転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー32

 私はリーフ・エンドレッド。ソワレル学園の理事長を務めている者だ。

 現在、学園では今年度の入学試験が進行中であり、その様子を私は教師陣と共に見守っていた。

 

 試験会場となっている地下洞窟には、百を超える監視用魔導カメラを密かに設置してある。受験者同士の不正行為や、命に関わる重大事故が起きていないかを監視するためだ。もっとも、ただの監視だけであれば私自らがここに居る必要はない。

 

 私は一人の受験者の動向を、紅茶を片手に静かに追っていた。

 

 「……ふむ」

 

 カメラ越しに映るその少年の名は、サダメ・レールステン。

 少し前、リーヴ村という小さな村で彼と知り合い、今回の入学試験へと直接誘った人物である。私がわざわざスカウトした以上、その実力と資質は、この目で確かめておきたかった。

 

 以前、村を襲撃した賊と対峙する場面を見たことがある。

 もっとも、その時の彼は人質を取られており、思うように動けない状況だった。結果として、私が介入する形で事態は収束したが、彼の本当の力量は測れぬままだった。

 

 「さて……今回は、きちんと見せてもらえるかな」

 

 紅茶をもう一口飲みながら、画面に映る彼の行動を追う。

 サダメは今、単独で行動している。一緒に来た少女とは、どうやら洞窟内で逸れてしまったようだが、彼は合流を諦め、脱出口の探索に専念しているようだった。

 

 ——賢明な判断だ。

 

 今回の試験は、早い者勝ちの形式を取っている。

 重要なのは、仲間意識や情ではない。時間の使い方、判断の速さ、そして割り切りだ。一分一秒を無駄にする行動は、即ち不合格に直結する。

 

 仮に合流できたとしても、脱出口は一つにつき一人。

 二人で探しても、入れるのはどちらか一方だけだ。ここで不用意な優しさを見せれば、最悪の場合、双方が脱出できずに終わる。

 

 悪手である。

 

 彼なら、もしかすると合流を優先するかもしれないと少しだけ思っていたが——

 冷静に状況を見極め、最善手を選べている。その判断力に、私は内心で安堵していた。

 

 「……今更ですけど」

 

 その時、背後から不満を隠さない声が上がった。

 

 「今回の試験、滅茶苦茶ぬるくないですか?」

 

 「ん?」

 

 振り返ると、そこには緋色の髪をした女性教諭が腕を組んで立っていた。

 名はキリヤ・オーヴェン。粗野で口が悪く、だが実力は確か。私の前でも遠慮なく意見を言う、ある意味で貴重な人材だ。

 

 「去年の仮想魔物討伐数ランキングの方が、まだマシだったと思いますけどね。今回なんて、ほとんど運ゲーじゃないですか」

 

 彼女はため息を吐き、さらに言葉を重ねる。

 

 「こんなんじゃ、実力のねえ奴が運良く入学しちまいますぜ? そんな連中がウチの生徒だって知られたら、学園の評判も下がりかねねえ」

 

 遠慮という言葉を知らぬ物言いだ。

 その空気に気付いたのか、近くにいた男性教諭が慌てて口を挟む。

 

 「ちょ、キリヤ先生……さすがに理事長の前でそれは——」

 

 「あ゛あ゛ん?」

 

 一睨みで黙らせる。

 肩を回し、今にも掴みかかりそうな様子を見せるあたり、相変わらず喧嘩っ早い。

 

 (……止めねばならんな)

 

 私は軽く咳払いをし、静かに口を開いた。

 

 「……“運も実力のうち”という言葉があるがね。私は、その言葉を少し違った意味で捉えている」

 

 「……あん?」

 

 キリヤの視線がこちらに向く。

 私は構わず、言葉を続けた。

 

 「去年の記録を覚えているかい? 重症による中退者二十名。不登校者八名。死者、三名。例年と比べても、あまりにも異常な数字だ」

 

 「はあ? そりゃあ、全員実力が足りなかっただけだろ」

 

 即答だった。

 

 「一部はそうだろうね。だが、授業には真面目に食らいついていた生徒も多かったと、私は記憶しているが?」

 

 「うっ……それは……」

 

 言葉に詰まるキリヤ。

 

 「私はね」

 

 静かに、しかしはっきりと告げる。

 

 「彼らは“運がなかった”が故に、あの結果に至ったのだと考えている」

 

 「……?」

 

 その言葉に疑問を抱いたのだろう。

 別の男性教諭が、おずおずと手を挙げて問いかけてきた。

 

 「理事長……それは、どういう意味なのでしょうか?」

 

 私は一度、カメラに映る受験者たちへと視線を戻し、そして微笑んだ。

 

 「いい機会だ。少し、私の考えを話すとしようか」

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