「死ねっ――――――!!」
「なっ?!」
脱出口へと足を踏み出した、その刹那だった。
前方から突如として、視界を埋め尽くすほどの弾幕が襲いかかってくる。反射的に全身が強張った。ヤバい。判断が一瞬でも遅れたら、確実に蜂の巣だ。
「くっっそ!」
即座に脱兎跳躍《ラジャスト》を発動。地面を蹴り、横方向へ全力で跳躍する。弾丸が空気を切り裂く音が耳元を掠め、背中に冷たい汗が走った。視界の端に、ちょうど良い大きさの岩が映る。あそこだ。
着地と同時に岩陰へと滑り込み、体を丸めて身を隠す。直後、岩に無数の弾丸が叩きつけられ、乾いた金属音と破砕音が連続して響いた。
「はあ……はあ……あっぶね……」
荒い呼吸を必死に整えながら、背中を岩に押し付ける。
今のは何だ? トラップか? 脱出口付近に仕掛けられた自動迎撃装置……? いや、違う。あまりにも殺意が高すぎる。警告や牽制の域じゃない。明確に“殺し”に来ていた。
受験者同士の殺害行為は禁止されているはずだ。あの弾幕を真正面から食らっていたら、即死していてもおかしくなかった。どうなっている、この試験。
「ちっ、仕留め損なったか。ゴミの分際で私の攻撃を避けるとは……生意気だな」
「ぶへへっ。まあまあ落ち着けよ、パット。せっかくなんだ、じっくり甚振ってやろうじゃないか」
岩陰で歯を食いしばっていると、二人分の男の声が耳に届いた。
……人の声? じゃあ、今のは学園側の仕掛けじゃない?
混乱しながらも、そっと岩陰から顔を出し、様子を窺う。
「ッ……?!」
次の瞬間、背筋が凍り付いた。
脱出口の前に立っていた二人の男。
そいつらは――昨日、ミオを無理やり連れて行こうとした、あの貴族気取りの連中だった。
「……あいつら……」
思わず低く呟く。なんで、あいつらがここに居る?
貴族は今回の試験に参加していないはずだ。ソワレル学園は二系統に分かれており、貴族は魔法学園ではなく、別枠の通常学園に進学する。表向きは貴族学校だが、実際の魔法学園は平民主体――そんな話を聞いている。
つまり、あいつらがこの洞窟に居る時点でおかしい。
まさか、貴族ですらなかったのか? あの煌びやかな服装、尊大な態度……全部ただのハッタリだったってわけか。
「……チッ」
思い返すほど腹が立ってくる。見せかけだけのクソガキ共め。
状況を整理する。
洞窟の端に脱出口が一つ。自分はそれを発見し、脱出しようと近づいた。すると突然、あいつらに発砲され、今は岩陰に身を潜めている。
つまり――あいつらは、脱出口を独占している。
「おい。いつまでそこに隠れているつもりだ、ゴミ」
「……」
太った方の男が、嘲るような声で呼びかけてくる。相変わらず、人を下に見る口調だ。まだ貴族を演じるつもりらしい。
「出てこないなら――」
男はニヤつきながら、両手で構えた機関銃をこちらに向けた。
「この魔装シリーズ№1339【蜂の巣《ビーハイブ》】で、その岩ごと貴様の全身を穴だらけにしてやるぞ!」
銃身がこちらを捉える。
冗談じゃない。あいつら、本気で殺す気だ。
……さて、どうする。
正面から出れば撃たれる。だが、ここで引けば脱出口は諦めることになる。しかも、ミオのことを考えれば――このまま黙って引き下がるわけにはいかない。
岩陰で、ゆっくりと拳を握り締めた。