転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー33

 「去年の定期任務のことだがね」

 

 私は一度言葉を区切り、ゆっくりと教師陣を見渡した。

 

 「アクシデントに次ぐアクシデントで、負傷者が多数出た。任務に不測の事態はつきものだ。だが、去年はあまりにも不運が重なりすぎた」

 

 室内の空気が、僅かに張りつめる。

 

 「推定値を大きく超える数の魔物の出現。突発的な自然災害の連続。さらには集団犯罪の件数増加……ここ数年、比較的平穏だったこの国に、立て続けに異変が起きている」

 

 私はそこで一度言葉を切り、静かに続けた。

 

 「私は、この状況を“何かの前兆”ではないかと考えている」

 

 「ッ!?」

 

 キリヤが眉を跳ね上げる。

 

 「それってよ……近いうちに、とんでもねぇことが起きるって言いてーのか?」

 

 「……あくまで私個人の予感に過ぎないがね」

 

 私は即座に断りを入れた。

 

 「だが、仮にだ。異変が今後さらに激化した場合、熟練の冒険者ですら対応に手を焼く事態になるだろう。そんな状況下で、生徒達は任務に就いていた」

 

 誰も口を挟まない。

 

 「不運が重なれば、命を落とす生徒が出てもおかしくはなかった。……実際、そうなってしまった」

 

 沈黙が落ちる。

 

 「……ならよ」

 

 沈黙を破ったのはキリヤだった。

 

 「なんで中止にしなかった? 生徒が死ぬかもしれねぇって分かってたなら、無理に行かせる必要なんてなかっただろ」

 

 その問いは、責めるようでいて、どこか必死さを帯びていた。

 

 「……正直に言おう」

 

 私は視線を落とし、そして再び上げる。

 

 「あの時は、そこまで考えが至らなかったというのもある。加えて、あくまで憶測に過ぎなかった。憶測だけで生徒達を学園内に閉じ込めておくのも、彼らの為にはならないと判断した」

 

 言い訳にはなるまい。だが、事実だ。

 

 「……その結果、生徒達に辛い思いをさせてしまった。その点については、今でも申し訳なく思っている」

 

 「……」

 

 キリヤは何も言わなかった。

 

 「だからこそだ」

 

 私は話を前に進める。

 

 「今年の試験について、私は考えた。去年の二の舞にならないようにするには、どうすればいいのかをね」

 

 「……それが、今回の“運ゲー”試験ってわけか?」

 

 彼女は鼻で笑うように言い捨てた。

 

 気持ちは分かる。実力主義を掲げる学園で、あまりにも異質な試験内容だ。

 

 「私はね」

 

 それでも、私は迷いなく言葉を紡ぐ。

 

 「運とは、実力以上の才能だと思っている」

 

 「……は?」

 

 「どれだけ実力があろうとも、不慮の事故には抗えない。だが、運の良い人間は、奇跡的に助かる可能性がある」

 

 私はカメラに映る受験者達へと目を向けた。

 

 「今、学園に必要なのはそういう人材だ。異変の時代を生き延びられる、運に恵まれた者だと、私は思っている」

 

 「……幸運なんてよ」

 

 キリヤが低い声で言う。

 

 「そう何度も続くもんじゃねぇだろ」

 

 「確かにね」

 

 私は小さく笑った。

 

 「だが、幸運な人間が力を身に着けたらどうなると思う?」

 

 「……」

 

 「私は、とてつもない逸材になると思う」

 

 静かだが、はっきりとした口調で告げる。

 

 「力は、努力すれば磨ける。だが、運は磨くことが出来ない。磨けないものを最初から持っている人間ほど、恐ろしい存在はないと私は思う」

 

 キリヤは腕を組み、しばらく黙り込んだ。

 

 反論は、もう出てこなかった。

 

 それが理解なのか、諦めなのかは分からない。ただ、議論はここで終わりを迎えた。

 

 「まあ、結果は見てのお楽しみだね」

 

 私は再び、試験の映像へと意識を戻す。

 

 サダメ・レールステン。

 彼がどれほどの“運”に恵まれているのか——それもまた、見どころの一つだった。

 

 「もっとも……」

 

 私は小さく呟く。

 

 「運だけで合格できるほど、世の中は甘くないがね」

 

 その直後、彼の映像に変化が走った。

 どうやら脱出口付近で、何らかのアクシデントが発生しているらしい。

 

 はたして彼は、この状況をどう打破するのか。

 

 私は紅茶を置き、静かに画面を見つめ続けた。

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