当に同じ洞窟か、ここ?)
一瞬、嫌な考えが頭をよぎる。
もし手違いで、自分だけ別の場所に飛ばされていたとしたら——そんな馬鹿げた想像をしてしまうほど、孤立感が強かった。
「はぁ……はぁ……あっ?」
不安を振り払うように走り続けていると、前方に壁が迫ってきた。
どうやら洞窟の端に辿り着いてしまったらしい。行き止まりだ。
「……やっぱり、誰もいないか」
ここにも人の気配はない。
ということは、反対方向に戻れば……いや、それも確証はない。
「……念のため、だな」
行き止まりとはいえ、ここに脱出口が設置されている可能性はゼロではない。
見落として後悔するよりは、確認しておくべきだ。
慎重に壁際を調べながら歩いていると——
「……ん?」
洞窟の最奥、岩肌に不自然な直線が走っているのに気付いた。
近付いてみると、それは明らかに人工物だった。人一人が通れるほどの長方形。鋼鉄のように頑丈そうな扉。
「……マジかよ……」
それは、紛れもなく脱出口だった。
扉にはご丁寧にも『脱出口』と刻まれている。
一瞬、思考が止まった。
あまりにも呆気ない発見に、言葉が遅れて口からこぼれ落ちる。
(……運、良すぎだろ)
今日の自分は、どう考えても出来すぎている。
ここまで他の受験者と遭遇せず、行き止まりの最奥で脱出口に辿り着くなど、出来過ぎにも程がある。
「よし……とりあえず、これで俺も合格——」
胸の奥から、安堵と高揚が一気に込み上げる。
この寂しさとも、緊張とも、ようやくお別れだ。
そう思いながら、脱出口へと一歩踏み出した——
その瞬間だった。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」