魔装シリーズ。
詳しい仕組みまでは知らないが、都心部では近年、自身の魔力を流し込むだけで魔法を行使できる武器が普及し始めている、という話を聞いたことがある。魔力操作の訓練を受けていない者でも、ある程度の威力を引き出せる代物。恐らく、奴が手にしている魔装シリーズとやらが、まさにそれなのだろう。
目の前にあるのは、漫画や映像作品で見たことのあるような、いわゆる“クソデカい機関銃”。
黒光りする艶のある装甲に、禍々しい装飾。無骨でありながら、どこか誇示するような造形が、ただの武器ではないことを雄弁に物語っている。
あんなものを真正面から撃ち込まれたら、ひとたまりもないだろう。
名前の通り、全身を蜂の巣にされて終わりだ。
……そう考えると、あの銃に【蜂の巣《ビーハイブ》】なんて名前を付けた人間は、相当性格が悪い。悪趣味にもほどがある。
それはさておき、問題は別にある。
――なぜ、あいつらがこの試験会場に居る?
貴族のフリをしていた可能性も考えたが、それにしては態度が度を越している。
ナンパ目的で貴族の真似事、という線も無理があるし、そもそもあの武器だ。いくら都会暮らしとはいえ、一般人、ましてや未成年が簡単に買い与えられるような代物ではないはずだ。
ということは、貴族という立場自体は嘘ではなかった?
そう考えると、ますます訳が分からなくなる。貴族なら、なおさら今回の試験に参加している理由が説明できない。
「……なんで、お前らがここに居る?」
どうしても引っかかりを覚えた自分は、岩陰に身を潜めたまま問いかけた。
状況を整理するためにも、少しでも時間を稼いでおきたい。答えが返ってくるかどうかは別として。
「あん?」
だが、返ってきたのは、不機嫌そうな声だけだった。
「ふん、ゴミの分際が。また私を恥ずかしめる算段か? 同じ手が通用すると思ったかー!」
「ちっ!?」
太った方の男は、こちらの問いなど意にも介さず、機関銃の引き金を引いた。
次の瞬間、凄まじい銃声とともに、岩へと弾丸が叩きつけられる。どうやら、岩ごと粉砕するつもりらしい。
……やっぱり、昨日の件をまだ根に持ってやがったか。
そもそも、向こうからすれば質問に答えるメリットなんてない。無視されるのは想定内だ。だが、だからといって機関銃を乱射するのは明らかにやりすぎだろう。
岩が徐々に削られていく感触が、背中越しに伝わってくる。
このままでは、本当に岩ごと蜂の巣にされる。
そう判断した自分は、再び脱兎跳躍《ラジャスト》を発動し、その場を離脱。弾丸が飛び交う中、元来た道へと駆け出した。
状況は圧倒的に不利だ。
ここは一度引くべきだろう。
――だが、走りながらも、どうしても頭から離れない疑問があった。
あいつらが脱出口の前に居る理由だ。
受験者であれば、脱出口を見つけた時点で入ればいい。
一人限定とはいえ、二人居るならどちらか一人が脱出すればそれで済む話だ。あの様子を見る限り、言い争っているようにも見えなかった。
つまり、あいつらは二人で一つの脱出口を“防衛”していたことになる。
……なぜだ?
妙な違和感が、胸の奥に引っかか――
「ぶへへっ。私達から逃げられると思うなよ、ゴミの分際がー!!」
「なにっ?!」
思考を遮るように、突如として目の前に白い物体が現れた。
宙に浮かぶそれは、どう見てもドローンのような形状をしている。
この世界にドローンが存在していること自体が驚きだったが、それ以上に問題なのは――
ドローンの下部から、銃器らしきものが展開されたことだ。
「……マズい」
嫌な予感が確信に変わる。
このドローン、武器まで搭載してやがる。
「ぶへへへへっ。今度こそ――死ぃねっーーーーー!!!!!」
ドローンの銃口が、こちらを正確に捉えた。